眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

黒板と白墨

2025-01-29 | 
余罪の残った暗闇の中で
 意識的に白線を流した
  黒板と白墨
   長所と短所を利用して
    世間を皮肉に微笑した淡いカクテル色の自意識
     追求する意識に肉薄した途端
      僕らは道に迷ってしまったのだ

      永遠を捜しにいこう。

      少女がレモンドロップを舌先で転がしながら
       僕の瞳を覗きこんだ

       永遠?

      そう。永遠に終わらない夏休み。
     風のざわめき。
    白い雲を眺めて好きな音楽を流してお酒を飲むの。
   終わらない物語。
  始まりも終末も存在しえない長い旅。
  
 僕は少女の熱病のような言葉に耳を傾けながら煙草に灯を点けた

永遠?

 あなたが望んだものよ。
  かつてのあなたが。あるいは、これからのあなたがね。
   
   僕はただ飲んでいたいだけだよ。
    痛みを麻痺させたいんだ。

     なら。
      少女の髪が草原の風になびいた

      なら、あなたはどうして黒板に白墨で線を引いたの?
       どうして世界の領域に足を踏み入れたの?
        此処ではない何処かを捜し始めたの?

         深く深呼吸をするように僕は煙を吐いた

         永遠?

        そう。赤いレンガの壁。
       見つかりそうも無い骨董品屋であなたは
      懐中時計を買ったのよ。
     そうして、その時計の時間は止まったまま動かない。
    どうしてだかわかる?

   どうしてだい?

  少女が優しく微笑んで僕の煙草を取り上げ一服しながら語りかける

 その時間は此処の時間じゃあないのよ。
あなたの世界は
 たぶん


   目が覚めた

    僕はワイングラスを持ちながら眠っていたのだ

     少女がパンケーキを焼きながらビールを飲んでいた

      シロップはいらないんでしょう?
       甘いのキライなんだから。
        不思議よね。甘い物が嫌いな人間がいるなんて。

         パンケーキを皿に載せて少女が食事の準備をした

        どうしたの?変な顔で。

       いつも変だよ。

      ちがうわよ。
     少女が笑った
    あなた不思議なものでも見てるみたい。

   夢を見たんだ。ただそれだけ。

  夢?

興味深そうに少女が僕の瞳を覗きこんだ

 茶色い瞳が僕を見つめた

  夢さ。

   永遠に関する。

    ところで。この家には黒板と白墨はあったのかな?

     酔っぱらっているの、まだ。
      学校の教室でもないのにある訳ないじゃない。

       あるはずだよ。たぶんね。

        僕が呟くと少女は呆れた顔をした

         変なの。

        黒板と白墨なんて。



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ジングルベル

2025-01-25 | 
君の世界を想い
 風の中に白線を流した
  想いは空に消え
   永遠はいつかの午後に終焉を見せた
    淀んだ空気を深呼吸し
     君の微弱な電波を受信しようと錯乱した精神

      きっとたなびく匂いが哀しいから
       僕らはハンバーガーを齧るんだね
        君の口元のケチャップの余韻
         ハンケチでそっと拭い
          柔らかなクッションで蓋をする

           微弱な明かりの下
            僕らが失ったものを想うのだ
             垂れ下がった赤い花
              今夜も眠れそうにないから
               ウイスキーを舐め
                記憶の安寧に鎮座する
                 君じゃなくっちゃあ駄目なんだ

                 どうして人は生きているの?

                  僕がささやいた疑問に君がくすくす微笑んだ

                   皆、終わりに向かっているんだよ

                    あの退屈な教科書と眠たげな授業時間の様にかい?

                     煙草に灯を点け
                      君は都会の喧騒を笑った
      
                       退屈な授業と僕とどちらが好みかい?

                        僕は質問に答えずにいらいらと爪を噛んだ

                         終わりは必ず来るの?

                          もちろん。
                           始まりがあって終わりが或ることは救いだよ

                            救い?

                             そう。
                              君の厄介な美学の終焉、
                               その後日談の事さ。

                                煙草の白い灰が床に落ちた

                                 奴らは決して僕らを許さない。
                                  偽善の名の下に
                                   僕らの記憶を抹消するだろう。

                                   奴らは僕らの音楽を馬鹿にして
                                    嘲り
                                     罵り
                                      吹聴したんだ
                                       彼らの価値観の世界の法則で。

                                       君は
                                      君は外国に行った事があるかい?

