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巨大な水槽の中で赤い目が輝く。日本の怪魚「アカメ」だ。その生態は神秘のベールに包まれ、釣り人たちは「幻の魚」と呼ぶ。最近になって、その謎はいちだんと深まった。最先端の研究が明らかにしたのは、約3万年にわたり、わずか1000匹程度で世代交代を繰り返してきた可能性だ。生物学の常識ではこれだけ数が少ないと、絶滅への道をたどるとされる。アカメが存続できた理由は何か。いったい、どんな力を秘めているのか。大阪医科薬科大学などは、生命の設計図であるゲノム(全遺伝情報)に秘密があるとにらんだ。
・絶滅の瀬戸際にある少数集団で3万年を生き抜く
・病気に備える免疫遺伝子に特徴
怪魚「アカメ」とは
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日本三大怪魚の「アカメ」は赤い目玉が特徴だ(静岡県沼津市)
アカメは海に生息する肉食魚だ。名前の通り、赤く光る目が異様な印象を放つ。
「イトウ」や「ビワコオオナマズ」と並び、その不気味さから日本三大怪魚の一つとされる。成魚の体長は1メートルを超える。寿命は不明だが、20年を生きた例もあるという。
主に高知県や宮崎県の沿岸に生息するが、詳しい生態や生息数は分かっていない。宮崎県ではアカメの捕獲を禁止するほか、環境省も絶滅のリスクがある「レッドリスト」に指定している。
過去3万年を約1000匹で存続
大阪医科薬科大学などの研究チームがアカメのゲノムを分析したところ、過去3万年間を通じて繁殖に関わったのは常に1000匹前後だった。
近親交配などで遺伝情報の多様性は低下し、絶滅危惧種と同程度の水準だった。海にすむ魚で1000匹前後というのは「想定していたよりも少ない」(大阪医科薬科大の橋口康之准教授)。
体を守る免疫に特徴
なぜ少ない数で種を存続できたのか。遺伝情報の多様性をみると、全体では低いものの、免疫に関わる遺伝子では保たれていた。
そのために様々な病原体に対応できる。この病気に対する耐性の強さが3万年を生き抜いてきた要因の一つだと研究チームはみている。アカメが免疫に関わる遺伝子の多様性を自ら高めたのではなく、自然淘汰の結果、遺伝的多様性が高い個体が生き残ってきたと考える。
保全に向けたデータ構築
世界には少ない数で数万年以上も存続する種が他にもおり、アカメに似た仕組みが体に備わっている可能性がある。
今後はどのような遺伝子の仕組みが長期存続につながったのか調べる。近年のアカメの生息数を推定する研究も進める予定で、橋口准教授は「適切な保全活動に役立つ基礎的なデータを示していきたい」と意気込む。
(文・映像 松浦稜)
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時に受けいれがたく、目を疑うような真実をサイエンスの視点で伝えていきます。まだ見ぬ世界の変化を捉え、いまの時代を記憶にとどめる連載企画です。
日経記事2025.2.13より引用