ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

迷宮の将軍

2009-03-29 19:55:19 | Weblog
ガブリエル・ガルシア=マルケス著、木村榮一訳、新潮社刊。

中南米諸国をスペインの植民地から解放した将軍。
権力の座を追われ、失意の迷宮にあった最後の7ヶ月。

絶頂の時期ではなく、その失意の最晩年を書くのが、
いかにもガルシア=マルケスらしい。

小説の内容は、迷宮の中にいるところを書いているだけあって、
もやもやして、つらくて、真綿で首をしめられているような
とてもゆるやかな閉塞感がある。
疲れていたり、落ち込んでいるときに読むと、もっと暗くなってしまうかもしれない。

でも、そんな迷宮の中にあっても、人は命がある以上、なんとか活路を見出そうとしてしまう。
人間の中にある根本的な生きようとする力、
どうしても諦めらめることなどできない上昇への執念のほうが、
私の心には、強く響いた。
このどうしようもない「流れ」こそが、命があるということなのだと思う。

そして、決定的な死の瞬間が描かれるのではなく、ゆるやかに訪れる「死」。
最後のシーンは、いささか唐突だ。
「次の土曜日は喪に服して家が閉め切られ、そのせいで窓の外に咲く黄色い花を見ることはできなかった。
さらに、生命のきらめくような光がみられた。
それは以後何世紀にもわたってふたたびあらわれることのない輝きだった。」

なぜ「さらに、生命のきらめくような光がみられた」と続くのか。

いつも深い深い余韻の残るガルシア=マルケスの文章。
この一文に出会うための一冊なのだと思った。