眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

記憶の博物館

2024-11-25 | 
壊れた僕らの
 想いは砕け散った
  割れた鏡に映る虚像
   あの街の風景
    寒い冬に
     ダッフルコートを着て
      街角に立ち尽くす
       幾人かの幸せそうな笑みを眺め
        暖かい暖炉の窓辺を想った
         静寂に身を潜め
          雪だ
           白い呼吸で君の名前を探した
            けれども僕には  
             君の名前も僕の名前も想い出せなかった
              記憶が真っ白な雪で覆われる頃
               煙草を吸い
                白く灰になる現象を考察した

                記憶

               膨大に蓄積された筈の思い出たちは
              いつのまにか全て消えて無くなってしまった
             壊れたブリキの玩具の様に
            それらには何の意味も見当たらなかった
           想いや記憶や色彩や音色は
          いつしか壊れ物のラベルを貼られ
         何処かの工場のベルトコンベアーに流された
        壊れた僕らの想い

       手紙を書くよ

      そう云って
     君はこの世界から永遠に消え去った
    そうして
   君からの手紙は決して届かない
  幾億光年待とうとも

 君の正義で僕の罪を罰して

 お願いだ

 全ての事象はその色合いを失った
  僕にはもう現実感が分からなくなったのだ
   手に取る想いは全てよそよそしい態度で
    僕の魂から零れ落ちる
     境界線の傍らで
      密やかに咲く一輪の花の様に
       消え去る感情
        感情そのものが
         其処から零れ落ちるのだ
          ただ静寂を祈った
           静かな眠りを
            
           手紙を書くよ

           君の輪郭がもう想いだせない
            君の名前が見当らない
             正当な理由で
              虚構の世界は打ち砕かれる
               明日も雪なのだろうか
                あの記憶の街は

                 現実とは何者だろう

                僕はその者を掴みきれない
               虚空の果てに
              虚脱し
             乖離し
            分解される
           壊れた玩具の博物館
          入り口で黒猫が微笑む
         本に描かれた手法で魔法を唱えた
        もはや現実は現実ではなく
       散りばめられた詩の数だけ
      世界が表出した

     緑の植物のため息

    お願いだ

   乱反射する呼吸

  この世界の真実

 界隈の森で

鳥が飛び立つ

 静けさの虚構

  壊れた想い

   壊れた玩具の博物館

    陳列された

     僕らの記憶


      何処かの街の


       記憶の博物館にて


















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大切なもの

2024-11-22 | 
雨降りの夜
 少女がお酒を舐めながらぼんやりと呟いた
  
  ね
   あなたには大切なものがあるの?

    どうしてさ?

     手元のグラスを悪戯しながら少女は云った

      だってあなたからそういうこと、聴いたことがないから。

       僕は煙草に灯を点け
        しばらく考え込んだ
         窓の外は風が強く雨が横殴りに荒れている
          そんな夜だった

          窓の外の景色を眺めながら
           僕等はぼんやりしていた
            寮監先生に見つからない様に隠したお酒で
             君も僕もふわふわとした感覚に酔いしれていた
              君は飽きることなく楽器を悪戯し
               まだ少年だった僕は
                君の技巧的な指使いに驚嘆した
                 目まぐるしく変わる和音の構成音は
                  まるで理解の範疇を超えていたけれど
                   複雑な伴奏と
                    切ない主旋律が君のギターから生み出される瞬間を
                     ただ愛おおしく想った

                     すごい
                      よくそんな難解な運指が出来るよね。

                       君はクッキーを齧りながら微笑んだ

                        難解な運指はただの技巧さ
                         大切なものはもっと別の処に存在するんだよ

                         例えば?

                        僕の皮肉な質問に君は丁寧に答えた

                       君が大切にしている物語を
                      君は何度も広げて読むかい?
                      
                     僕は時間をかけて答えた

                    読まないね。
                   でもどうしてだろう?
                  考えたこともなかった

                 本当に大切なものは
                心の中のいちばん柔らかい処を刺激するんだ
               だから心は其れには耐えられない
              心にも準備が必要なんだ

             ふ~ん。

            ね、
           今日はとっときの曲を弾いてあげるよ。
         
          君は面白そうに僕の瞳を覗き込んだ

         いいの?

