「本当の優しさを証明せよ」
寒い冬の日
テスト用紙をひらひらさせて途方に暮れ
僕は窓から外の風景を眺めていた
2Bの鉛筆をくるくる指先で回して
鉛筆を取り損ねて床に落としてしまった
数学の教師が鋭い眼差しで僕を凝視し
困惑した僕の後ろで
君がくすくす笑った
あたらしい研ぎたての鉛筆で
僕はテスト用紙の裏に
ジョン・レノンのイマジンの歌詞を書いた
それから程なくチャイムの音が流れ
レノンの夢は無造作な
ベルトコンベアーの機械的な流れ作業で回収された
「本当の優しさを証明せよ」
僕等は理科室の準備室で
ビーカーで沸かしたお湯で珈琲を淹れ
コンロの火で両切りのピースを吸った
なんで笑ったのさ?
僕の問いに君は面白そうに紫の煙を吹きかけた
あんたが「想像せよ」なんて書き込むからだよ
なんのことさ?
テストだよ。数学の証明問題。
絶対書くと想ってたら案の定だったからね。
あんたはいつも僕の期待を裏切らない。
僕を裏切らないのはあんたの冗談じみた滑稽さだけだよ。
皮肉に微笑んで君は珈琲を飲んだ
君はなにも信じなかった
教え込まれる知識やら道徳や観念や
零れ落ちる砂時計の砂や
優しさや饒舌なアジテートや
大人とよばれる者すべてを拒否した
もちろん
君が一番信じなかったのは
狡猾な君自身だった
君は煙草と珈琲と音楽と詩が好きだった
本当のところ
どうして君が僕なんかを友人に選別したのか
はっきりした事は分からない
いつだって君の領域に侵入した者達を
君は軽蔑した眼差しで嘲っていたのだから
君には過去も未来も無かった
過ぎ去る直前の瞬間
其の瞬間だけに価値を与えた
「本当の優しさを証明せよ」
君が消え去った世界で
僕は呑気なあくびをしている
街から遠く離れた此処でも
寒さが増してきたような気がする
暖炉の前で少女がタロットをめくっている
僕はワインのボトルを空にする作業に追われていた
赤い雫がグラスの表面に数滴浮かんだ
ねえ
そのカードで僕の人生も占えるのかい?
あたりまえよ。
少女は難なく一枚のカードを切った
「愚者」のカード
あきれ果てた僕を尻目に少女はくすくす微笑んだ
カードを切るまでも無いわよ。
あなたのことならね。
本当のところ。
あなたのそのちんぷんかんぷんさにほっとするのよ。
少女はカードをめくり続けている
そんな言葉を何処かでおなじように聞いた事がある
「本当の優しさを証明せよ」
何の事?
不思議そうに茶色い目が覗き込む
なんでもない。懐かしい想い出の話だよ。
あいかわらずちんぷんかんぷんね、あなた。
うん。
そう。ぼくはちんぷんかんぷんな存在なのだ
寒い夜にただワインやらウイスキーを舐める
時代錯誤な存在
永遠に証明されない公式
そういえばさ。
なによ、今度は?
少女がうんざりしたように問い返す
冷蔵庫に隠しておいたピクルスは何処にあるのか占ってよ。
少し顔を赤らめて彼女は怒り始めた
ピクルスなんて存在しないわ。
どうして?
食べちゃったからよ。
ふ~ん。
占うまでも無いわ。
存在はいつか磨耗され消滅するのよ
跡形も無く
きれいさっぱりね
きれいさっぱり?
そう。
きれいさっぱりに。
少女はそれから可笑しそうに問いかけた
「本当の優しさを証明せよ」
消えた君を想う
理科の実験室と謎解きのテスト用紙の行方
寒い冬の日
テスト用紙をひらひらさせて途方に暮れ
僕は窓から外の風景を眺めていた
2Bの鉛筆をくるくる指先で回して
鉛筆を取り損ねて床に落としてしまった
数学の教師が鋭い眼差しで僕を凝視し
困惑した僕の後ろで
君がくすくす笑った
あたらしい研ぎたての鉛筆で
僕はテスト用紙の裏に
ジョン・レノンのイマジンの歌詞を書いた
それから程なくチャイムの音が流れ
レノンの夢は無造作な
ベルトコンベアーの機械的な流れ作業で回収された
「本当の優しさを証明せよ」
僕等は理科室の準備室で
ビーカーで沸かしたお湯で珈琲を淹れ
コンロの火で両切りのピースを吸った
なんで笑ったのさ?
僕の問いに君は面白そうに紫の煙を吹きかけた
あんたが「想像せよ」なんて書き込むからだよ
なんのことさ?
テストだよ。数学の証明問題。
絶対書くと想ってたら案の定だったからね。
あんたはいつも僕の期待を裏切らない。
僕を裏切らないのはあんたの冗談じみた滑稽さだけだよ。
皮肉に微笑んで君は珈琲を飲んだ
君はなにも信じなかった
教え込まれる知識やら道徳や観念や
零れ落ちる砂時計の砂や
優しさや饒舌なアジテートや
大人とよばれる者すべてを拒否した
もちろん
君が一番信じなかったのは
狡猾な君自身だった
君は煙草と珈琲と音楽と詩が好きだった
本当のところ
どうして君が僕なんかを友人に選別したのか
はっきりした事は分からない
いつだって君の領域に侵入した者達を
君は軽蔑した眼差しで嘲っていたのだから
君には過去も未来も無かった
過ぎ去る直前の瞬間
其の瞬間だけに価値を与えた
「本当の優しさを証明せよ」
君が消え去った世界で
僕は呑気なあくびをしている
街から遠く離れた此処でも
寒さが増してきたような気がする
暖炉の前で少女がタロットをめくっている
僕はワインのボトルを空にする作業に追われていた
赤い雫がグラスの表面に数滴浮かんだ
ねえ
そのカードで僕の人生も占えるのかい?
あたりまえよ。
少女は難なく一枚のカードを切った
「愚者」のカード
あきれ果てた僕を尻目に少女はくすくす微笑んだ
カードを切るまでも無いわよ。
あなたのことならね。
本当のところ。
あなたのそのちんぷんかんぷんさにほっとするのよ。
少女はカードをめくり続けている
そんな言葉を何処かでおなじように聞いた事がある
「本当の優しさを証明せよ」
何の事?
不思議そうに茶色い目が覗き込む
なんでもない。懐かしい想い出の話だよ。
あいかわらずちんぷんかんぷんね、あなた。
うん。
そう。ぼくはちんぷんかんぷんな存在なのだ
寒い夜にただワインやらウイスキーを舐める
時代錯誤な存在
永遠に証明されない公式
そういえばさ。
なによ、今度は?
少女がうんざりしたように問い返す
冷蔵庫に隠しておいたピクルスは何処にあるのか占ってよ。
少し顔を赤らめて彼女は怒り始めた
ピクルスなんて存在しないわ。
どうして?
食べちゃったからよ。
ふ~ん。
占うまでも無いわ。
存在はいつか磨耗され消滅するのよ
跡形も無く
きれいさっぱりね
きれいさっぱり?
そう。
きれいさっぱりに。
少女はそれから可笑しそうに問いかけた
「本当の優しさを証明せよ」
消えた君を想う
理科の実験室と謎解きのテスト用紙の行方