ゼレンスキー氏は米側の提案を拒否した
(12日、キーウで開いたベッセント米財務長官との会談後の共同記者会見)=ロイター
トランプ米政権が、ロシアの侵略を受けるウクライナへの軍事援助の見返りとして求める同国のレアアース(希土類)などの鉱物資源供給を巡る交渉が難航している。
ウクライナ側は15日、米側の提案を拒否したと発表。両者の立場の隔たりを印象づけた。
バイデン前政権時の支援を「無駄」と批判してきたトランプ大統領は、ウクライナの資源獲得を実績にしようと狙ってきた。破談になれば軍事支援を打ち切り、ロシアを利する懸念も浮上する。
「我々と我々の利益を守る用意ができていない」。ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、米国が提示した鉱物資源協定の署名を見送ったと発表した。
協定はウクライナを訪問したベッセント米財務長官が12日にゼレンスキー氏らに提示した。米主要メディアによると、ウクライナが将来的に自国の鉱物資源権益の5割を米国に与えるのが柱だった。
ウクライナが期待していた米国による安全保障提供に関する条項は盛り込まれなかった。ウクライナメディアによると、同国が一方的に譲歩する色彩が濃い内容だったという。
トランプ氏は大統領選の期間中、ウクライナへの巨額支援の継続に否定的な姿勢をみせてきた。ハイテク部品に不可欠で世界的な争奪戦になっているレアアースの提供を求めたのは、支持者から軍事援助の継続への理解を得る狙いがあった。
そうした事情を知るゼレンスキー氏もトランプ氏の顔を立て、前向きに検討する考えを示していた。
トランプ氏は10日放送の米FOXニュースで「5000億ドル(約76兆円)相当のレアアースが欲しいと伝え、ウクライナ側は原則的に同意した」と主張していた。
軍資支援巡る認識に隔たり
交渉が難航する背景には、軍事支援に対する両氏の考え方の隔たりがある。
トランプ氏は従来の軍事援助を「巨額のムダだ」と批判し、ウクライナからの資金回収を訴えてきた。同国の一方的な資源提供を求めているのはこのためだ。
一方、ゼレンスキー氏はウクライナ援助を西側の民主主義陣営をロシアから守るためのコストと主張し、バイデン前政権や欧州諸国もこれに同意していた。
最前線で血を流して西側陣営を守っているウクライナは援助を受けて正当との立場を崩していない。
トランプ政権はウクライナ側との交渉で、資源権益の供与に伴う米国企業の巨額投資が将来的にウクライナの安全保障につながると訴えているようだ。
同国での米国の権益が膨らむほど、米政権が長期的にウクライナを外敵から守る動機づけが強まるとの理屈だ。
AP通信によると米国家安全保障会議(NSC)のブライアン・ヒューズ報道官は声明を出し、ゼレンスキー氏が協定について「近視眼的」になっていると批判した。「
米国との緊密な経済関係は将来の侵略に対する最良の保証だ」と指摘した。
ただ、ウクライナ側には将来、ロシアが再侵略した際に、米国がロシアと直接交渉して自らの権益を守りかねないとの疑念すらくすぶる。
米国の資源投資が平和維持に直結するとの認識は広がっていない。
ウクライナ、対案を近く提示へ
ウクライナ側は近く、トランプ政権に対案を提示する方針だ。最大の援助国である米国には資源開発の優先権は与える一方、米国による安全保障の提供に言及する内容になるとみられる。
資源開発には長期投資が必要なうえ、ウクライナのレアアースの多くはロシアの実効支配下にある東部地域に埋蔵されている。
米フォーブス誌(ウクライナ語版)は23年、同国の鉱物資源の確認埋蔵量の7割は東部のドネツク、ルガンスク、ドニプロペトロフスクの3州にあると推定した。
協定を結んでもロシアの支配地域の採掘は現状では難しく、前線に近い地域の資源開発にも大きなリスクを伴う。
ウクライナにはチタンやリチウム、ウランの鉱床があるが、いずれも産出量で世界5位にも入っていない。欧州主要国の高官は「ロシアの再侵略シナリオが取り沙汰される状態では投資熱は高まらないだろう」と語る。
(ウィーン=田中孝幸、ミュンヘン=飛田臨太郎)
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