                                     外国?

                                    そう。
                                   誰も知らない街角。
                                  そこで僕は永遠に歌を歌うんだ。
                                 それは決まった事なんだ。
                                だからもし君が旅を続けるのなら
                               いつかあの国で僕らは再会できると想うんだ。

                              再会?
                             どうして?
                            君も僕も此処にいるのに。

                           君はくすくす微笑んだ

                          まだ気ずいていないのかい?
                         僕は存在を抹消された記憶の残骸なんだ。
                        此処には存在していないのさ。

                       僕は此処にはいない。
                      厳密に云うとこの世界に僕の存在はない、
                     幽霊なんだよ。

                    僕はウイスキーをごくりと飲み込んだ

                   物語の終焉の近くなのさ。
                  君と僕とのね。

                 駱駝が口笛を吹き
                壁には青い扉が描かれていた

               ご覧、世界を。
              君が残り僕が旅立った世界。
             ただ歌だけが残ったんだ。
            哀しい風の中の出来事だよ。

           外国の知らない街角

          もし
         もし君が歌い続けるのなら
        僕らはそこで再会する
       約束が
      約束が果たされるのなら
     終焉の最果ての国で
    僕らは
   僕らの音楽を歌い続けるんだ

  僕らは歌い続けなければならないのだ

 僕は記憶の歌を歌う

黒いギターケースを抱えて

 眠れない夜に

  出会える君の影を探して

   深夜零時の街角を徘徊する

    答えて

     君じゃなくちゃあ

      やがて寒さが増すだろう

       かじかんだ手でギターを弾いた

        ね、

         答えて。

          どうして人は生きているの?

           終末の余韻

            気難しいパセージを弾き飛ばして

             君の微弱な電波を受信しようと錯乱した精神

              狂った帽子が笑う

               ね、

                答えて。



                 お願い。




                  ジングルベル


                   ジングルベル


                    
                    鈴が鳴る






























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青い魚

2025-01-20 | 
表層から剥離される皮膚の残骸は
 優しい記憶
  穏やかなる忘却の果て
   世界が沈む頃
    林檎を齧る

    月が赤い
   レンズ越しに眺める視界の領域は
  あたかも仕事帰りに開けた
 缶ビールの宵の口
程ほどにアルコールが回り始め
 煙草に火を点け
  かかる筈も無い電話を吟味する
   時間は呆れるほどあるが
    人生は意外と足早さ
     キャンバスに青を塗りたくり
      友人はビールをよこせと騒ぎ立てる
       呆れた奴だ
        冷蔵庫を開いて缶ビールを放り投げる
       題名は?
      サカナだ。
     サカナ?
    そう。魚。

   表皮が一枚剥がれ落ちた
  
  気ずけば暗闇が街を覆う
 もう帰れない
こんな処にきたのはやはり間違えだったのさ
 フクロウが珍しく目を大きく開けて
  僕らの過ちを指摘する

   魚を探しているんです?
    サカナ?
     そう。魚 青い色をした奴。
      どうして魚を探すんだい?
       フクロウが尋ねる
        
       友達なんだ。大切な。

      石畳の広場にたたずんでいた

     街灯の青いランプの灯りで
    レンガの壁に
   魚の影が泳ぐ
  青色だ

   僕は叫ぶ
    どうして?僕を忘れたの?
     魚の幻影は悠然と泳ぎ
      空気を尻尾で打ちつけた
       ぱしゃり

      僕は青の魚の影を追いかけ
     路に迷う
    まるで子供のように

   どうして?僕を忘れたの?
  友達だった
 大切な

  酔いが醒めた
   
    僕は

   
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希望

2025-01-18 | 
希望と云った
 誰彼が暮らす毎日の中
  青いビー球を光に透かす
   透明な色が斜陽した
    まるで覗き見た万華鏡の世界
     僕等は誰かの分身で
      決して僕達自身では無かったのだ
       回収されない粗大ゴミ
        悪癖はチェーンスモークする煙草の本数
         フィリップモーリスの白い煙
          意識が白濁されるのだ
           困惑した日常
            回避された想い
             閉ざされた空間
              開かない扉
               聴こえない声
                僕等は
                 小さな箱庭の様な庭の花を眺めて
                  「世界」と想った

                 まるで万華鏡の類の世界ね
                
                僕が書き散らかした水彩画を見つめ
               きちんとした身なりの女性が呟く

              汚いものが見たくないんだ

             僕は感情を押し殺して答えた

            本当に?

