ブリットの休日

大好きな映画や小説の感想や日々の他愛ない話と、
聴神経腫瘍と診断された私の治療記録。

森見登美彦『奇想と微笑 太宰治傑作選』感想

2014年05月11日 | 本(小説)

 この『奇想と微笑―太宰治傑作選』は、「有頂天家族」や「夜は短し歩けよ乙女」の森見登美彦が、自身大好きな作家 太宰治の短編を、独断と偏見で集めた傑作集である。

そして私も昔、新潮文庫のYonda?CLUBの応募マークをせっせと集めて、文字盤に太宰治の写真が埋め込まれた腕時計を応募しゲットしたほどの愛読者である。

まだ2/3程しか読んでいないが、太宰の人柄が随所に現れ、ますます彼のことが好きになってしまう作品ばかりだった。

 一般的に太宰治といえば、晩年の作品や、なにか思案顔で頬杖をついている写真のように暗いイメージがあるが、波乱の人生の中でも、心身ともに安定していた時期があり、「津軽」や「お伽草紙」などとても明るい作品も数多く執筆されているのだ。

この傑作選は、その頃のそんな太宰治の人間味溢れる姿が浮かんでくる、楽しい作品ばかりが集められた、なんとも贅沢な作品集なのだ。

なかでも、電車の中で読みながら笑いをこらえきれなくなってしまったのが、昭和18年に発表された「黄村先生言行録」という作品。

太宰が師と仰ぐ黄村先生なる人物の、山椒魚への異常なまでの執着心が招くドタバタ劇なのだが、まあすこぶる面白い。

この黄村先生、どうやらモデルがあるらしく、あとがきで筆者が太宰が上京してからずっと交流があった井伏鱒二であろうといっている。

調べてみるとなかなか太宰とは公私ともに親交があった人物である。

この本のように、二人の楽しいやり取りが行われていたのかと思うだけで、なにか楽しい気分にさせられた。

 ここはひとつ、井伏鱒二が太宰治のことを書いた本があるのではないかと調べていたら、とんでもない事実が発覚してしまった。

太宰の遺書の下書きが発見されたとき、そのなかに「井伏さんは悪人です」というものがあったらしい。

どうしてこの楽しい気分のままでいさせてくれなかったのかと、今はしょうもないことを調べてしまったことを、猛烈に反省している。

でも少し時間がたつと、太宰の本心はどうだったんだろうかという疑問が浮かんできた。

そうしたら、またその疑問を追求した本があるんだなあ。

あの前都知事の猪瀬直樹が「ピカレスク 太宰治伝」なる本で、遺書の謎を描いている。

なんだか太宰治の印象まで崩されそうで、今読もうか読むまいか悩んでいる・・・。


みをロス症候群

2013年12月23日 | 本(小説)

 楽しみにしていたものがここへきて次々と終わってしまった。

まあ本やらTV番組という程度のものだが、「あまロス症候群」からようやく立ち直ったのも束の間、私の辛い通勤時間帯を大いに楽しませてくれた「みをつくし料理帖」の最新刊8巻目を読み終え、これに変わる本が他にあるのかと今もなお放心状態である。

だいたい文庫本の第一巻が2009年の5月に出てるんだから、当然今の段階で完結してると思っていたのに、まだ続いていたとは・・・。

おかげで今では電車の中で、スマフォをずっと見ながらゲームをしている、ある意味なんだかなあ~と思っていた人たちの仲間入りである。

はやく、はやく続きが読みたい。

 続いて米TVドラマの「ウォーキング・デッド シーズン4」が、本国の放送に追いついてしまい、シーズン半ばにして放送見合わせに。

ゾンビだらけの世界の中で、綱渡りで生き抜いていく人たちを描いたドラマだけど、まあ目が離せなくて面白い。

みんなを率いていくリーダー論は、なかなかの重みがあり、かの阿部総理も見ているという奥の深さ。

しかもいつまでたっても救いのない無限地獄がただ繰り返され、見終わった後の虚脱感がいつしかクセになるという優れもの。

はやく、はやく続きが見たい・・・。

 そしてつい先日、アニメ「夏目友人帳」シリーズ4の完結。

シリーズ1からずっとひかりTVでやってて、これもついに終わってしまった。

妖怪が見えてしまう少年の話だが、こんなにも愛おしいと感じたアニメも珍しい。

ほのぼのとしていて、ちょっと切ない気分にさせ、最後は心地よい気分でエンディングの歌を聴いている。

「ちはやふる」同様、はやく、はやく新シリーズを放映してほしい。

 肝心の映画のほうは、ずっと不調である。

いい映画にはなかなかめぐりあえないものだとつくづく実感している。

ただ私の大好きな「ライト・スタッフ」が、今大切に棚に立てかけてある。

一番いい状態で観ようとしっかり温めているところだ。

あといろんなところでレビュー絶賛の「きっと、うまくいく」も控えてる。

インドで歴代興行収入ナンバーワンを達成したというこの作品、かなり期待している。

さえない作品が続き、見終わった後にレビューを書く気力もなくなってしまうので、こうして先に書いてしまおう。

しかし、「マン・オブ・スティール」は期待してたんだけどなあ~。


高田郁『みをつくし料理帖』あらすじと感想

2013年10月06日 | 本(小説)

 最近の私の通勤時間を悩ませているもの、それは高田郁の時代小説『八朔の雪―みをつくし料理帖』。

あらすじを簡単に説明すると、江戸時代、両親を洪水で亡くした少女が、幾多の困難も乗り越えて、一流の料理人として成長していくっていう、いわゆるサクセスストーリーものなんだけど、とにかく人情の厚さがここまで読むものの心を揺さぶるものかというぐらい素晴らしいのだ。

