バイデン米大統領㊨とウクライナのゼレンスキー大統領=ロイター
【ワシントン=坂口幸裕】
米主要メディアは17日、バイデン米大統領がウクライナに対し米国製の長距離兵器を使ったロシア領攻撃を許可したと報じた。
核保有国であるロシアとの緊張が一段と高まることを懸念し長射程兵器による領土攻撃を認めてこなかったが、方針転換した。
米メディアは米政府関係者の話として、ロシアが北朝鮮兵をウクライナ戦線に派遣したことへの対応だと伝えた。
ロシア西部のクルスク州で1万人以上の北朝鮮兵がロシア軍の戦闘作戦に参加し、ウクライナとの交戦に本格的に加わったとみられる。
ウクライナのゼレンスキー大統領は軍事支援を受ける米欧諸国に対し、長距離ミサイルを含む武器の使用制限を無くすよう求めていた。
ウクライナ側は米国が譲渡した射程300キロメートルの長距離ミサイル「ATACMS」を活用すれば、ロシア領内の軍事施設を標的にできると主張する。
米欧は5月、ウクライナ侵略の拠点となる国境付近の軍事施設に限って、西側から供与した武器によるロシア領内への攻撃を容認した。
ウクライナの自衛のみに使う条件を見直し、限定的に越境攻撃を認めた。
バイデン氏の今回の判断には、2025年1月にトランプ次期米大統領が返り咲くことも影響したもようだ。
トランプ氏は就任前にウクライナ紛争を終結させると主張し、ウクライナとロシアの停戦仲介に意欲を示す。
バイデン氏は「ウクライナが戦場で戦い、交渉の席でもっとも強い立場に立てるように武器を供与してきた」と説明してきた。
ロシアとの停戦協議を有利に進めるには、ウクライナが戦況で優位に立っている必要があるとの現実路線に立った計算が働く。
バイデン氏は22年2月にロシアがウクライナ侵略を始めた当初から、ロシアの反発によって事態が過度にエスカレートしないよう供与する武器や使用条件を慎重に判断してきた。
ロシア領への越境攻撃の条件をさらに緩和すれば、ロシア側の強い反発を招きかねない。プーチン大統領は米欧から供与された長射程兵器によるロシア領攻撃を巡り「容認されれば北大西洋条約機構(NATO)諸国がロシアと戦うことを意味し、紛争の本質を変える」と警告してきた。
バイデン政権はウクライナ支援の継続に慎重なトランプ新政権が発足するギリギリまでウクライナへの武器供与を続ける構えだ。
ブリンケン米国務長官は「バイデン氏は我々の自由裁量で使える資金すべてを25年1月までに確実に投入すると確約している」と話す。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
「米国製の長距離兵器」というところがミソでしょう。
少し前まではATACMSの使用許可はもう絶望的という雰囲気があり、英国のスターマー首相はせめてストームシャドウ(英国製)だけでも使わせてやってくれとG20の場で直談判する方針だとされていました。
今回もストームシャドウだけ許可してATACMSは結局流れるのではないかと思っていましたが、現時点で出ている情報を見るに後者も含まれるのかもしれません
あとは一時期噂されたJASSM空対地巡航ミサイルもどうなるのか気になります。 それにしても「迷いに迷って時期を逸してから結局出す」というバイデン政権の軍事援助のパターンは最後まで変わりませんでしたね。
ゼレンスキー大統領は最近のインタビューで、米国のトランプ次期政権の下で「戦争は間違いなくより早期に終結するだろう」と述べた。
トランプ氏が公約している通り、米国の仲介で早期にロシアとウクライナの停戦協議が始まる場合、その時点で軍が支配している地域が交渉の席でモノを言う。
ロシアはウクライナ東部ドンバス地方で攻勢をかけており、戦略上の要衝を含め、できるだけ占領地を拡大しておきたい。
ウクライナは、ドンバス地方でロシアの攻勢にできる限り耐えつつ、ロシアのクルスク州に攻め込んで確保している、停戦協議で有力な交渉カードになり得るエリアを死守したい。
バイデン政権はウクライナの利害をにらみ、今回の対応をとった。
アメリカの「バイデン政権」に関する最新ニュースを紹介します。その他、日米関係や米中対立、安全保障問題なども詳しく伝えます。