記者会見する日産自動車の内田社長㊧とホンダの三部社長(2024年12月、東京都中央区)
ホンダは前提となる日産の事業再構築が不十分と判断し、主導権をとるために子会社化を打診した。それが対等での統合を考えている日産の反発へとつながり、両社の溝は埋まらないほど深くなった。
世界3位連合になる構想は振り出しに戻ったが、変革期にある自動車業界で単独で生き残るのは簡単ではない。
「この条件では受け入れがたい」。日産の経営幹部は3日、統合協議を取りやめる方針を確認した。5日には臨時の取締役会を開いた。
日産社内では協議継続に否定的な意見が大勢を占めるようになっており、2024年12月にホンダと結んだ経営統合に向けた検討に関する基本合意書を破棄する方針を固めた。
ホンダ、甘いリストラ案に不満
両社の間の溝が深まったのは25年の年明けからだ。
ホンダの三部敏宏社長は24年12月の基本合意の発表時から統合の前提として、日産の「ターンアラウンド(事業再生)が条件」と明言してきた。
日産は米国でのハイブリッド車(HV)投入が遅れ、業績が低迷している。商品力の低下でディーラーに支払う販売奨励金が増え、QUICK・ファクトセットによると、25年3月期の車事業の営業損益は2424億円の赤字(前期は2215億円の黒字)に転落する見通しだ。
ホンダは日産に対し、1月末までにリストラ策をまとめるように求めていた。日産は1月に米国の完成車の生産量約25%削減などを打ち出したが、ホンダには再生につながる策に映らなかった。
「今のままでは全然足りない」と、ホンダ幹部らは、日産経営陣への不満を募らせた。そこで日産の人事権を持ち、意思決定を速めることを考えた。
25年に入って、持ち株会社方式から、買収によってホンダが日産を子会社化する方式を打診したが、これが両社の溝を決定的にした。
日産、子会社化案に反発
時価総額ではホンダが日産を大きく上回るが、統合発表時に三部社長が「日産の救済ではない」と明言していたこともあり、日産にはあくまで対等の関係との意識が強かった。
ホンダの24年3月期の売上高営業利益率は7%だが、二輪事業(17%)の貢献が大きく、四輪事業は4%にとどまる。日産からみれば企業価値の差は二輪による部分が大きいとの考えもあり、ホンダの子会社になる提案は受け入れられない条件だった。
そもそも両社が統合への協議入りに至った背景には自動車業界の構造転換がある。
電気自動車(EV)では比亜迪(BYD)など中国メーカーが台頭し、日本勢が強かった東南アジア市場での販売を増やしている。
中国勢は自動運転技術などでも存在感を高め、日本勢の収益基盤を揺るがしつつある。ソフトウエアなど車の競争力を左右する領域も広がる。単独では開発費の増加をまかなえない環境にもなりつつある。
ホンダと日産の23年の販売実績を合算すると700万台以上となり、日産が筆頭株主の三菱自動車を足すと800万台を超える。統合によって、トヨタグループや独フォルクスワーゲン(VW)グループに次ぐ世界3位の巨大連合になり、規模の利益を確保する狙いだった。
北米や中国など販売地域の重複もあるが、24年12月の記者会見で日産の内田誠社長は「重なっている方が様々なシナジーが生まれる」との期待を示していた。プラットホーム(車台)の共通化や研究開発機能の統合、生産拠点の適正化など7分野での統合効果が得られるとしていた。
四輪の利益率、トヨタに見劣り
統合を見送れば、両社は単独での生き残りを模索することになる。
ただ、ホンダと日産の四輪事業はともにトヨタ自動車に比べ採算が低い。24年3月期の事業別の売上高営業利益率でみた場合、トヨタの11%に対し、ホンダは4%、日産は2%にとどまる。
ホンダは二輪と金融が収益の柱で、日産も金融が支える。
日産が持つ現金などの手元資金(自動車事業)は24年9月末に1兆4384億円と、同年3月末と比べ6000億円近く減った。
26年3月期に自動車事業の社債、約5800億円の償還が迫っており、電動化や知能化投資などを進める資金調達も必要となる。
金融機関からは「日産から本気度が感じられなかった。より危機感を持つ必要があり、善後策を検討する必要がある」(大手銀行幹部)との声もあがっている。
