訓練するヒズボラの戦闘員(2023年5月)=ロイター
【ドバイ=岐部秀光】
イスラエル軍がレバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラの指導者、ナスララ師を殺害した。
報復は必至で全面衝突の懸念が高まる。パレスチナ自治区ガザに続き収拾が困難な「第2の紛争」の戦線が開かれた。
地域大国イランの支援を受けるヒズボラは世界最強の非国家武装組織といわれる。
米戦略国際問題研究所(CSIS)によると12万〜20万発のミサイルやロケットを保有する。イラン製の最大射程500キロのスカッドミサイルはイスラエル最南部のエイラットをも攻撃範囲におさめる。多数の攻撃用ドローン(無人機)もある。
イスラエル軍の包囲をかいくぐって部品を密輸し自前でミサイルを組み立てたガザのイスラム組織ハマスと異なり、洗練された兵器の破壊力は比べものにならない。
イスラエルの多層式ミサイル防衛システムを一部は突破する可能性がある。
イスラエル軍は7月にヒズボラのフアド・シュクル司令官、9月にイブラヒム・アキル司令官ら軍事作戦の実行を命じることができる人物を相次いで殺害した。
ヒズボラは組織弱体化に危機感を抱いているとみられる。
ヒズボラがミサイル報復に踏み切ればイスラエルは地上侵攻の口実とする可能性がある。イスラエルは作戦継続を示唆しておりレバノン南部やベカー高原にあるヒズボラの拠点を一気に破壊する考えとみられる。
ヒズボラは2023年10月にガザで始まったハマスによるイスラエルとの戦闘に連帯を示す形で、イスラエルと限定的な交戦を重ねてきた。この10日間で一気にエスカレートした。
イスラエルは国内北部でヒズボラの脅威から逃れるために避難する人々が安全に帰還できるようにすることを目標に掲げる。だがレバノンにおける具体的な軍事目標ラインは明らかではない。
ガザとレバノンで同時に進行する戦闘を止めることは一段と難しくなる。イスラエル軍によるヒズボラ本部への空爆は米国とフランスが停戦に向けた外交に着手した直後に起こった。
ガザの停戦協議は米国やカタール、エジプトが仲介役を務めたが、ヒズボラとの停戦協議ではイランの関与が不可欠になる。11月の大統領選が目前に迫る米国の指導力には大きな期待ができない。
イランの今後の動向は大きなカギを握る。ヒズボラはイランが後押しする様々な民兵組織の連合である「抵抗の枢軸」の要となる組織だ。
イランとイスラエルとの関係も一段と緊張するのは確実だ。
ロイター通信によると、イラン最高指導者ハメネイ師は28日、厳重な警備体制が敷かれた安全な場所に移動した。イランがイスラエルに対しかつて想定しなかったほどの不信感と警戒を抱いていることを示す。
イランはイスラエルとの直接衝突を望んでいないとみられるが、偶発的な形で戦闘に巻き込まれていく懸念はくすぶる。米国もまたイスラエル支援のために望まない中東の戦火に引き戻される可能性が否定できない。
パレスチナのイスラム組織ハマスが2023年10月7日、ロケット弾や戦闘員の侵入によってイスラエルへの大規模な攻撃を仕掛け、イスラエルが報復を開始しました。最新ニュースと解説記事をまとめました。
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