           女性は長い髪に片手を突っ込み
          眼鏡をずらして僕の表情を伺う
         僕はポケットのビー球を握りしめる
        それだけが僕の所有物だった

       もういいんだ

      本当に?

     何かを諦めることが何を意味しているのか
    その時初めて理解したのだ
   口の中で血の味がした
  
  本当に?

 黒猫がそう尋ねた
彼はいつもの様に退屈そうにあくびをして顔を赤い舌で舐めた
 
 君はさ。
  絶望の舌触りを知っているのかい?
   厄介な話さ、
    止められないんだ
     まるで喫煙常習者の煙草の様に
      そういうの
       希望と呼んでるんだ
        昔からの慣わしでね。

        彼はミルクを舐めて僕にも薦めた

       ごめん。乳製品アレルギーで飲めないんだ、ミルク。

      猫は哀しい眼で僕をぼんやりと眺める

     希望。
    君は希望を信じるのかい?

   黒猫の問いかけはいつだって回答不能だ
  僕は途方に暮れて
 青いビー球を光にかざした

世界ってさ、
 球体で出来ているんだって。

  彼は大切な答えをそっと僕に教える

   球体?
    それじゃあ海の果ては何処なのさ?
     世界の果ても存在しなくなる。
      不可思議だよ。
    
       僕の言葉をぴっと立てた耳で聞き流しながら猫が答えた

        秘密なのさ。
         これは或る秘密のすじからの情報でね、
          世界は球体状になっているんだって。
           いちばん確かな情報さ。

           それなら
          それなら世界の果てを目指した船は何処へ向かうんだい?
         
         僕は嫌な予感がして身体が震えた

        出発点に戻るのさ。
       理論上、世界の果ては存在しない。
      我々は永遠に出発点に戻るんだ。
     終わりが無いんだ。
    だってそもそも終着点が存在しないんだからね。
   永遠に丸い世界をさまよい続けるんだ。
  永遠に廻り続けるんだ。

 乾燥した皮膚が痒かった

希望。
 キボウ。
  きぼう。

   寒空の下で僕は石畳の坂道を登った
    煙草を咥え
     ライターで灯を点けた
      一匹の猫が壁の上に座っている
       僕は
        手のひらをひらひらさせて猫に挨拶をした
         手にしたスケッチブックには
          沢山の風景が描かれている
           どれもこれもが日常の風景だった筈だのに
            いつか其の描写は観察され診断され分類される

            身なりのいい女性がスケッチブックを覗き込む

           本当にいいの?

          僕は

         僕はポケットの中の

        青いビー球を何度も握りしめる

       黒猫が窓辺にたたずんでいる


      希望


     何度か口にしてみる

    まるで初めて吸った煙草の様に

   苦い味がした



  希望








  
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青い月

2025-01-15 | 
青い月
 優しさと哀しみの青
  その青い線にしたがってゆっくりと歩き出す
   月明かりの草原で
    僕らは葡萄酒を舐めはっか煙草を吹かすのだ

     どうか世界が幸せに満ち溢れるように

      真夜中にウイスキーを舐める
       思い出したかの様に煙草に灯を点ける

        あの夜

         遠くパレードを待ちわびた少年の時間

          パレードが来るよ

           記憶の君の声が懐かしいね

            青い月

             青い月


            診察室に入り面接をする

           おしゃべりじゃないお医者さんが好みだ

         青い月

        青い月

       いつか淡い水彩画で描いた伝説の場所

      其処がたとへ世界の果てだったとしても

     僕らは記憶の魚の影を追い求めて歩き続けるだろう

    ね

   あなたの幸せを祈ろう

  ウイスキー三杯分の願い

 僕にはあなたの為にして上げられることがまるでないから

ごめんね












 
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降りしきる雨

2025-01-08 | 
雨が降りしきる
 薄暗い街の風景を
  青い街灯が浮かび上げる
   コートの襟を高くして歩き回った
    何処かの街
     何処かの人々

