とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

舞台の準備

2012-12-18 22:27:19 | 日記
舞台の準備




 ご縁劇場舞台照明のテスト

 郁子さんの仲間たちと京子さん、笙子さん、それに古賀所長が加わって照明の調整作業が続いていました。私は、例年のごとく風邪をこじらせて佐山医院通いをしていました。そのためか、舞台の光が目に突き刺さるように感じられました。舞台の下で郁子さんがそれぞれの係りにしきりに指示を飛ばしていました。中村仙女の出雲の阿国の公演が年末にセットされたので、神楽や太鼓の方にも古賀さんが連絡しました。


 花道の照明は最初はスポットでやるので、後からの切り替えを旨くやってちょうだい。郁子さんが言うと、舞台の奥の方から返事の声が聞こえました。

 古賀所長、最近の照明器具はすべてパネルで操作するんでしょ。私は聞きかじりの知識をたまたまそばにいた所長にぶつけてみました。

 よくご存知ですね、畝本さん。でも、ここの場合、器具は借り物の寄せ集めですし、もともと体育館ですから照明用の配線がしてないので、専門家の郁子さんでも出来ないことがたくさんあるんですよ。でも、ここまでできればほとんど支障はないと思います。キャストの声も吊り下げのマイクでは拾えないこともありますので、床の隠しマイクもたくさんつけてあります。動き回る役柄の方にはピンマイクを付けて貰います。あと、追っかけがどのくらい来るかですね。フアンが多いですからね。

 そうですか、よく分かりました。で、役者さんは何人くらいですか。

 踊り子さんも含めて50人くらいを予定しています。

 大変な人数ですね。費用は莫大な額になりますね。

 ありがたいことに、すべてあちら持ちです。出雲の阿国の演劇を所縁の土地で行うことにすごい情熱を傾けていらっしゃるようです。この度の震災の後でも被災地で公演なさっています。

 被災地でも。

 そうです。仙女さんは相馬のご出身だそうです。

 えっ、相馬、・・・道理で。

 えっ、何かあったんですか。

 いえ、何でもないです。・・・ご縁はほんとに不思議ですね。

 そうです、そうです。古賀所長は納得したようにそう言いました。

 しかし、待ってください、古賀さん、仙女さんの生まれは諏訪ではないですか。私はかつての仙女さんの話を思い出しました。

 畝本さん、芸能人の出自はあれこれ言われるんですよ。特に有名になると関係する土地の人が何かと結び付けようとするんです。・・・諏訪ですか。・・・ああ、分かりました。諏訪は相馬の次の公演地です。生まれたばかりの仙女さんはすぐに諏訪に移っています。期間としては諏訪の方がが長いと思います。だから、後で思い出しても相馬と諏訪は結びつくんじゃないでしょうか。・・・しかしどうしてそんなに詳しいんですか。

 い、いや、・・・あの、誰かからそう聞いたような・・・。私は苦しい弁解をしました。

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