帰省した際、兄から聞いた体験談です。登場する名前は仮名ですがすべて実在する人物で、実際に起きた出来事です。
2014年FIFAワールドカップブラジル大会で、一勝を挙げることもできなかったサッカー日本代表を現地で応援したヒロシは、その2年後、再びブラジル、リオデジャネイロの地に立っていた。
そう2016年リオデジャネイロオリンピックだ。
だが、そのリオ五輪でもU-23を中心とした日本代表は、再びグループリーグで敗退という惨憺たる結果に終わってしまう。
そもそも、ヒロシが追うサッカー日本代表戦は、なでしこ・フル・アンダー、男女世代を問わず、現地で観戦するとだいたい不本意な成績で終わってしまうことが多い。これは1998年フランス大会から続く彼の負のジンクスだ。
追記:本人からクレームが入りましたので訂正します。
U23代表戦の(オリンピック出場予選に限っていえば)現地観戦の勝率は100%ですから!
日本代表がグループリーグ敗退となったことで、ヒロシのブラジル滞在も終わりを告げる。前回、今回とブラジルは2回目だが、いつも試合を追いつつロクに観光したこともない。だがしかし、今回、ここだけは行っておきたいと計画していたのがコルコバードの丘に建つキリスト像だ。ブラジルを代表する観光名所、ここにだけは立ち寄ろうと思っていた。
ホテルをチェックアウトし、荷物をフロントに預けタクシーに乗ったヒロシは、トラム駅に向かう。このトラムはほぼ完全予約制、ましてやオリンピックの開催期間中ともなると予約なしでは数時間待ちも覚悟という大人気スポット。ダンドリ歴は30年以上、用意周到な彼は日本からトラムの座席をきっちり予約しておいたのだ。
タクシーを降りトラムの駅に向かう。
歩きながらふと手をやったポケット・・・
無い、iPhoneがポッケに無い。・・・きっと、先ほどのタクシーの中だ。
振り返る。
しかし、もうタクシーは走り去ったあとだ。
キーワードが蘇る。
ブラジルは近年、治安が悪化しており、外務省の海外渡航情報でも「渡航に際しては十分な注意を」「ひったくり、スリ、置き引きに厳重注意」「タクシーに乗る際も油断してはならない」と言われる状況で、更にオリンピック開催直前には警察官たちのデモまで行われている。
(AFP/ VANDERLEI ALMEIDA からキャプチャー)
「私たち警察官や消防士は長いあいだ手当をもらっていません。そしてギャング団からアサルト銃で撃たれ毎日数名の仲間の命が失われています」
「ようこそ地獄へ・・・」と。
そんなところで、iPhoneを落としてしまった。会社支給の。たくさん写真も撮ったな、連絡先、お取引先、いっぱい電話番号入ってるよな、iPhone・・・。
一縷の望みに賭け乗ったタクシー乗り場まで引き返すか、だがトラムの予約時間が迫る。
もしすぐにiPhoneを探しに戻ったとしても出てくる可能性は低い、キリスト像も見れずiPhoneも見つからないというのはWパンチなので、ヒロシは、当面はタクシーを追わずコルコバードの丘を登る選択をとった。
噂に違わぬすばらしい風景。だが全然景色が頭に入ってこない。
丘を降りたヒロシは、乗ったタクシー乗り場まで引き返した。
(イメージ)
客待ちするタクシーの列に、見覚えのある顔が無いか、一台一台のぞいて歩く。
だがしかし、さっき乗ったタクシーは居ない。
先頭で客待ちするドライバーに身振り手振りで「iPhoneを落とした、どうすれば見つかるか」と尋ねると、おっさんドライバー、ダニエウがいくつか電話をかけてくれる。
タクシー無線のようなものは無く、また忘れ物相談センターのようなものも無いようだ。
いくつか折り返し電話が架かってるが、ダニエウ・・・「Não encontrado」(見つからない)
日本へ帰国するため、空港へ行く時間が迫ってくる・・・ 駄目か・・・。
ダニエウ
「ありがとう、ダニエウ」
「だけど・・・ 」
なんとか、もしiPhoneが見つかったら、滞在していたホテルへ連絡してくれるよう頼むヒロシ。だが、その意味がダニエウに伝わったかどうかは分からない。
だめか、仮に見つかったとしても日本に無事届くはずはないよな・・・。
空港へ向かおうとダニエウの車に乗った、
と、その時!
はーいハポネス、俺を探しているのはお前か?
マルコ現る!
携帯電話でリレーされていくうちに、タクシー乗り場でiPhoneを探す日本人が居ると聞きつけ、やってきたマルコ。そう、あなた、あなたを探していました。
古びたiPhoneです!会社支給のiPhoneです!
正直者のヒロシに神が降臨した。
良かったな日本人。一緒に喜んでくれるダニエウ(左)と、マルコ(右)
ヒロシはとっさに、「もし万が一日本代表がGLを突破し順調に決勝まで進んだら有休休暇を延長し日本が金メダルを獲る瞬間を見るためにダンドリしておいた」男子サッカー決勝戦のチケット@マラカナンスタジアムを、マルコに差し出した。
マルコはとっさに、「2年前のW杯準決勝で1:7でドイツに敗れ去ったミネイロンの悲劇と同じ組み合わせが行われるブラジル国民にとっては雪辱戦ともいえるオリンピック決勝戦のチケット」が貰えるとはなんてラッキーなんだ!と思った。
治安の悪い国で、言葉も通じず、そしてどのタクシーかも分からなかったのに、帰国寸前になって出てきたiPhone、みんながハッピーになって大団円。
なぜか最後になって仕切りだす配車係?のイザベラが、マルコに詰め寄る。
意味が分からないが、なんとなく口調きつめ。
だがしかし、彼はきっとマラカナンスタジアムに赴くだろう。そしてブラジル代表はドイツと延長戦、PK戦を戦ったのち、ブラジル五輪史上初となる金メダルを手にするのだ。
よかったなマルコ、よかったなヒロシ。
All Photo by 兄
Edit by root66
酔っ払って聞いた話なので、少しあやふやな点もありますが、だいたいこんな感じのストーリーでした。
兄が撮った写真はストーリー展開の都合上、順番を入れ替えて使ってます。
参考までに、ブラジルの治安を伝えるholohologさんのブログからタクシー強盗の瞬間をご紹介しておきます。ほんと一歩間違えればこのような光景が、ブラジルには本当にあるんですよね。
ほか、イメージ映像と文字効果はフリー素材とWebツールを利用させて頂きました。
ありがとうございました。