     微熱で放射される体温の行方
      ホテルの部屋に転がり込んで
       ベットの中でウィスキーを舐めていた
        カーテンを開けると
         雨の街並みが灯る頃合
          僕は君の幻影を想い
           途方に暮れるのだ
            地上35階の部屋から
             僕は叶わぬ夢と現実の香りに包まる
              果たして明日はやって来るのだろうか
               
              開いたトランプのカード
             女王と兵士が語り始める
            兵士は云う
           貴女の為に戦争はしたくない、と
          オルゴールが鳴り響いた
         たぶんホテルのロビーからだ
        こんなに巨大なホテルなのに
       僕は僕以外の人々を見ることが無かった
      処理された記憶
     破棄された道化の面影
    僕等は歌い続けていたんだ
   あの雨の降りしきる街灯の下で
  永遠を見ていたのだ

 ねえ
星が見えるよ
 君がギターを置いて煙草を一服しながら呟いた
  それにしても
   寒いよね
    マフラーを首にしっかり巻いて
     ふたりで煙草を回し飲みした
      歌は誰にも届かなかった
       それでも僕等は
        街角で歌い続け
         安物の録音機材に記憶を封印した
          僕等は世界を封印しようとしたのだ
           いつまでも永遠が続くように
            毎日がこのままでありますように
             願い続けていた

            水が割れる

           朝日が昇るのを嫌った
          僕等は星空が好きだったし
         街角の空間の寒さを愛した
        
        愛している
       そう口に出来なくなったのは
      果たして何時頃からだろう
     僕は溜息の数だけ大切な物を失った

    君は暮らしの中で
   ひきつった微笑みの数だけ大切な何かを失う
  まるで僕と同じように
 壊れ物の世界
安いハンバーガーを
 まるで粘土を飲み込むように詰め込んだ
  世界が割れる
   ごらんよ
    そこらかしこにしあわせやふしあわせが散らばっている
     白紙には僕らのサインだけが記入されている
      ホテルの部屋で
       記憶を舐めながらギターを弾いた
        君が歌った筈の歌
         もう忘れてしまった夢の名残
          永遠を忘れてしまったのだ

           ね

          お願い

         繋がっていて

        お願いだ

       繋がっていて

      雨の降りしきる街角で

     
       泣いた誰かの肖像





        お願い

















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月光

2025-01-07 | 
あの日失われた衝動に意義はなかった
 現実と空想の境界線に於いて
  僕等は白線を引いたのだ
   それは否応なく訪れる
    日々は流れゆき
     狂騒のなれの果てに深夜の缶ビールに在りつくのだ
      誰もいない空間
       物音ひとつしない応接間の余韻
        何が正しさなのか
         誰が正しいのか判別に苦しむ夜
          いつか誰かがその正しさで僕を罰してくれることを願うのだろうか?
    
          安穏と孤独を肴にウイスキーを煽っていると
           自然とお腹が空いた
            冷蔵庫から卵を二つ取り出し
             フライパンにオリーブオイルを敷いて焼いた
              ご飯の上に半熟の卵焼きを載せて醤油を垂らして食べた  
               生きているのだ
   
               僕等が生きるという事を考察した冬
                僕等をあざ笑うかのように
                 青いブラウン管の中で
                  知らない国の知らない戦争のニュースが流れた
                   誰かがそっとTVのスイッチを切り
                    静かに煙草を吸った 
                     紫色の煙が虚空に流れた
                      僕等はそうして白線を引いたのだ
                       生きるにはあまりに脆弱で
                        祈るには俗に塗れすぎていた
                         
                        目の前から誰かがいなくなる

                        そんな想いにかられたのはいつからだろう

                         そっとサーカスのテントが方付けられ
                          ライオンや象に最後の食事が与えられた
                           臆病な猿が気配を察し
                            訳知り顔のカメレオンがその色を沈黙の白に変えた
                             全てが終わるのだ
                              次の瞬間
                               いっそ全てが失われるのだ

                               貴女の優しい笑顔や
                                君の憂いに満ちた頭痛や
                                 いつかの街角のいつかの哀しみ

                                  街角にたたずんでいると
                                 駱駝がやって来てこう告げるのだ
                                
                               「誰が十字架に薔薇をつけ加えたのか」

                              世界にはたくさんの不条理が存在していて
                             そのひとつひとつに無力な僕は
                            何ひとつ守れなかった
                           やがてその傷跡にはかさぶたが出来た
                          激しいかゆみでかきむしると
                         想ったよりも出血がひどくて腕から指先に赤い血が流れた
                        僕は黙っていた
                       あの日君がそうした様に

