http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120724-00000004-trendy-sci
キヤノンは2012年7月23日、同社初となるミラーレス一眼「EOS M」の発表会を開催した。新製品の概要は「キヤノンが初のミラーレス一眼『EOS M』発表、画質や機能は最新Kissと同等」で速報しているので、そちらを参照してほしい。本記事では、発表会で明かされた販売戦略を基に、キヤノンがEOS Mの投入で何を狙っているのかをまとめてみた。
ミラーレス一眼の理想は「高画質」「小型軽量」「EFレンズとの互換性」
キヤノンマーケティングジャパンの川崎正己社長は、「デジタルカメラが幅広い層に普及するにつれ、より高性能なレンズ交換式デジタル一眼へのステップアップ需要は確実に増している。『いい写真をもっと手軽に楽しみたい』というニーズから、ミラーレス一眼はレンズ交換式デジタル一眼の約4割を占めるほどになった。EOSのアイデンティティーを持つミラーレス一眼を、EOSブランドの誕生から25年となる節目に投入したい」と、ミラーレス市場への参入の理由や意気込みを語った。
川崎氏は、キヤノンが考えるミラーレス一眼の理想を「高画質」「小型軽量」「EFレンズとの互換性」の3つだとし、EOS Mにはそのすべてを詰め込んだと語った。特に、レンズはカメラの命であるとし、写真愛好家やプロも愛用しているEFレンズを装着できるメリットを強く訴求した。
ターゲットはカメラ女子、多様な表現が可能になるEFレンズの存在も強く訴求
キヤノンマーケティングジャパンの佐々木 統氏によると、EOS Mのターゲットはずばり「20~30代のデジタル一眼入門者」と「すでにEOSシリーズを所有しており、サブカメラを探している中上級者」だという。キヤノンがEOS Mで特に重視しているのが前者で、コンパクトデジカメやスマートフォンである程度写真に慣れ親しんだ、いわゆる“カメラ女子”の取り込みが狙いだ。
カメラ女子は、写真のボケ味を特に重視する傾向にあるという。EOS Mは、ミラーレス一眼としては大きなAPS-C型の撮像素子を備えるうえ、レンズキットで用意されるパンケーキレンズは開放F値がF2.0と明るい。コンパクトデジカメやスマートフォンと比べてボケの大きな写真が撮りやすいことを訴求し、ユーザーの獲得につなげる狙いだ。
豊富なEFレンズがそのまま使え、多様な表現が可能になることを訴求するために、小型サイズのレンズカタログを新規に制作したのもトピックだ。「このレンズを使えば、身近な被写体がこのように撮れる」と、明るい雰囲気の作例を中心に構成しつつ、女性好みのレイアウトでレンズの個性を解説している。この点からも、EOS MとEFレンズを組み合わせて使ってほしいというキヤノンの思惑が見て取れる。ミラーレス一眼とマウントアダプターの組み合わせは、これまで一部の愛好家向けだったが、それを一般的なものにできるかが注目される。
ミラーレス市場を拡大しつつ、デジタル一眼レフへの移行をうながす?
EOS Mの投入で、ミラーレス市場においてキヤノンが一定のシェアを獲得するのは間違いない。本体サイズや画質、価格を考えると製品自体は魅力的な仕上がりであり、コンパクトデジカメやスマートフォンからのステップアップ層だけでなく、世代の古いEOS Kissシリーズからの乗り換えも見込めるからだ。
だが、キヤノンはミラーレス市場で先行メーカーのユーザーを取り込んだり、がむしゃらにトップシェア争いに加わろうという気はないようだ。中長期的に目指しているのは、EOS Mのユーザーを看板商品であるデジタル一眼レフカメラへどんどんステップアップさせることだろう。
EOS MをEFレンズと組み合わせた際、本格的に使うには不満を感じるであろう点が2つある。ファインダーがないことと、AFが遅いことだ。
ファインダーがなくライブビュー撮影に限られるEOS Mは、撮影時に液晶モニターのライブビュー画像を見る必要があるため、カメラと顔をある程度離さなければならない。小型軽量のレンズならば問題ないが、大口径の望遠ズームレンズなどをマウントアダプター経由で装着した場合、カメラを安定して構えるのが難しい。光学ファインダーを備えるデジタル一眼レフカメラならば、脇を締めた状態でしっかり構えられるので、カメラが安定してぶれにくい。光学ファインダーには、素早く動く被写体を追いやすいというメリットもある。
EFレンズのなかでも、超音波モーターを搭載したUSMタイプのレンズは、オートフォーカスの速度で定評がある。だが、性能がフルに発揮できるのは、デジタル一眼レフカメラ内部の位相差AFを利用するファインダー撮影のみで、EOS Mとの組み合わせでは速度が大幅に落ちてしまう。担当者によると、オートフォーカスの速度は今後改善していくということだが、被写体が中央以外(撮像素子の位相差AFセンサーがない領域)にある場合の遅さはカバーできない。
EOS Mと専用レンズでの撮影にある程度慣れたユーザーが、一歩進んだ撮影をしようとEOS MとEFレンズの組み合わせを試しつつ、EOSシリーズでも使ってみた場合を考えてみたい。同じEFレンズをEOSシリーズのデジタル一眼レフカメラで使うと撮影の失敗が少なく、しかもスピーディーになることに衝撃を受ければ、デジタル一眼レフカメラへのステップアップを考えるケースは少なくないだろう。それまで買いそろえたEFレンズやストロボなどのアクセサリーが一切ムダにならない点も、スムーズなステップアップを後押しする要素となる。
キヤノンが満を持して投入したEOS Mは、コンパクトデジカメやスマートフォンのユーザーをミラーレス一眼にステップアップさせるだけでなく、デジタル一眼レフユーザーの拡大をも考慮した戦略的なモデルといえるだろう。これまでのEOS Kissシリーズと比べてさらにハードルを下げたEOSシリーズの入り口として注目を集めそうだ。
(文/磯 修=日経トレンディネット)