とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

窯場の女性

2013-11-22 18:22:55 | 日記
窯場の女性




STUCK, Franz von (1863-1928) 「Pallas Athena」(1898)

 シュトゥックのアテナ像である。私は一目見て男女の区別がつかなかった。ただこの像が放つオーラに圧倒された。けばけばしくない。洗練されていてかつ穏やかである。平和と学芸を愛する強くて知的な女神像として力強い安心感を感じさせてくれる。勿論、右手に掲げている像はニケである。

 
 古賀さんや長柄さんと一緒に仕事をしていると、私は非常に落ち着くことができました。もともとあの空き家から3人の出会いは生まれました。それから恐ろしいくらいにあちこちと進展し、大きなうねりが生まれました。・・・骨を埋める場所はここ。そうかもしれない。空き家探しの目的はそこにあったのか。そんな気持ちがしている昨今です。
 見回り隊の仕事でここ数日間外回りをしていました。男女含めて30人の若者を迎えることができました。見回りの場所はそこだけではなく、冴子さんの画廊、京子さんのアトリエ、佐山医師の奥さんの仕事場、氏神様の笙子さん、それに小室さんの窯場、岡田さんの農場もすべて含まれています。ひと月間では、長柄さんと手分けしてもすべて回ることはできません。多忙だということはすばらしいことだと思えるようになりました。
 ある日、窯場に行きました。するとそこで中年の女性が仕事をしていたのです。その女性は窯焚きの手伝いをしていましたので、新弟子だと思って、小室さんにどういうお方か尋ねませんでした。事務所に帰って、古賀所長にそのことを報告すると、思わぬ返事が返ってきたのです。ああ、里見多歌さんですか。ご存知でしょ、倭歌子さんの、いや、麗華さんのと言った方が・・・、お母さんですよ、と言う返事。私は驚きました。

 どうしてあそこに・・・。

 長い間、小室さんを里見オーナーは退けていたようです。ところが、出雲であの山の観音像を見て、その作者が小室さんだと分かってから、急に二人の仲を認めるようになりました。それから三朗さんたちの養子の話が持ち上がって・・・。

 で、二人は・・・。

 将来に備えて京都から多歌さんが出雲に来たという訳ですから・・・。

 じゃ、結婚ということ・・・。

 そうです。笙子さんのお宮で式を挙げたそうです。

 じゃ、里見家から引いて、三朗たちに家を譲ったという・・・。

 完全に引かれたのかどうか、私もよく分かりません。しかし、ああして手伝いをしておられるところを見ると、多歌さんはいずれ完成するメイン劇場で活躍したいのではと思います。

 活躍・・・。

 そうです。才媛ですよ。市川華園劇団の舞台監督の助手もしていましたし、服飾デザイナーでもあります。シナリオライターでもあります。

 すごいお方ですね。

 そうです。才能が出雲に続々と集結しました。あの宿舎には他にもたくさん来ています。・・・ああ、それから大事なことを忘れかけていました。

 なんでしょうか。

 出雲画廊で働いている千賀子さんですが、三朗さんの後任の事務局長に内定しています。劇団は女性が大多数ですから、女性がふさわしいかもしれません。

 オーナーの判断ですか。

 いや、多歌さんが推薦したらしいです。

 へえー、そうですか。でも、彼女は美術畑の専門家では・・・。

 千賀子さんは、ご存知のように意志が強く、ものごとの折衝とか、企画力の面ですごい手腕を発揮した人です。所謂演劇人として働く訳ではありませんから大丈夫だと思います。理事会もフリーバスですよ。

 冴子さん寂しがると思います。しかし、新阿国座という大きな組織を任された訳ですから、彼女頑張るでしょうね。面白い人事ですね。いいところに目を付けましたね。

 ええ、これから面白くなります。二人の阿国のシナリオの最後の詰めが進んでいるようですから、いよいよ新体制が動き出します。

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