トランプ氏は貿易赤字の拡大を関税引き上げの理由にあげている=AP
【ワシントン=高見浩輔】
米国の貿易赤字が膨らんでいる。米商務省が5日公表した貿易統計によると、2024年の貿易赤字はモノの取引で1兆2117億ドル(約180兆円)と過去最大を更新した。
第1次トランプ米政権以降、米国は対中国を中心に関税を引き上げてきたが、米経済の成長に加え、第三国を迂回した輸入の増加などで赤字の拡大が続いている。
第2次トランプ政権はカナダやメキシコに25%の関税を課す方針を示し、中国に対しては4日から10%の追加関税を課した。
ただ、こうした関税のさらなる引き上げが、トランプ氏が問題視する赤字の縮小につながるかは不透明といえる。
米国はトランプ政権下の18〜19年に鉄鋼や中国製品への関税を相次ぎ引き上げた。米ピーターソン国際経済研究所によると中国製品への実効関税率は18年初の3.1%から19年9月には21%に達した。
バイデン政権は当初は対中関税の引き下げを主張したが、最終的にほぼすべてを維持した。米政府の24年の関税収入は829億ドルと17年比で2.2倍に増えた。
関税を引き上げた中国との24年の貿易赤字は2954億ドルだった。
国別では最も大きかったものの赤字額は17年から2割圧縮された。輸入額は23年にメキシコに抜かれ、17年ぶりに首位から陥落した。高関税の影響が出ているのは確かだ。
それでも全体の貿易赤字が減らなかったのは、ほかの地域からの輸入が急増したためだ。欧州連合(EU)との貿易赤字は1.5倍の2355億ドル、メキシコは2.3倍の1718億ドルになった。ベトナム、台湾などからの輸入も大きく増えた。
中国以外の国から迂回して輸入する取引が増えたとみられる。米ゴールドマン・サックスのジョセフ・ブリッグス氏は23年で300億〜500億ドル規模と試算する。メキシコなどでは企業が米国近くに生産拠点を置く「ニアショアリング」も進んだ。
上位の国で赤字が増えていないのは対日貿易のみだった。日本は24年は米国から電算機類や航空機のエンジン部品などの輸入を増やした。
米国の製造業の就業者数は17年1月から24年12月にかけて4%増にとどまった。
農業部門を除く全体の雇用に占める比率は8.1%で0.4ポイント低下した。トランプ氏が関税で企図した産業の国内回帰が十分な成果を上げたとは言い難い。
トランプ次期政権はさらなる関税の引き上げで、こうした流れに対処しようとしている。トランプ氏はメキシコ、カナダ、中国のほか、欧州連合(EU)に対しても関税を課すと表明済みだ。
迂回による輸入などを防ぐためには、全世界一律の関税が有効との見方もある。トランプ氏が一律関税を唱えるのはそのためだ。
もっとも、対象国や品目を限定しない関税は米経済にとって、コスト増などにつながるもろ刃の剣となる。
トランプ氏がカナダ製品への25%関税を迫るなか、与党・共和党の上院議員が指摘したのは農産物の肥料になる炭酸カリウムの問題だった。米国はカナダ産に頼る部分が多く、農業の現場に混乱が生じると警鐘を鳴らした。
世界経済フォーラムの貿易に関する世界未来評議会(GFCT)は「貿易赤字は必ずしも悪いことではなく、貿易政策や協定が公正か不公正かを判断する基準にもならない」との見解を示す。多くの経済学者がこの考えを支持する。
それでも米国では、製造業が集積するラストベルト(さびた工業地帯)が大統領選や中間選挙で重要な激戦州となり、労働者向けの分かりやすい支援策に傾く力学が働く。トランプ氏は貿易赤字を相手国への「補助金」と呼び、関税で解消を迫る姿勢を崩していない。