眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

橋の上

2024-01-14 | 
アーチ型の古い橋の上で
 別れた雨の日に
  傘は持っていなかった
 人は皆なにかを失う

  雨宿りという言葉は知りもしなかった
   純粋さを求めた
    琥珀色のウィスキー
     誰の為でもなく生きていけると信じて
      疑わなかったのは
       僕の神経が張り詰めていたんだね
        ヴァイオリニストのピッチカートで
         弦が一瞬の内に切れたんだ

        星空は素敵だ

       惑星の配列を眺めるのは面白い
      果たして僕は
     一列に並ぶそのどこら辺に位置するのだろうか?
    
    橋の上で初めて待ち合わせをしたのは
   いったい本当にあった出来事だったのだろうか?
  不ぞろいの意識下では
 記憶は曖昧な盲点をついてくる
  
   ね、教えてよ。

    僕は安易に酒に溺れ
     容易に事態を収拾させようとする
      無駄な戯言
       そうして事態は困難をきわめた

     雨の橋で出会い
      雨の橋で別れを告げた
       刻印された者達は
        時間が解決してくれると口をそろえた

       ね、教えてよ。

      かたん、と
     
     音を立てて写真立てが倒れた

    歪んだ記憶の曖昧な代弁者は

   酔いの淵を溺れる歪んだ暮らしを錯綜する
  僕のアリバイ
 疑心暗鬼の警官達が
手馴れた尋問で職務質問す

    橋の上の小さな出来事

     咀嚼できず今も想い出すんだ




        
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希望

2024-01-02 | 
どうしてさ?
 君が云う
  僕は世界の果てに佇み
   果てし無く広がる緑の草原にいた
    誰かが口笛を鳴らした
     でもその誰かは永遠に姿を現さなかった
      三日月が笑った

      魔法を知っているよ。
       君が云う
        僕は街角の街灯の下に永遠に安置されている
         存在の不確実さ
          狂乱の果ての空間に
           腐った林檎が放置された
            許されるならば
             僕はただ広い公園のベンチで呼吸がしたかった

             見据えた希望はわずか数枚の金貨で行商される
              つぶらな瞳が虚無の世界の入り口となった
               我々は
                極度に緊張した綱渡りで
                 大切なものを次々と喪失する
       
         永遠に失われ続けるの。
          少女の声が囁く
           夜
            徘徊した公園の池のほとりで
             真実について魚たちが情報を打電する
              信号はやがて電線を伝い
               哀しみの成分が清潔な注射針で
                血管に流し込まれた
    
          様相を呈する
           欺瞞
            絶望
             孤独
              郷愁

          徘徊する欠落した意識
           分解された時計の部品の一部
            過呼吸気味の君のシグナル
             流される酸素の量が設定されたのだ

          消えてゆくの。かつて真実だった記憶が。
           少女がピアノの鍵盤に触れる
            けれど何度耳を澄ませても
             其処から音は感知されなかった

             無言
              表層の嘘
               歪んだ戒律
                伸ばした手のひらは
                 決して何者をも握り締められなかった

     穏やかで甘美な曲が脳裏をよぎり
    やがて路面電車が発車する
   石畳の街の回廊を
  何度も螺旋する
 
 世界
  虚弱な精神のきしみは
   まるで古ぼけた観覧車の様子で
    閉鎖された遊園地に忍び込んだ子供達は
    あの笛吹きの魔法使いによって永遠に子供で在り続けなくてはならない

      誰も知らない
       握り締めた孤独
        回るのだ
         音も無く
          街路樹の隙間をぬって
           僕はてくてくと歩く
            ただ歩き続けている

            黒猫が僕の足元であくびをする
             永遠に遊園地で遊び続ける悪夢は
              まるで白いシーツの病室で見た夢の様に
               
               どうしてさ?
                君が云う
                 あの懐かしい記憶の声で

                 もう聴こえない声
                  記憶の残渣
                   残り少ないビーカーの中の
                    微量の液体


                     希望















 
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誕生日

2024-01-01 | 
何処の国の民族楽器なのか
 得体の知れない弦楽器を少女は
  古楽器屋で飽きもせず眺め続けている
   展覧された弦楽器は
    幾分チェロに似た形をしていた
     僕はそんな楽器と少女を見比べ
      煙草をポケットから引っ張り出して火をつけた
       黒猫が寄ってきてそうっと僕の足元に座り
        あくびをしながら憐れむような目つきで僕を眺めている
         少女が振り向く
          僕はあきらめて財布の中身を調べた
           店主が会計の準備を始める
            冬の日の午後
             空はとても青く澄んでいた