通勤のバスや電車の中で読んでいるんだけど、まあ人目もはばからず何度涙したことか(^^;)

これ以上読んでしまったら、涙が零れ落ちてしまうと、何度も本から目を離し、それでも読み進み、そして涙。

世の中は悪い奴らで溢れてる。

でも本当に優しいいい人も確かにいる。

まっとうに生きていれば、必ずいいことがあるよ。

どこかで見たり読んだりしたようなエピソードだったりするが、荒んだ心を優しく包み込んでくれる、素敵な小説です。

これだけ面白い本なので、テレビ化されてないかと思ったら、なんと去年の9月に放送されていた。

まあ主役の澪役を北川景子、小松原役を松岡昌宏っていうキャスティングを見て、見なくてよかった~って思ったけどね。

本からのイメージから程遠く過ぎて笑っちゃうってぇ~の。

でもぜひ別のキャスティングでドラマ化してほしいなあ。

なんならNHKの連続テレビ小説にって思ったけど、朝から涙涙になっちゃうからだめ(^^;)


奥田英郎『空中ブランコ』あらすじと感想

2012年04月15日 | 本(小説)

 全国の本屋の店員さんが、一番売りたい本!ということで選ばれる「本屋大賞」。

こんな賞があったんだねえ。

芥川賞やら直木賞とかいったら、なんか偉い先生方が選考して気取った作品が受賞されるという、堅苦しい先入観があり、あまり気にもしていなかったけど、この「本屋大賞」は一般の小説ファンみんなが選ぶ、本当に人気のある本ってイメージがいい。

最近はどんな本が売れていて、どんな作家がいいのか全然わからなかったので、この「本屋大賞」の過去の受賞作品やその作家たちを手掛かりに、Amazonのレビューなどを読みながら、あれこれ探して本を購入している。

だいたい週1冊ぐらいのペースで読んでるけど、まあはずれはない。

 そんな中でこんなに面白い本があったんだと思った作品が、奥田英郎の『空中ブランコだ。

物語の主人公は、伊良部総合病院の院長のドラ息子にして、同病院の精神科医 伊良部一郎。

その奇抜な療法により、飛べなくなった空中ブランコ乗りや、先端恐怖症のやくざなど数々の患者を、あざやかに?治療していく。

とにかくこの伊良部先生のハチャメチャぶりに振り回される患者たちが可笑しく、そして少しずつ癒されていく姿に、読んでる自分も癒されていくという心地よさ。

この伊良部一郎シリーズ、他に「イン・ザ・プール」と「町長選挙」とあるんだけど、やはりこの「空中ブランコ」が最高によくできてる。

なあんてここまで書いててなんだけど、実は「空中ブランコ」は第131回の直木賞受賞作品なのだ。

あれだけ無視してた賞だったのに、ハハハ。

おまけに「本屋大賞」にも入ってなかったとは。

ちなみに奥田英郎作品としては、2006年の本屋大賞の第2位に「サウスバウンド」が受賞されているだけだった。

この作品から辿って行ったのかなあ。

ついでにその年の第3位に、伊坂幸太郎の「死神の精度」が入ってた。

この作品も大好き(^^)

 そういえば芥川賞と直木賞って何が違うんだろう?

さっそくウィキペディアで調べると、純文学作品に与えられる文学賞が芥川賞で、大衆小説作品に与えられる文学賞が直木賞だって。

今まで気にもしていなかったとはいえ、そんなことも知らなかったとは、ああ 恥ずかしい。

それから他にいろいろネットで調べてたら、賞を選考した選考委員の先生たちの、その作品に対する批評の言葉がいろいろ載ってるサイトがあって、これがまた面白かった。

選考に漏れた作品への痛烈な言葉や、さすがと思える鋭い指摘など、短いコメントながら読みごたえがあった。

中には自分より何倍も売れている作品を酷評する作家の、あなたが言いますか?的なコメントもまた楽しい。

自分が読んだ本との感想と比較し、自分の感性を試すみたいな気分にも浸れるのもいいね。

こうして今いろいろ探し出してはネットで次々と購入していった本が12冊ほど溜まっている。

熱しやすく冷めやすい私は、いつまで本を読み続けられるのだろう?


『飛ぶ教室』

2009年06月14日 | 本(小説)


 映画がすごく良かったんだけど、ケストナーの原作を読んだ方達の、本の方がもっといいという感想を読み、文庫本『飛ぶ教室』をすぐにネットで注文した。

生き生きと描写される少年達のひたむきな姿と、素敵な大人達の友情。私は本も大好きになった。

特に映画では描かれなかったマルティンと正義さん、そしてマルティンのクリスマスの場面は、またもや電車の中で読みながら涙してしまった(^^;)

この感想を書いている時点で、既に2回読んでいるんだけど、最近あまり小説を読んでいなかったせいかもしれなかったけど、読後の満足感と癒され感がとても心地よかった。

小説なんて通勤時に軽く読む程度としか思っていなかった自分が恥ずかしくなるくらい、癒されていた自分がいた。

改めて本を読むことの楽しさと、本が持つ癒しの力を感じさせてくれた作品だった。小説を読むって、やっぱ素敵なんだなあ(^^)

映画がかなりアレンジされていたことが分かったけど、作品を包む明るさと、ピュアな空気はどちらも同じで、改めて映画の完成度の高さを感じさせた。

しかも映画を先に見ていたことで、たぶんイメージしきれなかったであろう、ドイツの歴史を感じさせる建物や町並みが、読んでいても鮮やかに浮かんできて、先に映画を見て大正解だった。

児童文学だけど、子供より大人の方がずっと面白く読める小説です(^^)