                      ねえ


                     いなくならないで

                    突然消えてしまわないで

                   祈りはきっと無力だった

                 だから

               失い続けるのだ

  
              どうしようもなく


             永遠に





           いつか君の正しさで僕を罰して





         青い月明かりの下で


























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消失した梅干のおにぎり

2025-01-06 | 
困惑した表情で
 撮影の為交通規制された道を眺めた
  回り道をしなければ
   けれども
    僕は何故か疲れ果て
     青い空を見上げて煙草に灯を点ける
      今日は天気のいい日だった

      ジュリアーニの作品集を車内で流し
       あくびが出るほど筋肉が弛緩した
        もう戻れない路地裏の店を想い
         あの街でのデタラメな暮らしを想いだそうと
          前頭葉で記憶を再生させた
           もう再生機自体に故障が発生しつつあり
            それが夢なのか現実なのか
             余り明確ではない領域の世界
              陽光は優しく地上に降り注ぎ
               断片がガラス球の様に仄かに光る頃
                眠っていたらしい
                 ワインのボトルの中身が
                  半分になっている

                 星が観たいと君が云ったので
                僕らはおんぼろの愛車に乗り込み
               部屋を出て街灯のない世界を模索した
              途中でコンビニに寄り
             おにぎりとビールを買った
            ピクニックみたいだね
           僕らはクスクス笑った
          深夜零時の時刻にラジオから
         古い音楽が流れた
        梅干と鮭、どっちにする?
       君が真剣に尋ねた
      じゃ、鮭。
     困ったわ、わたしも鮭がいいの。
    ひとしきり悩んで君は名案を探し当てた
   半分ずつにすればいいのよ。
  半分にされた鮭のおにぎりをくわえて車を走らせた
 水筒の暖かい紅茶を飲みながら
僕らは世界の果てまで旅をした
 崩れそうな世界
  ガラス細工の想いで
   それが最後のふたりの旅だと
    互いに言葉に出来なかった
     別れがあり出会いがある
      たぶんそんな物だろう
       ただ星が観たいと君が呟いたのだ
        それとも君は星になりたいと云ったのだろうか?
         今となっては曖昧な君の独白
          鮭のおにぎりを食べたが
           梅干の奴の記憶が消失されていた
            ラジオから「ニューシネマ・パラダイス」の
             音楽が流れた

             ある時期
            僕らは平日の映画館によく足を運んだ
           僕はまだ学生で
          あなたは馴れない会社勤めだった
         映画を観終えると
        女性客ばかりの洒落た喫茶店に連れていかれた
       僕らが人生でいちばん映画を眺めていた時代だ
      「ベルリン天使の詩」のパンフレットを
      あなたは大事そうに抱え
     僕は何故、ルー・リードがこの映画に出演したのか
    珈琲の黒の中を見つめて考え込んでいた


  お見合いするの。

あなたが視線をまっすぐにして、そう云った。  
 僕は、そうですか。と呟いて珈琲の黒に埋没した。
  
 ねえ。星が観たいわ。

  それが彼女が云った最初で最後の願いだったのだ

   僕らの車はなんとか止まる事無く
    静かな山中の展望台まで辿り着いた
     空気がひんやりとしていた
      清潔な空気にたくさんの星が見えた
       天体望遠鏡が必要だったわね。
        何かを後悔するように君がささやく。
 
         あの灯りに。
          あの灯りに暮らしがあるのよ。

           遠い街灯りを見つめて君が
            諭すように僕の耳元に情報を伝達する

             あなたのこと多分忘れてゆくの。
              ゆっくりとね。

              僕はビールを飲みながら彼女の横顔を
               記憶しようと一生懸命だった

               あなたを想い出せなくなるの。

               彼女がもう一度つぶやいた

               それが暮らしで現実だった
              映写機の写し出す夢は終わったのだ
             ゆっくりと幕が降り始め
            皆現実と夢の狭間で途方に暮れるのだ

           映写機の世界

          僕はあなたの顔をもう想い出せない

         星を眺めた記憶だけが残される

        時々考え込むんだ

       梅干のおにぎりを食べる時にね

      ゆっくりと忘れてゆく

     昔、見た筈の映画のように






    
    
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