君が君でいられるなら
僕等はとても嬉しい
雨の上がった秋空の
空気の透明さに忘れかけていた記憶を想う
好きなように生きることを選んだなら
君は沢山の大切を失うよ
だがしかし
君は永遠を手中に収めるだろう
猫が呟きジャックダニエルを舐めた
永遠は素敵なのかな?
僕の問いにハルシオンがつまらなさそうに答える
永遠はわりと平凡な類さ
たとえば楽器における音階練習のようにさ
繰り返し反復を繰り返すレッスン時間のようだよ
好きに生きることはその練習に人生の半分をかけるんだよ
彼等が笑い泣きしあわせな時間を手に入れた時にすら
君は孤独に作業を続けなければならない
スラーで上昇し下降する
永遠はそんな類なんだよ
其処に意味はあるの?
意味が在るかどうかは必要とされない
決まってある事は繰り返す作業だ
螺旋階段のような昇り降りを続けるんだ
記憶を磨耗させない唯一の方法さ
君は失いながら現世に在り続ける
確かなものなど何も無い
永遠は虚無だ
失い続ける大切な者達
それでも君は永遠を手中に収めるのさ
どうして?
誰もが止めてしまい放棄した事柄だからだよ
君が感じた世界は
唯一にして無二の瞬間の連続から成る
だから君は永遠を歌い続けるのさ
澄んだ空気の空に
赤い風船が浮かんでいる
手を離した隙に
大切な何かが失われるのだ
誰もいない公園のベンチで
僕は黙って空を見上げた
それからギターケースから楽器を取り出し
ささやく様に音階を流した
それらの音たちは無数の記憶だった
誰もいない水の無い噴水に向けて
僕は歌い続けるべきなのだ
君が君でいられる様に
僕は歌い続ける
君の一瞬が僕の永遠なのだ
誰もが止めてしまった事を続ける君の為に
僕等は永遠を選んだ
たとえ君の存在が消え去ったとしても
君の存在は或るのだ
その為に僕等は永遠を選んだのだ
心配しないで
君が君でいられるなら
僕等はとても嬉しい
澄んだ空間にそっと吐息を吹きかける
緑の草原の風のように
そうっと
優しく
猫のハルシオンが
退屈そうにあくびをして微笑んだ