ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長らと言葉を交わすトランプ大統領(21日)=ロイター
米トランプ政権が発足直後に打ち出した人工知能(AI)政策に、日本政府内には期待と懸念が入り交じる。
AI投資を強力に進める戦略にはおおむね歓迎する声が広がるものの、米国企業による市場独占の加速や、AI規制の緩和には警戒感もにじむ。
「次世代デジタル分野での日米連携の象徴になる」。経済産業省幹部は政権発足直後にトランプ大統領が発表した、ソフトバンクグループ(SBG)や米オープンAIなどによる米国でのAI投資計画を歓迎した。
4年間で5000億ドル(約78兆円)を投じる巨額プロジェクトだ。米新政権は国内の雇用への貢献や、経済安全保障上の中国への対抗の観点からもAI産業の育成に力を入れるとみられる。
これまでも日本は米国とは半導体やAI分野で連携してきた。米大手の日本拠点の設立を後押ししたほか、官民挙げて最先端半導体の量産に向けて支援するラピダスも米IBMの技術を基盤としている。
米国のAIの開発加速はこうした流れに基本的には追い風だ。従来は両国の連携が日本にメリットが大きい構図だったのに対し、SBGなどの計画は「日本による米経済への貢献を示す好機」(経産省幹部)ともいえ、新政権との関係構築の足がかりになるとの見方も多い。
米国はAI開発で世界をリードする。米スタンフォード大の2023年の国別ランキングでは首位が米国で、2位中国、3位英国と続く。
総務省の情報通信白書によると、23年に新たに資金調達を受けたAI関連の企業数は米国が897にのぼり、他国を圧倒する。
AIを含めたIT分野で米国の競争力がますます高まれば「日本にとってはデジタル赤字の拡大につながる」(経産省幹部)との懸念もある。
クラウドサービスなどの米企業への依存もあり、日本のデジタル関連の国際収支は23年は5.3兆円の赤字で、拡大傾向にある。
円安が続いており、米企業向けの支払いが増えれば、日本企業にとっては経営の重荷となる。
日本市場をさらに米国勢が席巻しかねず、政府内には「日本のAI開発も急務だ」との声が上がる。
トランプ氏はバイデン前大統領によるAI規制の大統領令も撤回した。AIの安全性に関して一部事業者に管理義務を課していた。
日本政府は今国会で権利侵害など悪質なAIに対し、政府に調査権限を付与する法案を提出する方針だ。ただ罰則はなく、企業側の協力をどこまで得られるかがカギを握る。
海外事業者も対象にする方針だが、米国の事業者が本拠地を置く自国の規制が緩むことで日本政府への協力姿勢が消極的になる可能性も浮上する。
2025年1月20日(現地時間)にドナルド・トランプ氏が再びアメリカ大統領に就任。政権の行方など最新ニュースや解説を掲載します。
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