スペインのGRIが製造した洋上風力発電用の鋼製部材「タワー」
【ニューヨーク=朝田賢治】三井物産とスペインのGRIは17日、米国で洋上風力発電設備の「タワー」と呼ばれるタービンの支柱の製造を検討する覚書を結んだ。バイデン政権が成立させたインフレ抑制法で再生可能エネルギーのインフラ整備に追い風が吹く。三井物産は米鉄鋼最大手ニューコアとの提携関係も活用し、成長が見込まれる風力発電向け部材供給でシェア獲得を狙う。
2022年8月に成立したインフレ抑制法は事実上、電気自動車(EV)や再エネの供給網(サプライチェーン)を米国内に構築するのを促進する法律だ。補助金や税控除で3690億ドル(約54兆円)の巨額の財政出動が予定されており、国内外の企業がこれまでに1100億ドルの投資を表明している。
バイデン政権は米国の洋上風力の発電容量を現在の0.6ギガワットから2030年に30ギガワットまで拡大する目標を掲げる。税控除の効果もあり、すでに40ギガワット超の開発計画が米国各地で進んでいるという。
三井物産が参入を検討しているのは、「タワー」と呼ばれる洋上風力タービンの支柱となる鋼製の構造材。厚板鋼材を加工し、直径が最大で10メートル、長さ100メートル超の筒状の大型製品をつくる。
特殊な技術が必要で、サプライチェーンを構築するうえでタービンと並ぶ重要部材の1つだ。米国内で生産することで、メーカーも総事業費もしくは発電量に応じた大幅な税額控除の対象となるため、事業環境が有利になるとみる。
GRIは08年設立で、15年に三井物産が一部株式を取得し、洋上風力発電の普及で先行している欧州で多数の納入実績がある。GRIのノウハウを米国に導入するほか、合弁事業などでパートナー関係にあるニューコアから厚板の供給を受ける計画だ。
三井物産とGRIは今後半年間かけて事業性を検討する。投資効果があると判断した場合は、両社が合弁会社を設立して2026年中の稼働を目標にタワーの生産を始める予定だ。
想定投資額は未定だが、数億ドル規模になるとみられる。大型製品のため建設地に近い地域に生産設備を設ける必要があり、多数の洋上風力発電所の開発が計画されている米国東部への立地が有力だ。
米国での再エネ投資は他の日本企業にも広がっている。パナソニックはEV用電池の新工場に40億ドルを投資。7月には伊藤忠商事が三井住友信託銀行などと風力発電所や太陽光発電所に投資するファンドの設立を発表した。