5日の東京株式市場では日産株が急落した。前日比1%高程度の推移から5%安に転じた後に売買停止となり、そのまま前日比19円80銭(5%)安の386円90銭で取引を終えた。
アイザワ証券投資顧問部の三井郁男ファンドマネージャーは日産株について「新たなスポンサーが現れる可能性よりも、ホンダとの合意撤回により、自力で抜本的なリストラ策が打てず、当面は収益改善が難しくなったとの印象が先行した」という。
ホンダ株は一時12%上昇し、終値は113円50銭(8%)高の1500円となった。三井氏は「日産を抱えて財務の負担が増す懸念がなくなった点が好感された」と話すが、先行きは楽観できない。
ホンダは40年に世界で販売するすべての新車を排出ガスが出ないEVや燃料電池車(FCV)などの「ゼロエミッション車」にする方針を掲げる。商品群の抜本的な転換を図るが、単独で開発していく負担は重い。
ホンダが日産との協議に先駆けて協業を探ってきたのが米ゼネラル・モーターズ(GM)だ。13年からFCVなどの共同開発に取り組み、24年に発売した多目的スポーツ車(SUV)のFCVは折半出資した米合弁会社が製造する。
ただ量産価格帯のEVを27年以降に投入する計画は、23年に白紙撤回となった。コスト削減などの相乗効果が限定的だった。自動運転タクシー分野でも直近、GM子会社と資本提携を解消した。
三菱自動車も戦略練り直し
日産が筆頭株主で、統合の枠組みに加わる予定だった三菱自動車も苦しい立場にある。
主力のタイ市場の不振などで、3日には25年3月期の業績見通しを下方修正した。連結純利益は前期比77%減の350億円と、従来予想を1000億円以上下回る。
三菱自の加藤隆雄社長は日産とホンダの統合について「協議を見守る」としながらも、協業に期待を寄せていた。
1月下旬には報道陣を前に「自動運転やソフトウエア定義車両(SDV)などの分野でホンダや日産に頼るべきところは頼り、強みを出すところは出す形で成長していきたい」としていた。
三菱自の今期の研究開発費は1250億円の予定で、日産の5分の1、ホンダの10分の1にとどまる。
3社とも単独での生き残りは簡単ではなく、このまま統合が白紙となれば新たな再編の呼び水になる可能性もある。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
経営統合白紙で5日にホンダ株が上昇したのは皮肉な結果だ。
日産と経営統合して規模だけ大きくなっても「規模の利益」を出せず、かえって経営の重しになると思われていた為だ。
車台共通化や研究開発機能の統合、生産拠点の適正化で「何を捨てて何に集中するか」決める必要があるが、何を捨てるか決められない懸念があった。
規模は小さくてもスズキは経営戦略が明確でインドで稼ぐ。トヨタ・グループも経営戦略は明確である。 日産は今のままでは先行きが厳しい。
ハイブリッド車を重視せずEVに集中したのにEVでヒットを出せていない。
四輪車の利益率を高め次世代自動車開発で世界と戦うために「何を捨ててどう戦うのか」決断が必要である。
四輪事業のみを取り出して、技術ポートフォリオと市場の観点から見ると、3社のバランスはそう悪くはありません。
ホンダのハイブリッドと燃料電池、日産のBEVと知能化、三菱のPHVと、次世代につながる要素を有しています。各市場での強みもあります。
また、クルマがつながる時代に備えて、販売台数を増強させることも重要です。
一方で、記事にある通り、経営の観点から見ると、課題が山積です。特に、日産の立て直しには猶予がなく、投資家の視点では、ホンダの二輪事業が稼げているうちに、資本関係でガバナンスを効かせて、早期に日産の経営を立て直す必要との見方が強いです。
SDVに向けた大型投資に備える必要があるからです。
ホンダと日産自動車が2024年12月23日、経営統合へ向けた協議入りを発表。持ち株会社を2026年8月に設立し、傘下に両社が入る予定でしたが、日産が基本合意書(MOU)を撤回する方針を固めました。
日産が筆頭株主の三菱自動車の合流も取りやめに。最新ニュースと解説をお伝えします。
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日経記事2025.2.6より引用