        うん。
       やがて全ては終わりを告げるよ
      だから君に僕の大切な音楽をプレゼントすることにするよ。
     
     そう云って君はギターを構え直した

    それからギターを弾いた
   流れてくる音楽はとても切ない旋律だった
  どうしてだろう?
 自然に涙が溢れてきた
泣きじゃくりながら音楽に耳を澄ませた

  ありがとう。
   でもね、君はいつかこの旋律をわすれるよ
    全ては記憶の底に沈殿するんだ
     それはどうしようもないことなんんだ。
      君はいつか僕の存在を忘れる。
       忘却され記憶。
        いずれ摩耗される黒白フィルムのようにね。
       
        泣きじゃくるぼくの頭を君は抱きしめた

         君は悪くない
          其れは世界の在り様なんだ。
           だから哀しまなくてもいいんだよ。

            ぼくはずっと泣いていた
             激しく雨が降り注ぐそんな夜だった
              それから月日が流れた

              僕は少女に声をかけた
       
               あるよ。

               なにが?

              大切なもの。

             少女は不思議そうにフランスパンに齧り続けている
            パンを飲み込むと
           少女は興味津々で僕に問いかけた


          それであなたの大切なものは?

         僕は苦笑した

        酔い覚ましに君に飲んでもらう豆のスープかな?

       一瞬少女は残念そうにしていたけれども
      すぐに機嫌をよくした」
     
     あなたの豆のスープは大好きよ

    僕は台所でスープの準備にとりかかった 
   
   そんな夜

  そんな雨降りの夜だった











        
       
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風邪

2024-11-19 | 
朝晩の気温の変化の激しさと、日頃の行いの悪さで風邪をひいた。
寒気はするし頭は割れるほど痛い。
あるだけの薬をワインで飲み干して寝た。
ベットの上で目覚めると、少女の心配そうな顔がぼんやり見えた。

  「あなたね。
   どうして風邪ひいてるのにお酒なんか飲むのよ?」

  「玉子酒が利くっていうからさ。」

  「お酒が良いわけないわ。だいいちワインに卵なんかはいっていないじゃない。」    

彼女が呆れた顔をする。
   でも・・・。
言い訳しようとする僕に、少女は、さっさっと寝なさい、と言った。

朝方にもの凄い寒気で目が覚めた。
少女は林檎を小さく切って、僕の口にほうり込んだ。
冷たくて美味しい。
また眠気が襲ってきた。

   どれくらい寝たのだろう?

    起きると、少女はじっとこちらを見ていた。
    
     寝てないの?
    あなたがわたしの分まで寝たわ。

   コップに水を汲んでくれた。

    いまは何時?
   朝よ。まる一日眠っていたわ。

 気分は?
  
   悪くない。熱も下がっているようだ。
    彼女は僕の額に手をのせた。
  もう大丈夫よ。
   彼女がそういうと、人生の何もかもが上手くいきそうな気がした。

 だいいち、
  「あなたね、お薬ばかり飲んじゃだめよ。」

  パンとサラダを僕の口につっこみながらつぶやいた。
   今のひとはみいんな、そうよ。
  そして、おおきなグラスを持ってきた。
 よくわからない緑色の液体がなみなみと入っている。

   なに、これ?

  「ヨモギよ。これで風邪なんかすぐ治るんだから。」
   まじめな顔で少女はじっと僕の目をみた。
    一口飲んでみると、すごく苦い。
  「これ、ぜんぶ飲まないといけないのかな?やっぱり。」
   あたりまえでしょ。
  昔は、これでからだの悪いものよくしたのよ。おばあちゃん達がいつも云ってるわ。  
   苦いんだけど。
  そう云うと
   あんまりわがままいうんだったらバケツいっぱい飲ませるわよ。
    というので、しょうがなくグラスの緑色の液体を飲み干した。

  これで。
   良くなるわ、眠りなさい。

     僕は深くねむった。

  つぎに目が覚めると、風邪は良くなっていた。
少女は、椅子で毛布に包まって本を読んでいた。

   何を読んでるの?
    童話よ。それより風邪、治った?
   うん。だいぶいい。
    よかったわね。

   窓の外は柔らかな日差しをはこんでくれた。

   僕らはならんで、はっか煙草を吸った。
    一本だけよ。
     彼女は今日一日、僕を監視するつもりらしい。

    お薬なんかより。
   おばあちゃん達のほうが治し方知ってるのよ。
    
   そういって、またヨモギ入りのグラスを僕の目の前に置いた。

    飲みなさい。治っちゃうから、わるいところぜんぶ。

     今度は僕も黙って飲み干した。

     わるいところぜんぶ治るから。

      少女はとても優しい笑顔を浮かべている。










   
  
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ばらっど

2024-11-15 | 
ジャック・ダニエルの蓋を開けた
 たまにはゆっくりと飲もうよ
  僕は使い慣れたタンブラーグラスに独白する
   光景は薄汚れた存在を霞める
    残り物のキャンドルライト
     灯が暗闇に揺れ
      アンモナイトの呼吸のリズムで煙草を吸った
   