            部屋にたどり着くと
           少女はマフラーも取らずにすぐに梱包された楽器を開封した
          彼女のあたらしい友人が増えたのだ
         僕はコンロでお湯を沸かし
        手早く珈琲を淹れ
       街の店で買ったチョコチップクッキーを齧った
      少女は見るからに古めかしい弦楽器を抱え
     とても満足げに眺め続けている
    僕はクッキーを齧りながら
   無残にも消え去った生活費と
  残された日々の食事のことを考え
 頭が痛くなって飲み残しのワインのボトルのコルクを抜き
煙草を吸いながらグラスに注いで舐めた

 少女の誕生日のプレゼントを買いに行く為に
  僕等は今にも壊れそうな愛車で街に出かけた
   少し暖かくなってはきたけれど
    外の空気は幾分冷え切っていた
     僕等はカーステレオから流れる正体不明なポップスを聴きながら
      街への路を蛇行しながら進んだ
       街までには少なくとも2時間はかかる
        久しぶりに聴く最新のヒットチャートは
         余りにも異質で
          何処の誰がこの様な音楽を好んで買い込むのか
           全くもって不可思議だった
            つぶれかけの銀巴里に突然訪れた
             坂本龍一くらい先進的な音楽だった
              そしてそのいちいちに
               僕はどうしても馴染めず
                諦めてイーグルスのアルバムを流した
                 ドン・ヘンリーが切ない声で
                  ホテル・カリフォルニアを歌った
                   少女は助手席で
                    皮の手袋を悪戯しながら
                     可笑しそうに僕の顔を眺め
                      1969年物のワイン美味しいのかな?
                       と皮肉に付け加えた

                    街角のカフェでドーナツを齧り
                   酸味の強い珈琲を飲みながら
                  僕等は誕生日について話した
                 僕には僕の誕生日が分からず
                少女には果たして誕生日が或るのかさえ疑問だった
               彼女は朝目覚めると
              朝食のベーコンエッグを食べながらこう云った

             ねえ
            あたしは今日が誕生日だといいわ。

           突然どうしたの?

          今日は空気が澄んでいてとても綺麗なの
         だからお誕生日は今日みたいな日がいいの。
        可笑しい?

      少女の意見には全く同感だった
     人は自分の好きな日に気に入った誕生日であればいいのだ
    誰にも文句を云われる筋合いも無いし
   それに自分自身が気に入った素敵な日を祝う事に
  なんの問題も無い様な気がした
 それで僕等は彼女のプレゼントを手に入れる為に
街角の片隅でドーナツを齧り珈琲を飲んでいるのだ

 梱包を解かれた楽器は
  新しい国に少し戸惑って見えた
   少女は弦楽器を丹念に布で撫でながら呟いた

    ね、貴方何処の国の生まれなの?
     心配しないで、
      あたしは貴方を大切にするし
       此処だってそう悪くないわ。

       黒いケースには弓がついていた
        
       弓で弾くのかな?

      試しに僕が弓で音を出すと
     楽器が悲鳴を上げるように雑音を叫んだ

    無理やり無茶なことしないで

   弦楽器を僕から取り上げ
  少女は優しく指で弦を弾いた
 優しくて深い音色が流れた

調弦はどうすればいいんだろうね?

 僕の質問には答えず
  彼女は楽器にささやく様に
   ゆっくりとペグを回し
    それから確かめるように音階を弾いて
     嬉しそうに曲らしきものを奏で始めた
      エリック・サティのジムノぺディだ
       楽器が呼吸を思い出した様に歌った
        僕はその優しい音色に包まれながら
         緑色のソファーでワインを飲んだ

         その子は僕等を気に入ってくれたのかな?

        多分ね。
       ゆっくり仲良しになればいいわ。

      ゆっくり

     わたしとあなたみたいにね。

   

   空が澄み切っている


  こんな日が誕生日だといいなとぼんやりと想った


 きっと知らない国の知らない人の誕生日は


きっとこんな日なのだろう



 空気が澄み切った

   
  優しくて綺麗な空気の日


   僕はグラスに残ったワインで


    何処かの国の彼らに乾杯の挨拶をした


     素敵な日だ


      祝祭された日常


       ある日の

       
        午後のお話










 
              
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