甘く切ない甘味料。ノスタルジーの緑の地平の甘美さ。
少年時代の熱病の如き大きすぎる期待と不安の目分量。皮肉を気取って見せた心の裏側で、満開に咲く桜の花びらの春。大好きだった君に届かなかった機転は、もしかしたならば十年後の僕になら造作なかった仕草なのかも知れない。
僕は誰かを愛していたのだろうか?
もし、なんて言葉が無いのは明白な事実なのだが。
脳内パルスを刺激するモルヒネの要領で、観察する人物描写の白昼夢。いや、僕は誰も愛せなかったのだ。僕を愛したのは僕自身の巨大化した自我。密やかな夢は其のほとんどが妄想癖の安っぽい甘く気だるい怠惰なお菓子。
まるでヘンゼルとグレーテルが舌を出すほど甘ったるい美学。
Romanze。
その言葉が僕の想像を喚起するのはそういう現象だった。
一枚の楽譜を眺めて僕は想像した。
甘美に浸り悦に入る演奏に師匠が言葉を発した。
待て。それがお前のRomanzeか?
師匠は続けた。
世にも甘いRomanzeなんて存在するのか?
そうしてギターを手にし曲を弾き始めた。
それはまるで絶望的な慟哭のような演奏だった。
いいか、哀しみと絶望的な虚無だ。俺だったらこう弾くね。
Adagioでゆっくりと絶望の淵で嘆き哀しむんだ、まるで。
まるでギロチンがゆっくりと落ちてゆく最後のように。
最後の和音を奏でた。まるでギロチンがゆっくりと落ちて来るように。
Romanzeは甘ったるい描写だけじゃない。絶望的な虚無なんだ。
男らしくRomanzeを弾いてみろ、確固たる信念を持って。
僕はギターを抱え譜面とにらめっこした。
何度試しても僕には絶望的なRomanzeが表現できなかった。
あるいは感情が先走りあるいは音の強弱が神経質すぎた。
あんたには物語りを構成するテクニックがまるで無いんだ。
感情ばかりが先走ってバランスが滅茶苦茶だ。
テクニックというのは、指が速く器用に動く事じゃない。
いかに音をコントロールして感情を表現出来るかなんだ。
お前に致命的に足りないものだ。
修行しろ。
それで僕はJ.K.MertzのRomanzeを弾き続けた。
いろんな弾き方を試してみた。いろんな物語を引っ張り出した。それでもハードボイルドなRomanzeは弾ききれなかった。
途方に暮れてギターを置いた。
とりあえず煙草を一本吸った。
楽譜を眺める。
絶望的なまでの虚無感の表現。
ため息をついた。
大切な何かを失った時。大切な誰かが消える瞬間。
あの声にならない感情の叫び。
人生は愚らなくて汚物に塗れ美しく気高い。
地を這う存在が青い月まで飛翔する。
あんたにはテクニックが致命的に足りないんだ。
師匠の言葉が頭の中をぐるぐると回る。
それは僕自身の生き方其の物なのだ。
それでも時間は容赦なく流れ演奏会の当日がやってきた。
僕は、曲を弾き終わった瞬間ひどく失望した。
大切な者を失った慟哭から程遠い演奏だったのだ。
あんたにはテクニックが致命的に足りないんだ。
演奏を聴いてくれた人々はどう感じたのだろう?
僕は怖いもの見たさに尋ねて回りたかった。
それは舞台の後片付けに忙殺されて叶わなかったのだが。
あんたにはテクニックが致命的に足りないんだ。
人生に於いてやらなくては為らなかった事柄を、避けて通り過ぎてきた僕自身の生き方そのものだ。
修行しろ。
緑のビール瓶を振りながら師匠が云う。
地に足を着けた人生。
生き方。
死に様。
少年時代の熱病の如き大きすぎる期待と不安の目分量。皮肉を気取って見せた心の裏側で、満開に咲く桜の花びらの春。大好きだった君に届かなかった機転は、もしかしたならば十年後の僕になら造作なかった仕草なのかも知れない。
僕は誰かを愛していたのだろうか?
もし、なんて言葉が無いのは明白な事実なのだが。
脳内パルスを刺激するモルヒネの要領で、観察する人物描写の白昼夢。いや、僕は誰も愛せなかったのだ。僕を愛したのは僕自身の巨大化した自我。密やかな夢は其のほとんどが妄想癖の安っぽい甘く気だるい怠惰なお菓子。
まるでヘンゼルとグレーテルが舌を出すほど甘ったるい美学。
Romanze。
その言葉が僕の想像を喚起するのはそういう現象だった。
一枚の楽譜を眺めて僕は想像した。
甘美に浸り悦に入る演奏に師匠が言葉を発した。
待て。それがお前のRomanzeか?
師匠は続けた。
世にも甘いRomanzeなんて存在するのか?
そうしてギターを手にし曲を弾き始めた。
それはまるで絶望的な慟哭のような演奏だった。
いいか、哀しみと絶望的な虚無だ。俺だったらこう弾くね。
Adagioでゆっくりと絶望の淵で嘆き哀しむんだ、まるで。
まるでギロチンがゆっくりと落ちてゆく最後のように。
最後の和音を奏でた。まるでギロチンがゆっくりと落ちて来るように。
Romanzeは甘ったるい描写だけじゃない。絶望的な虚無なんだ。
男らしくRomanzeを弾いてみろ、確固たる信念を持って。
僕はギターを抱え譜面とにらめっこした。
何度試しても僕には絶望的なRomanzeが表現できなかった。
あるいは感情が先走りあるいは音の強弱が神経質すぎた。
あんたには物語りを構成するテクニックがまるで無いんだ。
感情ばかりが先走ってバランスが滅茶苦茶だ。
テクニックというのは、指が速く器用に動く事じゃない。
いかに音をコントロールして感情を表現出来るかなんだ。
お前に致命的に足りないものだ。
修行しろ。
それで僕はJ.K.MertzのRomanzeを弾き続けた。
いろんな弾き方を試してみた。いろんな物語を引っ張り出した。それでもハードボイルドなRomanzeは弾ききれなかった。
途方に暮れてギターを置いた。
とりあえず煙草を一本吸った。
楽譜を眺める。
絶望的なまでの虚無感の表現。
ため息をついた。
大切な何かを失った時。大切な誰かが消える瞬間。
あの声にならない感情の叫び。
人生は愚らなくて汚物に塗れ美しく気高い。
地を這う存在が青い月まで飛翔する。
あんたにはテクニックが致命的に足りないんだ。
師匠の言葉が頭の中をぐるぐると回る。
それは僕自身の生き方其の物なのだ。
それでも時間は容赦なく流れ演奏会の当日がやってきた。
僕は、曲を弾き終わった瞬間ひどく失望した。
大切な者を失った慟哭から程遠い演奏だったのだ。
あんたにはテクニックが致命的に足りないんだ。
演奏を聴いてくれた人々はどう感じたのだろう?
僕は怖いもの見たさに尋ねて回りたかった。
それは舞台の後片付けに忙殺されて叶わなかったのだが。
あんたにはテクニックが致命的に足りないんだ。
人生に於いてやらなくては為らなかった事柄を、避けて通り過ぎてきた僕自身の生き方そのものだ。
修行しろ。
緑のビール瓶を振りながら師匠が云う。
地に足を着けた人生。
生き方。
死に様。