       3日飲まなかったアルコールは意識を弛緩させ
         軽く酩酊した態で戯言を云う
         グラスは冷静であたまが良いので
          僕の言葉に振り返らない
           唯 時間が移ろうだけ
            湿度の高いこの島で
             扇風機が優しく微笑む

             古いテレヴィジョンで昔の唄が流れた
            作り物だけれど決して安易ではない唄たち
           はじめて「ばらっど」なんて作った僕は
          気恥ずかしさの影に
         変わらぬ世界の在り様を模索した
        もう誰の唄も批判せぬよう誓った
       それが何がしかの魂を有する故に
      誰かを記憶した所作を侮蔑する真似だけはするまいと
     自己弁護だろうか?
    そんな気になったりもする
   忘れてしまったけれど
  君を想い創った旋律は決して嘘ではなかったんだよ
 だから
誰かが誰かのことを想い創った「ばらっど」を嘲笑することは出来ないのさ
 
 例えばさ
  あの君に於いて大切だった宝物を
   彼等は笑った
    必死で暮らす君の日常を白夜が皮肉に嘲笑する
     君は違うんだ、と唄い続けるだろう
      ラジオから流れた君の心は
       今夜も垂れ流された情報として錯綜するだろう
        一片の跡形も残さず
         君の心は酔いどれの嘔吐と成り果てる
          
         クラスの隅っこで歌った唄は
        時代錯誤だと相手にもされない
       それでも僕らは歌い続けるべきだった

      勝つ必要もない
     けれど
    負ける必要もない

           
                 3時間かけてボトルの半分を飲み干した


           心を込めて演奏すれば
          きっと想いは伝わる
         心を込めて言葉にすれば
        きっと優しさに触れる

       ばらっどの呼吸

      深夜三時に送ろう

     歌い続けていて

    語り続けていてね

   僕は笑わないから

  キットダヨ









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最果ての国

2024-11-12 | 
そう遠くない時間に
 僕は夢を見ている
  草原の大地で旅の支度を始める事を
   全てを捨て
    全てを得る為に
 
    永遠に続く筈の無い時間を
     成長と呼ぶのだろうか?
      あの記憶も
       したり顔で舐めるウイスキーの余韻になるのだろうか?
        それでも
         僕の時間は未だ発酵する気配を見せず
          生々しい傷跡は
           いつだって心を遥か郷愁に満たす
            僕らは音楽と
             煙草とアルコールを愛した
              君と僕と彼等全ての存在を愛した
               あのバーで
                毎夜繰り広げられた狂乱を愛した

                全ての名残が飽和した頃
               僕らは何時しか記憶を賛美し始めた
              友人と語る時間は
             何時しか肥大した想像上の産物となった
            記憶が薄れてゆく
           だけれどもあの痛みだけが残った
          もう会えない人々
         君達の存在を決して忘れない筈だったのに
        遠い異国の地で
       貴方は生ぬるいギネスビールを飲み干しているのだろうか?
      重く垂れ込めた空の下で
     貴方はあの時代をどう咀嚼したのかな?
    僕の神経は多少疲れ気味なのかもしれないね

   苦しいくらいの想いを
  記憶を
 街の街路樹を
刹那の孤独を
 夢見た地平は
  それほどまでに暖かくは無くって
   孤独に逃げ込む闘争は
    いつだって寒すぎる夜を暗示する
     バーボンを飲み干し
      全ての情報を遮断する
       五感を閉ざし
        意識を無分別な残飯処理施設に託す
         
        君は笑い
         泣くのだろうか?
          繰り返す日常が怖いのだ
           泣き出した子供の
            子供の手のひらから赤い風船が宙を舞う
             街の通りで
              僕等は赤い風船の上昇を眺め
               途方に暮れるのだ

               離しちゃいけなかったんだよ
 
              握り締めた手のひらを

             悔しさに紛れて握り締めた抵抗を
     
            離すべきではなかったんだよ

           僕は郷愁を

          貴方は外国行きの航空券を手にして

         互いに世界の果てを目指したのだ

        最果ての国

       最果ての記憶









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11月のある日の出来事

2024-11-01 | 
中庭のベンチで
 食べかけのホットドックを齧ってコーラを飲んだ
  ホットドックを食べ終わると
   その後に何をすべきか数秒悩んで
    やはりポケットからクシャクシャの煙草を引っ張り出し
     何も考えずに火をつけた
      白い煙がゆらゆらと微かな風になびいた
       それが最後の光景だった

        食事というのは頑張って食べる物なの?

