16歳以上であれば、免許がなくても乗れる――。電動キックボードなど特定小型原動機付き自転車(特定小型原付き)が増えてきた。
排ガス規制の強化により、国内の50ccの原付き生産が終了する。原付きに代わる身近な足として使えるか。免許を持たない記者が安全性など課題をチェックした。
記者は自動車業界を担当しているが、実は運転免許を取得したことがない。免許を持たないからこそ感じる自動車の魅力や課題を等身大で伝えてきた。
そんな私でも運転できる原付きが登場した。2023年の道路交通法の改正で、特定小型原付きの区分が誕生した。最高時速20キロメートルなどの制限内であれば、16歳以上なら免許がなくても乗れる。
電動キックボードが全国に増えている(写真はループの電動キックボード)
特定小型原付きは電動キックボードがよく知られているが、最近はバイクや自転車タイプなど種類が増えてきた。その特定小型原付きの試乗会があると聞きつけた。
免許を持たない私が使いたいと思うものなら、きっと普及するはず。いつもは助手席に座るばかりの私が今回は「主役」となって、実際に乗って検証してきた。
イーフリーは見た目は自転車、走りはバイク並み
e-FREEは自転車よりも小さい(8月、東京都内)
まず向かったのは「e-bike UENO(イーバイクウエノ、東京・台東)」。自転車のような見た目の「e-FREE(イーフリー)」は、ずいぶんきゃしゃな車体だ。
全長は1メートル25センチと自転車の7割程度で、ハンドルを折りたたむと車のトランクに積み込める。
小型サイズでも、何とフル電動で30キロ走る。担当者に聞くと、細い車体の中に電池が隠されているという。
操作は自転車のようなペダルはなく、グリップ部分をひねるだけ。安全の観点から担当者に勧められたヘルメットをかぶり、おそるおそるグリップ部分をひねると、スーッと静かに動き始めた。
グリップ部分をひねると前進する(写真はe-FREE)
真っ先に感じたのは爽快感だ。快晴だったが息が上がったり汗まみれになったりすることなく、5キロメートル先の目的地に快適に到着した。
課題は操作性と感じた。操作に慣れるまで少し時間がかかった。
降りる時に電源オフを忘れて車両が前進して転んだり、信号待ちで無意識にグリップ部分をひねって急発進したりしてしまった。
回数を重ねて慣れるまでは、ゆっくり操作することが大事だろう。
フューチャーはバイク型で安定性が特徴
次にスタートアップのFuture(フューチャー、東京・港)が販売する「フューチャーボード2」を試乗した。
幅約60センチ、重さ46キログラムと大きく、見た目は出前のバイクのようだ。
いくら免許がなくても乗れるといっても、バイクタイプには少したじろいだ。そんな私を井原慶子最高経営責任者(CEO)は「小柄な女性や若者でも、営業や配達などで安全に使ってもらえる」と背中を押してくれた。
バイク型の特徴は安定性という。14インチ(約36センチ)の大きな前輪や足元に積み込んだバッテリーで安定性を高めた。サスペンションで振動を減らし、長時間乗っても疲れにくいようにした。
車体が重くて大きいため、押してみると小回りは利きにくいように感じた。だが、実際に走り出すと最初はふらつきはしたが、ボードの上に足を置くことで安定して乗ることができた。すぐに私でも景色を楽しむ余裕が出てきた。
フル充電で何と最大200キロメートルも走るという。原付きだと走行距離は200〜400キロメートル程度。これなら原付きの代わりとしても使えそうだ。
特定小型原付き関連の事故が増加
免許を持たない記者も、簡単に特定小型原付きを運転できた。だが、手軽さだけを過信してはいけない。関連する事故が増えている。
電動キックボードで夜の街を走る人(東京都内)
2023年7月〜24年6月で特定小型原付き関連の事故件数は全国で219件。そのうち9割超がレンタル中の事故で、5割超を20歳代が占める。交通違反の検挙数は2万5156件に上り、約6割は走ってはいけない場所を走行した違反だ。
レンタルサービスの多くは身分証明書の登録や、交通ルールに関する試験だけで借りられる。記者は事前に交通マナーや使い方を学んだが、知らぬ間に危険運転をする人も出てくるだろう。
特定小型原付きは50cc原付きに代わる手軽で便利な乗り物になると実感した。だが、「誰でも乗れる」という危険性を軽視せずに使うことが大事だ。安全ルールの徹底は50cc原付きも特定小型原付きも変わらない。
(大倉悠美)
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日経記事2024.11.14より引用