眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

GUITAR COLLECTION / Nigel North

2010-02-14 | 音楽
ナイジェル・ノースのリュートを聴いたとき、僕はあまりの美しさに驚嘆した。
美しすぎる。完璧だった。一つ一つの音が、あの繊細な音色で奏でられるとき、僕は静かに深呼吸をし瞑想のような状態に浸った。ある時はワインを舐め、あるときはウイスキーを飲みながらノースの奏でるバッハに、ある種の精神の静けさを感じた。それは何時かの長崎の古ぼけた教会のミサの静けさ。お寺で気まぐれに始めた座禅の真似事。あの空気に似ている。精神が澄み切ってゆく。僕は空であり日常に痛みつけられた心が緊張から開放されてゆく。お酒が回る世界の狭間で、僕は繰り返し音楽に身を委ねた。

師匠の、外人住宅を改装したギター教室のブロックの壁をハンマーで粉々にしたのは一体何時の事だっただろう?
雨の日だった。
僕はハンマーを振り上げ壁に叩きつけた。まるでベルリンの壁を破壊した東西ドイツの狂乱的な群集の如く。
少し違うのは、東西の壁を打ち砕く若者達の群集の歓喜の声の代わりに、缶ビール片手の師匠の容赦ない指示が飛んでいた事くらいだ。

違う。腰の入れ方が甘い!もっとこう効率的に壁を壊すんだぞ、跡形も無く破壊しろ。
僕は云われるままに無心で外人住宅の壁を破壊しつくした。
雨が意地悪くじとじとと降り続けていた。
師匠は作業が終わった僕に、うむ。ご苦労と声をかけた。それからおもむろに二枚のCDを手にとって僕の目の前にかざした。

今日の働きに対して褒美を授けよう。一枚やる、選べ。
一枚は山下和仁のアルバムで、もう一枚がナイジェル・ノースのアルバムだった。
狂気の世界なら山下、家宝にするならノース。
二枚のアルバムを持った師匠は、まえるで神話の神様みたいだった。

 あなたが湖に落としたのは金の斧?それとも銀の斧?

僕は正直に湖に落としたのは銅の斧だと云いたかった。
そうして運命に導かれる様にナイジェル・ノースのアルバムを選択した。
全てはそこから始まったのかも知れない。
師匠はやがてギタリストの命である爪を落とし、指先で弾く指頭奏法に演奏スタイルを変えた。19世紀ギターの収集を始めた師匠は、ここから独自の世界を切り開いてゆく。音楽観、哲学、奏法、演奏フォーム。
そうして僕の演奏に対する感性もやがてここで形作られる。

音楽世界が別の様相を呈したのだ。

  それから数年の月日が流れた。

ナイジェル・ノースのリュートを愛しながら僕は彼が19世紀ギターでアルバムを出していた事を師匠から耳にした。
ネットオークションで出品されているぞ。
僕等はネットの前でオークションの推移に注目していた。
やがて時間が来た。
我々はノースのアルバムを手に入れた。ミッションは成功したのだ。


1984年。AMON RA RECORDS.
GUITAR COLLECTION
Nijel North

もちろんすでに廃盤になったアルバムだ。
師匠はそのアルバムを僕にプレゼントして下さった。
当然僕はへヴィーローテーションでこのアルバムを聴いている。
このアルバムで、ノースは幾種類かのロマンテックギターを使用している。

・Renaissance Guitar
・Vihuela
・5 course Venetian guitar c.1640
・Virginals by Onofrio Guarracino,Italy 1668
・5 course guitar by Dias
・ 5 course guitar by Salomon c.1760
・ Fabricatore 1818
・Panorumo 1818
・ Panorumo 1828
・French guitar c.1825
・ Panorumo 1843


19世紀ギターの特性と奏法的な理由からか、モダンギターの様な華やかさや情感的な演奏ではなく、ノースの演奏は感情的というよりはむしろ感情のエネルギーを内に秘めつつも精神的な静けさを持って音楽を創りだしていく。
そうしてその音楽たちの繊細で、まるで青い月の夜の様な世界は聴き手を魅了して止まない。


たぶん僕は孤独で寂しい青い月の夜には、この音楽を聴きながらお酒を舐めるだろう。まるで心の傷口を音楽で舐めるように。

世界は沢山の音で満ち溢れている。

だがしかし、僕が深夜三時に選ぶ音はたぶんこんな音色だ。

世界にこんな音楽が存在する事に、まるで救いの夢をみるのだ。



  素敵だ。






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友人へ

2010-02-07 | 
繰り返す日々に飽き飽きすることもあるだろう
 平凡な毎日と
  愚らない道化の詩を笑うのかも知れない
   かつて存在した筈の記憶に
    打ちのめされる現実もあるのだろう

     なかなか会う機会もないから
      伝えておきたいんだ
  
       ね
    
      生きることは正しい

     人がささやくほど
    世界は悪いところじゃないさ
   
   ね

  音楽を唄うことをやめないでいてね
 そこにたぶん真実がある
君が大切にした音楽が
 きっと君を救ってくれるだろう
  僕は音楽を捨てなかった
   逃げる機会はいつだって転がっていた
    公園の路地や
     呆れるほど忙しい毎日の中に
      ギターケースを仕舞い込むことなんて
       チューインガムで風船を作ることくらい簡単なのさ
        
        それでも
         僕は馬鹿のように音楽を愛している
          僕は音楽に救われた
           それだけが真実だ
          
         いつかまた
          君のギターを聴きたい

          そうして
           君に再会するとき
            夢を忘れたはずかしい大人でいたくないんだ

         ほんとうに苦しいときには連絡を

        連絡がないのは
       君がしあわせである証拠だと想っている

      出会いがあり別れがあるのだろうか?
     僕はその仕組みが
    いまだってよく解らないんだ
   
   それでも
  君の物語の始まりを歌う

 ね

聴こえるかい?



長い旅から帰ってきて

 僕が君に伝えたいこと

  世界は美しい

   たとえどんなに苦悩のうちにあっても


     ね

     
    聴こえるかい?


















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独白の光景

2010-02-02 | 
独白の光景は
 甘美で綺麗なガラス細工の嘘
  機械化された
   ヴェルトコンヴェァーに流される
    意思をもたぬ
     一個の概念

  部品
   壊れた者は治さなくては
    人々の嘲笑と
     眠たげにあくびをする
      路地裏付近の白い猫
       近ずいて触れようとした瞬間
        すうっと
         まるで呼吸の様に消えて無くなる

          ありふれた日々は
           陳列された多数の光景
            やがて光を放ち
             カーテンの隙間から憂いをみせる

             猫の影が駆け抜ける
            それはまるで海の中の魚たちの魚影
           水にもぐると
          僕はこの界隈の街の雑踏を
         水面越しに眺めた

       部品

      空が解体され浮遊物が記憶の残渣となる
     固形物は優雅に咀嚼され
    微熱の意識は素早く分断されたのだ

   ある朝の光景には
  オレンジジュースが必要だよね
 こんな朝がくるなら
ずうっと眠りにまどろみたいと想うのは
 多分
  僕の意識がただの一個の部品だからだ
   不良品はジャンクショップに売り渡される
    ため息と共に
     不快指数の高い湿度の重い空気は
      必要とされなかった優しさに似ている
       欲しくも無かったチラシの類
        鳳仙花が息を密めて笑った

         独白の光景は
          多分
           存在しない一個の魂
            優しさに
             永遠に近ずけなかった暗号

              記憶の断片に

               空を投げた

                苦笑いする欠損した部品






 
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