2022年の本屋大賞で第2位となった青山美智子さんの『赤と青とエスキース』を、文庫化されるまで流していたので今やっと読む。
今回は「猫のお告げは木の下で」や「お探し物は図書館まで」など過去作品のほっこり感と明らかに違う、洒落たタイトルで「おや?」なんて思わされたが、タイトルのイメージ通り青山美智子さんが新境地へと入った今までとまったく趣の違う作品となっていた。
人と積極的に関われない自分を変えようと、メルボルンへ1年限定の交換留学生としてやってきた女子大生のレイは、ある日バイト先の先輩ユリさんから、公園で行われるバーベキューに誘われる。
ただレイは話しかけられてもオーストラリア訛りの英語が聞き取れず、気がつけば一人きりになってしまったが、日本語で話しかけてきた、みんなからブーと呼ばれる地元の日系人の青年と出会い・・・。
ふたりの若い男女が出会い、恋を育んでいく話にはじまり、額縁工房へ就職し額職人として働く青年に、中年のおっさん漫画家、そして長年一緒に暮らしていたが別居してしまった男女の話と、いつもの青山オムニバスでストーリーが紡がれていく。
そしてこれも青山作品でおなじみの、別の話なんだけど、人や物がこんなとこで登場するのかと話をまたがって現れる。
で、今回の別々のエピソードに共通して現れるのが、「エスキース」という水彩画。
過去作品を読んでいた方は分ると思うんだけど、神がかり的な出来事やキーワードによって、人生の新しい歯車が回り出すというお馴染みのストーリー展開は、今回はありません。
なので物語の奇抜さはなくなってしまったが、代わりにそれぞれの主人公たちの心情がじっくりとリアルに描かれ、読んだ人それぞれが登場人物の誰かに共感させられていく。
私は四章の、輸入雑貨店に働く52歳の女性が、長年連れ添った男子と別居し、さらにパニック障害になってしまうという話で、常に強迫観念にとらわれていたのか、そんな病を抱えつつも休むことなく働くその女性に、雑貨店のオーナーが語りかける言葉が、強烈にこころに響いた。
”人生は一度しかないから思いっきり生きよう、ではなく、
人生は何度でもある、どこからでも、どんなふうにでも、新しく始めることが出来る”
そして、
”それを経験できるこの体はひとつしかない、だから無理せずなるべく長持ちさせなきゃ”
そんな、物語の中にちりばめられた珠玉の言葉の数々は、今まで歩んできた人生が長いほど、凝り固まった思考や生き方を、ほんの少し変えるだけで訪れるだろう新しい未来を感じさせる。
ただねえ、私的にはそんな中にさらにユーモアがちりばめられていた前の路線の方が好きかなあ。
あと、絵画をめぐる小説といえば、「楽園のカンヴァス」や「暗幕のゲルニカ」など私の大好きな原田マハさんの小説がすぐに浮かんでくるんだけど、これら原田マハさんの作品と比べると、今回の青山美智子さんの作品との間には決定的な違いがある。
それは原田マハさんの小説に登場する作品は、ルソーやピカソが描いた本物の名画であり、実際のその作品のイメージからストーリーに思いを馳せることで、より一層の感情移入をすることが出来た。
対して、本作の重要なキーとなる「エスキース」は、小説の中で創作された絵画なので、頭の中に描かれる絵のイメージが曖昧ではっきりせず、話の内容自体までもがちょっとばんやりしてしまった感がある。
ただ、この作品にはそんなことなど物ともしない、ミステリー小説顔負けのとんでもない仕掛けが組み込まれている。
これが本屋大賞第2位となった要因だろうねえ。
本の帯に書いてある、
”二度読み必死の感動作”
は大げさではなく、私も読み終わった後、すぐに続けてもう一回読んでしまった(^^)
これは凄い!