暑さ･病気に負けないトマトやニンジン　品種開発が加速　（日経2025.2.23）

黄変果が少ない「桃太郎ブライト」は開発に約10年を要した

野菜や果物などが天候不順で不作となり、品不足となったり価格が高騰したりするケースが近年目立ってきた。

消費者への安定供給という喫緊の課題のなかで求められるのが、高温や病害に耐性がある品種だ。変色の少ないトマト、黒い斑点のつきにくいニンジン……。種苗会社などで品種の開発が進んできた。

2月上旬、国内最大の卸売市場である大田市場（東京・大田）で「品種見本市」が開かれた。

農作物の種子を生産・開発する全国の種苗メーカー13社をはじめ、産地や卸会社、外食企業などの関係者約300人が参加。種苗メーカーはそれぞれの最新品種を展示し、特徴などをブースに訪れた人に説明していた。

産地が抱えている問題や、品種開発のトレンドやテーマは何か。参加者が口をそろえるのは「気候変動への対応」だ。

気象庁によると、2024年の日本の平均気温は平年値（1991〜2020年までの30年間平均）を1.48度上回り、1898年の統計開始以降で過去最高を更新した。

記録更新は2年連続。年平均気温が高かった上位6番目までを19〜24年が占めており、高温の傾向が続いている。

高温は不作につながり、品不足は青果価格の高騰の一因にもなっている。24年12月の消費者物価指数（CPI）は生鮮食品が前年同月比17.3%上昇した。

1月に平年（過去5年平均）比で最大4倍の卸値をつけたキャベツは昨年秋ごろから高値が続き、2月上旬時点でも2倍超だ。

卸の東京青果（東京・大田）の担当者は「産地では対応が追いつかなくなっている」と話す。

「桃太郎トマト」シリーズを手掛けるタキイ種苗（京都市）は、24年に「桃太郎ブライト」を発表した。冬から夏前まで収穫できるトマトの品種で、熊本県や北海道などの主力産地で導入されている。

開発に約10年を要したこの品種の特徴は「黄変果」が少ない点だ。

春先の気温が高いと、トマトの実の上部が黄色く変色しやすく、出荷量の減少や等級の低下につながる。大田市場の仲卸でトマトを扱う担当者は「黄変果はなかなかなくならない」と話す。そうした課題に新品種で応える。

「灼熱サラダ菜っぱ」は気温40度前後でも栽培できる

トキタ種苗（さいたま市）が開発した「灼熱（しゃくねつ）サラダ菜っぱ」は、気温がセ氏40度前後でも栽培できる。

国内では20年から販売している。海外で販売していたが、国内でも需要があるとみて導入を決めた。

中国などが原産の品種をベースに開発した品種で、ハクサイにも似ているが、葉が結球しないかたちの葉物野菜だ。コマツナやホウレンソウのように、炒めものやおひたしとして食べることができる。

「高温対策は世界的にも最も多い要望。産地への普及を進めていきたい」（トキタ種苗の担当者）という。気温の上昇に伴って畑では病害も発生しやすくなっており、耐病性へのニーズも高まっている。

シミ病に強いニンジンの産地での導入が進みつつある

種苗会社のトーホク（宇都宮市）は「シミ病」に強いニンジンを24年に発表した。ニンジンの実に黒い斑点がつく病気で、高温多雨の年に発生しやすく「産地での被害は増加傾向だ」（トーホクの担当者）。

主産地の千葉県や長崎県、北海道などの一部では導入が始まっている。

青果育種研究会（東京・目黒）の阿比留みど里専務理事は「品種開発は10年単位で時間がかかる」と指摘する。

気温の上昇や異常気象は今後も続くと見込まれ、将来を見据えながらのさらなる品種開発の必要性は増しそうだ。農産物の安定供給に向け、産地や種苗会社、市場などサプライチェーン全体での取り組みが続く見通しだ。

（杵渕純平）

日経記事2025.2.23より引用

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