とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

メイン劇場への坂道

2014-03-03 23:28:57 | 日記
メイン劇場への坂道




  ウォーターハウス「ヒュラスとニンフたち」(1896年)

画面左でニンフに腕をつかまれている男。彼は血のつながりはないもののヘラクレスが我が子として育て、しかもヘラクレスの恋人でもあったという美少年である。旅の途中で清水を求めて立ち寄ったある島で、ヒュラスは妖艶なニンフたちが住む池にたどり着く。水面を覆うのは白睡蓮の葉。白睡蓮の学名は「ニンフェエア」という。その睡蓮のように愛くるしいニンフたちはヒュラスを虜にし、池の底へと誘う・・・。

 

 劇団鼓笛が地方公演に出発した日、ご縁市場の前には大勢の見送りの人たちが集まってきました。警察官とガードマンに警護された劇団のバス二台が旧校門を出ると、佐久良ガンバレ!! とか、鼓笛バンザイ!! という激励の言葉があちこちから飛び交いました。バスの窓からは身を乗り出して手を振る劇団員の姿がたくさん見られました。
 私と園田はそういう姿を確かめて、完成間近の新阿国座メイン劇場への坂道を登っていきました。道路はすでに舗装してありました。左側は谷川。右側は崖。ガードレールはあるものの少し怖い感じの道でした。


 園田、大工事だね。

 ええ、この道路を歩いているとそう感じます。

 歩いて行ってよかったよ。

 ええ、すべて見えますからね。

 ああ、建物が見えてきた。・・・すごい、まるで宮殿だね。

 ほんとです。思ったより大きいですね。

 三朗がいるはずだ。

 そうですか。来ておられるんですか。

 舞台の仕上げを確認している筈だ。

 三朗さん、女の園のチーフですね。

 そういうことになってしまった。

 しっかりしておられるから大丈夫ですね。いろいろ心配しなくても・・・。

 何を心配してたんだ。

 いや、・・・いろいろと。

 下種の勘ぐりは止めてくれ。

 言葉に謹んでください。

 ああ、ごめん、ごめん。

 先生はこの新しい世界の中でどういうことをなさるお積りですか。

 うん、・・・見守るだけだ。もう大きく動いている。

 劇場に入ると、ほぼ完成した舞台と客席が広がっていて、夢心地になるようないい気持ちに私はなりました。三朗は施工した数名の関係者と舞台の上で何か話をしていました。
私はまた翼の音を聞きました。佐久良はここを羽ばたく。観客はその姿を見て驚嘆する。そして、佐久良は三朗を空へさらっていく・・・。おい、おい、待てよ。そんなお告げはどこから聞こえてくるのか。

 園田、悪いお告げを聞いた。

 佐久良が・・・。

 佐久良がどうかしましたか。

 いや、言えない。

 言えない。・・・先生、そのことですよ。私がさっき申し上げましたのは。

 三朗は新阿国座のオーナー、決してそんなことはありえない。

 先生の役割の一つが見えてきました。

 うん、分かっている。邪心を制圧することだ。

 園田、しっかりお手伝い致します。

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