法人向けイベントで講演するソフトバンクグループの孫正義氏(10月3日)
ソフトバンクグループ(SBG)は12日、2024年4〜9月期の連結決算を発表する。世界的な株高や投資先の新規株式公開(IPO)を背景に、業績は安定基調にある。
5兆円規模に増えた「軍資金」を生かして孫正義会長兼社長の「人工知能(AI)戦略」が動き出す。
12日午後4時30分から東京都内で決算記者会見を開き、後藤芳光・最高財務責任者(CFO)が業績や事業戦略を説明する。
連結最終損益(国際会計基準)は市場予想(QUICKコンセンサス)で423億円の黒字と、前年同期(1兆4087億円の赤字)から改善する見通しだ。
孫氏「次の大きな一手に向けて数兆円」
孫氏は10月29日、サウジアラビアで開かれた投資会議に登壇し「次の大きな一手に向けて数百億ドル(数兆円)」を準備していると話した。
人間の1万倍の知性を持つ人工超知能(ASI)が2035年までに実現するとの見通しについても熱弁を振るった。
サウジアラビアで開かれた投資会議に参加した孫氏(10月29日)
22年度に中国アリババ集団株を資金化して蓄えた手元流動性は6月末時点で4.6兆円と高水準を保ち、足元では主に借り換えを目的に社債やローンによる資金調達も継続している。
孫氏は約9割の株式を保有する英半導体設計アームをAI戦略の中核に位置づけている。水面下ではAI向け半導体を開発・製造するほか、データセンター、ロボット、電力に事業を広げる構想を温める。
SBG傘下のビジョン・ファンドによる新規投資も実業との連動性が鮮明になり始めた。1
0月には対話型人工知能「Chat(チャット)GPT」を開発した米オープンAIに5億ドル(約770億円)を投資した。孫氏はサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)と日常的にチャットし、近い距離を保ってきた。
孫氏はオープンAIが9月に公開した新AIモデル「OpenAI o1(オーワン)」を「AIが考える能力を持った。ノーベル賞ものだ」と絶賛していた。
オープンAIと事業上の相乗効果を高めれば、最新の推論型AIに対応した半導体の開発に乗り出しやすくなる。
7月にはSBG自ら、AIの演算処理を高速化できる半導体チップを開発する英新興のグラフコアを完全子会社にした。買収額は非開示だが6億ドル強とされる。
SBGは個人の遺伝子情報や医療データをAIで解析するサービスを立ち上げるなどAIを生かした新規事業も増やす構えで、投資先企業の技術力も活用するとみられる。
投資先の米WizなどIPO予備軍も
ビジョン・ファンドを通じて世界のAI関連企業に投資している。投資先企業の価値を四半期ごとに評価し、含み損益の動向を損益計算書(PL)に反映させる。
このためSBGの業績はビジョン・ファンドによる投資先のIPOや、すでに上場した企業の株価で大きく変動する。
ビジョン・ファンドの投資損益は2四半期連続で黒字になる見込みだ。
韓国の電子商取引(EC)最大手のクーパンや、中国配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)の株価が堅調だった。インド市場でも電動二輪車大手オラ・エレクトリック・モビリティーなどの投資先が次々とIPOをしており、ファンドの業績は安定し始めている。
4〜6月期にビジョン・ファンドを通じて投資したイスラエル発のサイバーセキュリティーの新興企業で現在は米国を拠点とするWiz(ウィズ)は、グーグル親会社のアルファベットから約230億ドルで買収交渉を持ちかけられたが、断ったとされる。
ウィズのダリ・ラジッチ社長兼最高執行責任者(COO)は「IPOはそれほど遠い時期ではない」と話す。
アーム核にエヌビディアに挑む
約9割の株式を握るアームの株価上昇によりSBGが最も重視する指標である保有株式価値から純有利子負債を差し引いた時価純資産(NAV)は6月末時点で35兆円と23年3月末の14兆円から急増した。
これに対して時価総額は当時15兆円と5割強割り引かれていた。7〜9月のアーム株の値動きは軟調だが、NAVは依然高水準とみられる。
SBGが狙うAIを主軸とした実業を巡っては、GAFAや米半導体大手エヌビディアを含めた世界のテック大手も成長市場とみて相次ぎ参入している。
仏系資産運用会社コムジェスト・アセットマネジメントのリチャード・ケイ氏は「GAFAに軍資金の規模で勝つのは難しいとしても、子会社のアームやグラフコアを通じて先端技術を生かせる。
アジアの提携先も増やしやすい」と話す。SBGが世界で技術革新を主導できるのか正念場といえる。
(四方雅之)