イエレン米財務長官はロシア向けの新たな金融制裁を公表した=ロイター
【ブリュッセル=辻隆史】
米財務省は21日、ロシアの大手銀行ガスプロムバンクなどへの新たな制裁を正式発表した。
エネルギー取引で主要な役割を担う同銀への制裁にこれまで慎重だったが、ウクライナでの早期停戦を掲げるトランプ次期米大統領の就任前にロシアに対して厳しい姿勢を示すべきだと判断した。
ガスプロムバンクはロシア国営の天然ガス企業ガスプロムの傘下で、三井物産や三菱商事が参画するロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」などの資金決済に関わる。
米財務省はサハリン2に関わる決済は2025年6月まで例外扱いで制裁の対象外にすると明示した。
林芳正官房長官は22日の記者会見で、サハリン2について「日本への供給量の安定的な確保に支障をきたさないよう万全を期す」と強調した。
新たな制裁対象にはいずれもロシア籍の金融機関で、50行以上の銀行と40社以上の証券会社を含む。ロシア中央銀行の幹部ら15人も加えた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日「ロシアの軍事資金を標的とした今回の強力な金融規制について、バイデン大統領に感謝する」とX(旧ツイッター)に投稿し、米国の決定を歓迎した。
米国は22年のロシアによるウクライナ侵略後もロシア産のガスを輸入していた欧州連合(EU)などに配慮し、ガスプロムバンクへの本格的な制裁を控えていた。
制裁対象になれば、実質的に国際金融取引から排除されガスの貿易などは難しくなる。トランプ氏はウクライナでの停戦協議に意欲を示す。
交渉過程で制裁の緩和も議題になりかねない。バイデン政権は交代前に「駆け込み的」に強い制裁を科す方針に傾いたようだ。
ロイター通信によると、ガスプロムバンクはエネルギー分野だけでなく、ロシア政府がウクライナ侵略に必要な物資を購入する上でも重要な役割を果たす。
同銀は兵士への給与の支払いや死亡した兵士の家族への補償の窓口にもなっている。
イエレン米財務長官は同日「ロシアが米国の制裁を回避し、軍事活動の資金や装備を調達することがより困難になる」と制裁の狙いを語った。
「米国単独でも新たな制裁を科したい」。米国は水面下で事前にEUや主要7カ国(G7)の関係当局に意向を伝達した。
慌てたのは日本政府だ。ガスプロムバンクへの制裁で米銀が取引から手を引けば、米銀経由でのサハリン2などへの送金手段が使えなくなるおそれがあった。
日本政府は当初、EUと組んで米国に制裁自体の見送りを要請する案も検討した。その後、米国側の方針を覆すのは難しいと判断し、財務省幹部らが例外扱いの獲得に奔走した。
最終的に米国の発表間際で交渉が成立した。サハリン2関連は制裁を免れたが、ロシアと取引を続けるリスクが改めて露呈した。
ロシアから天然ガスの購入を続ける欧州にも制裁の影響は及ぶ。ロシア産に頼るハンガリーの外務省は、米国の制裁が輸入や決済に与える影響を精査すると発表した。
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2022年2月、ロシアがウクライナに侵略しました。戦況や世界各国の動きなど、関連する最新ニュースと解説をまとめました。
日経記事2024.11.22より引用