とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

消えた像

2014-03-21 23:45:20 | 日記
消えた像





紀元前1世紀頃にギリシャで作られたニケの小像


 劇団鼓笛の関東地方での公演の模様を家のテレビで視ました。と言ってもニュース番組でしたのでほんの数分だけでした。やはり最後の場面でした。翼を付けた佐久良が天井に張られたロープに吊り下げられて客席の後方から登場し、舞台の上に到達するとロープから離れて飛び上がり、舞台の上を旋回しました。客席からどっと驚嘆の声が湧き上がりました。翼はもとからあったもののようにゆったりとした動きで佐久良を支えていました。
妻が入ってきて、佐久良さんは鳥になったみたいですね、と言いました。いや、みたいではなくて、ほんとに鳥になったんだよ。私はそう言いました。まさか、と妻。・・・そんな話をしているとき、農園の岡田さんから電話がありました。


 畝本さん、すみません、夜分に電話しまして。

 いえ、いえ。・・・どんな・・・。

 最近気が付いたんですが、消えているんです。

 えっ、何がですか。

 観音山のニケです。

 えっ、ニケがですか。

 そうです。農園の宿泊チームの一人から聞いたんですが、最初は、そんな・・・と思っていました。しかし、夜確かめると確かに消えていました。化学物質が時間とともに変質したのでは・・・。

 私も確かめますが、物理的な現象ではないと思います。・・・どう言いますか、ほんとに抜け出したんだと思います。

 抜け出した・・・。

 そうです。抜け出したんです。

 小室さんにも聞きましたが、焼き付けた染料は退色することはないと仰っていました。

 そうだと思います。退色ではない。・・・抜け出した・・・。

 そんな・・・。

 ほんとだと思います。

 確かですか。

 そうです。

 じゃ、どこへ行ったんですか。

 佐久良をご存知ですか、凰佐久良。

 鼓笛のお方ですね。地方公演に出かけていらっしゃる・・・。

 そうです。

 佐久良さんがどうしたんですか。

 貴方は佐久良の舞台をご覧になったことはありますか。

 いや、ありません。しかし、話題になっているようですね。

 ええ、彼女は飛べるんです。

 ええっ、飛べる、・・・どういうことですか。

 ですから、ニケが乗り移ったんだと思います。以前は火の鳥が乗り移りました。

 火の鳥、・・・ああ、あの夜、・・・思いだしました。すごく夜空が輝いていました。

 彼女は人間ですが、人間ではないかも知れません。

 人間ではない !!

 いや、私の妄想かも知れませんが。

 妄想ですか。

 いや。妄想の中に真実があります。

 さっぱり分かりません。

 いずれお分かりになると思います。

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