雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

ギャランドゥ

2006-06-02 | 思い出
 盲腸の手術を受けたのは、十六の時だった。
 その頃といえばラーメン屋でアルバイトをしていたのだが、仕事は午前十時からだったので、その日は友人のMと早朝から釣りに出かけていた。
 なんとなく起きたときから「腹具合が悪いな」くらいはあったのだが、Mとの約束もあるので、とりあえずままならぬクソをして家を出た。
 そしてMと落ち合い、港の桟橋から釣り糸を無心に垂らした。しかし、すぐに雑念が入った。
(は、腹がイテぇ・・・)
 どうにも我慢がならないが、近くに便所らしきものはない。しかし僅かながらの草陰がある。もう、限界だ。背に腹は変えられないので、私は産まれて初めての野糞をした。実に、爽快であった。
 そうこうしている内に仕事の時間が迫ってきたので、私たちは帰ることにした。収穫は、小指程のメギスに醜悪なボラくらいだった。(その場所は淡水と海水が混合している馬鹿げた河岸であった)
 私はバイト先につくと、真っ先に便所に駆け込んだ。皆から「どうした?」「大丈夫か?」などの声をかけられながら
「ちょっと腹具合が悪いが、大丈夫です」と気丈に振舞った。それは何故かと云うと、この日は給料日だったので途中で帰ると貰えないのでは?と、そんな思いにかられ、冷や汗かきつつも私の上がり午後五時まで働いた。
 そうして、ぎこちない笑顔で給料袋を受け取り、なんとか家まで辿り着いたのだが、そのまま居間に倒れ込み、腹を抱え、瀕死の形相でうずくまっていた。
 それから一時間もしたころであろうか?母が帰ってきて私の様子を見るなり、
「何事か!ど、どうした!」と、オロオロ焦るのだが、私に至ってはすでに説明の出来る状態ではない。
「い、医者へ・・・」
 至急、近くの総合病院へ駆け込んだ。
 結果は盲腸。しかし、もう少し遅かったら腹膜炎を併発していたらしい。我慢も程々に、である。
 そんなこんなで次の日、すぐに手術となるわけだが、その際私が危惧していたのは『剃毛』である。まだウブである私はあのキレイな看護婦さんに私のナニをつままれジョリジョリされるのは何とも恥ずかしくて、しかも、もしそこでナニが元気になろうもんなら目も当てられない・・・そんなことを苦痛の中で考えていた。
 しかし、手術前に看護婦さんが事もなげに
「剃らなくてもいいみたい。良かったね」と私に報告した。どうやらまだウブな私のギャランドゥは手術の邪魔はしないらしい。私は「ホッ」と安心したのだが、何だか「フッ」と寂しい気持ちもよぎった。
 手術は程なく終わり、私の右腹には、そんなこんなの思い出と共に手術痕が残った。

 さて、もうここまでくれば私の言いたいことは解かるであろう。もし、今現在の私が『剃毛』はしなくてよい、とキレイな看護婦さんから言われたなら、土下座でも何でもして(金を払ってでも)
「お願いだから、剃ってください!何もやましい事なんぞありません、ただ、ただ、アナタに剃ってもらいたいのです!」
 そう叫びながら必死に懇願するであろう。
コメント (7)
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