        緑色のセーターを着た少女が独り言の様に呟いた

         どうしてさ?

         だって、
          だって此処では皆が頑張って食べなさい、と云うもの。

          彼等の口癖なんじゃないかな?たぶん。

         僕はそう答えた

        あなたも頑張って食べろと云うのかしら?

     緑色のセーターから伸びた白く細い手首を眺めながら僕は苦笑した

      たぶん云わないんじぁないかな、
       だってそんな風に云われると余計に食べたくなくなるよ、僕だって。

       少女は嬉しそうに微笑んだ

     それじゃあ、あなたはわたしの共犯者になれるわ。

    友達じゃなくて?

   僕がそう云うとくすくす微笑んで彼女は煙草をくわえた
  丁寧にマッチをすって僕はその煙草に灯をつけた
 ありがとう、と少女は云って不思議そうに僕の顔を見つめた

どうして困った顔をしているの?

 少女の問いにゆっくり考え込んでから僕は答えた

  たぶん此処でそんな言葉聴いたのが初めてだったからじゃないかな。

   ありがとうの事?

    そう、それ。

     ありがとうって人に云われたのたぶん久しぶりすぎてね。

      ふ~ん。
       そうね、此処ではそんな言葉あまり聴かないものね。

        少女は奇妙に納得して
         ありがとう、どういたしまして、と魔法の言葉の様に繰り返した

          僕等はくすくすと笑った
           食堂のおれんじ色の蛍光灯の下で暖かな紅茶を飲んだ
            少しだけしあわせな気分に浸れた
             優しい夜の空気
              親密な世界が構築された
               それが虚構の産物だったとしても
                それでじゅうぶんだった
                 だって世界は虚構そのものだったから
                  僕等は好きな世界を選んだのだ
                   たとえ誰かが頑張れと云ったとしても
                    それがどれ程までに無慈悲な想いなのか
                     嫌というほど味わって
                      僕等は此処に辿り着いたのだから

         少し肌寒くなってきた中庭で
        ベンチに腰かけ僕はギターを弾いていた
       退屈すると煙草を吸い
      それからまたギターを悪戯した
     ぱちぱちと小さな拍手に驚いて顔を上げると
    正面に座り込んだ緑色のセーターを着た少女がこう告げた

   あなた音楽好き?

  たぶんね。

 なにか弾いて。

少女はそう云って目をつむった
 僕はバッハのプレリュードを弾いた
  少し調弦が狂っていたけれど
   少女は気持ちよさそうに身体を揺らした
    それからヴェルヴェト・アンダーグランドの
     スィート・ジェーンを弾いた
      少女は楽しそうにギターに合わせて口笛を吹いた
       それがいつかの11月のある晴れた日の出来事だった
        少しだけ優しい記憶の11月のある日の出来事だった

         それからたまに中庭でギターを弾いていると
          静かに少女が現れるようになった
           いつもの様に彼女は音楽に身体を揺らしていた
            僕は少女に何も聞かなかった
             彼女も僕に何も聞くことはなかった
              それは此処の暗黙のルールだった
               僕等は深く傷ついていたし
                ひどく混乱していた
                 ただ音楽と煙草と暖かな紅茶があれば満足だった
  
                 それがある日の出来事だったのだ

                 僕はまだひどく混乱している
                  もうあの日の光景がしっかりと想いだせない

                  ある日少女が云った

                  あなたが此処を去る日が決まったわ。

                 どうして君には分るのかい?

                どうしてもよ。
               あなたはあの人たちの面談を受けて
              全てに答える事が出来れば此処を去るのよ。

             僕には全ては答えられないよ。

            大丈夫、今のあなたならね。

           君はどうするの?

          わたしにはまだ此処が必要なの。
         もう少し時間がかかりそうだわ。

        ねえ、いつかまた会おうよ。

       そうすることは出来ないの。決まりなの。
      あなたも分っているように。

     僕は泣きたい気持ちになった

    わたしはあなたのギター好きだったわ。
   たぶんこれからもずっとね。

  ねえ、音楽好き?

 うん。

よかった。

  ね、
   ありがとう。

    少女は静かに立ち上がってそう云った

     彼女の姿を眺めその影が消えるまで見つめた
      それからやはりポケットからクシャクシャの煙草を引っ張り出し
       何も考えずに火をつけた
        白い煙がゆらゆらと微かな風になびいた
         それが最後の光景だった

          それがある日の出来事だった

           
          それがいつかの11月のある晴れた日の出来事だった
        少しだけ優しい記憶の11月のある日の出来事だった



















                         
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