
甘い会津みしらずか柿の季節になりました。そしてこのおいしい柿を私の思い出のお姫様にそっと送ってみようかと思いました。
私は5歳の時の4月、父の仕事で奥会津の小さな集落で暮らすことになりました。そして新しい家の隣には可愛い4歳の女の子がいたんですよ。
80年も遠い昔のことです、幼稚園も保育所もない時代です。私たち二人はいつも一緒に遊ぶようになりました。桜の花の時も、美しい夕焼けの時も、寒い冬の炬燵の時も私たちはいつも一緒でした。
でも、私が6歳になった4月、父の仕事でその村を離れて二人は別れました。そして80年が過ぎたある日、ふとした事でその人の電話番号も住所も知ることができたのです。
過ぎた80年の月日はありましたけど、遠い昔の幼いその人のことはいつも心にシャボン玉のような美しい思い出になって浮かんでおりました。
遠いそんな幼い昔のことあの人は覚えているはずがない。思い悩みましたけど懐かしさに一度だけ電話したんですよ。
「Hさんのお宅でしょうか、山たろうですけどおわかりになりますか・・」
しばらく電話は無言でした。迷惑電話しちゃった、お詫びして切ろうとすると「懐かしいです。私も幼い時の楽しかった一年をしっかり覚えていますよ。嬉しいです。」そして「あれって、私たちの初恋だったのかしらね。」明るい笑い声でした。私もおかしくなって「5歳と4歳の初恋・・ね」と笑いました。そしてしばらく思い出のいろんなことに話しが弾みました。
でも、電話はそれ一度だけです。美しく楽しい幼い日の思い出を86歳のじじいと85歳のおばあさんの今で壊したくなっかったからです。
でも甘い柿を食べながらふと思ったんです。
「美しい思い出のお姫様、会津の美味しいみしらず柿です。食べてください。山たろう」 そう書いた付箋だけをつけて送ってみようかしら、そうおもったのです。
もちろん、私のアドレスなど余計なことはつけずに私の思い出の夢だけを送ってみようかしらと思ったんです。
今日は深い霧の朝でした。でもどうやらしばらくぶりに晴天になりそうです。初冬の山の落ち葉の道を散策してみるつもりです。