眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

希望

2022-12-16 | 
希望と云った
 誰彼が暮らす毎日の中
  青いビー球を光に透かす
   透明な色が斜陽した
    まるで覗き見た万華鏡の世界
     僕等は誰かの分身で
      決して僕達自身では無かったのだ
       回収されない粗大ゴミ
        悪癖はチェーンスモークする煙草の本数
         フィリップモーリスの白い煙
          意識が白濁されるのだ
           困惑した日常
            回避された想い
             閉ざされた空間
              開かない扉
               聴こえない声
                僕等は
                 小さな箱庭の様な庭の花を眺めて
                  「世界」と想った

                 まるで万華鏡の類の世界ね
                
                僕が書き散らかした水彩画を見つめ
               きちんとした身なりの女性が呟く

              汚いものが見たくないんだ

             僕は感情を押し殺して答えた

            本当に?

           女性は長い髪に片手を突っ込み
          眼鏡をずらして僕の表情を伺う
         僕はポケットのビー球を握りしめる
        それだけが僕の所有物だった

       もういいんだ

      本当に?

     何かを諦めることが何を意味しているのか
    その時初めて理解したのだ
   口の中で血の味がした
  
  本当に?

 黒猫がそう尋ねた
彼はいつもの様に退屈そうにあくびをして顔を赤い舌で舐めた
 
 君はさ。
  絶望の舌触りを知っているのかい?
   厄介な話さ、
    止められないんだ
     まるで喫煙常習者の煙草の様に
      そういうの
       希望と呼んでるんだ
        昔からの慣わしでね。

        彼はミルクを舐めて僕にも薦めた

       ごめん。乳製品アレルギーで飲めないんだ、ミルク。

      猫は哀しい眼で僕をぼんやりと眺める

     希望。
    君は希望を信じるのかい?

   黒猫の問いかけはいつだって回答不能だ
  僕は途方に暮れて
 青いビー球を光にかざした

世界ってさ、
 球体で出来ているんだって。

  彼は大切な答えをそっと僕に教える

   球体?
    それじゃあ海の果ては何処なのさ?
     世界の果ても存在しなくなる。
      不可思議だよ。
    
       僕の言葉をぴっと立てた耳で聞き流しながら猫が答えた

        秘密なのさ。
         これは或る秘密のすじからの情報でね、
          世界は球体状になっているんだって。
           いちばん確かな情報さ。

           それなら
          それなら世界の果てを目指した船は何処へ向かうんだい?
         
         僕は嫌な予感がして身体が震えた

        出発点に戻るのさ。
       理論上、世界の果ては存在しない。
      我々は永遠に出発点に戻るんだ。
     終わりが無いんだ。
    だってそもそも終着点が存在しないんだからね。
   永遠に丸い世界をさまよい続けるんだ。
  永遠に廻り続けるんだ。

 乾燥した皮膚が痒かった

希望。
 キボウ。
  きぼう。

   寒空の下で僕は石畳の坂道を登った
    煙草を咥え
     ライターで灯を点けた
      一匹の猫が壁の上に座っている
       僕は
        手のひらをひらひらさせて猫に挨拶をした
         手にしたスケッチブックには
          沢山の風景が描かれている
           どれもこれもが日常の風景だった筈だのに
            いつか其の描写は観察され診断され分類される

            身なりのいい女性がスケッチブックを覗き込む

           本当にいいの?

          僕は

         僕はポケットの中の

        青いビー球を何度も握りしめる

       黒猫が窓辺にたたずんでいる


      希望


     何度か口にしてみる

    まるで初めて吸った煙草の様に

   苦い味がした



  希望








  
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遠くて近い砂漠

2022-12-07 | 
壁には
青い扉が描かれ
路地を抜けると砂漠が広がり
  
 渇いた砂が冷たく
  雲は虚ろに垂れ込めうずを巻いていた

   遠くて近い砂漠
   そこで井戸を掘るだろう
   澄んだ水の底には
   鳥の化石が眠っている

砂の上にしゃがみこみ
萎えた手のひらを見つめていると

  姿の無い駱駝がこう尋ねた
 「誰が十字架に薔薇を付け加えたのか?」

 街灯が石畳を青白く浮かび上がらせ

遠くて近い砂漠
 そこで声を聴くだろう
  駱駝が口笛を吹き
   ゆるやかな飛行が訪れる

       街角にたたずみ
       眠りのように訪れる  を待とう
       繰り返される日々は崩れゆき
       


           やがて意味を知るだろう



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