大切なもの
2024-11-22 | 詩
雨降りの夜
少女がお酒を舐めながらぼんやりと呟いた
ね
あなたには大切なものがあるの?
どうしてさ?
手元のグラスを悪戯しながら少女は云った
だってあなたからそういうこと、聴いたことがないから。
僕は煙草に灯を点け
しばらく考え込んだ
窓の外は風が強く雨が横殴りに荒れている
そんな夜だった
窓の外の景色を眺めながら
僕等はぼんやりしていた
寮監先生に見つからない様に隠したお酒で
君も僕もふわふわとした感覚に酔いしれていた
君は飽きることなく楽器を悪戯し
まだ少年だった僕は
君の技巧的な指使いに驚嘆した
目まぐるしく変わる和音の構成音は
まるで理解の範疇を超えていたけれど
複雑な伴奏と
切ない主旋律が君のギターから生み出される瞬間を
ただ愛おおしく想った
すごい
よくそんな難解な運指が出来るよね。
君はクッキーを齧りながら微笑んだ
難解な運指はただの技巧さ
大切なものはもっと別の処に存在するんだよ
例えば?
僕の皮肉な質問に君は丁寧に答えた
君が大切にしている物語を
君は何度も広げて読むかい?
僕は時間をかけて答えた
読まないね。
でもどうしてだろう?
考えたこともなかった
本当に大切なものは
心の中のいちばん柔らかい処を刺激するんだ
だから心は其れには耐えられない
心にも準備が必要なんだ
ふ~ん。
ね、
今日はとっときの曲を弾いてあげるよ。
君は面白そうに僕の瞳を覗き込んだ
いいの?
うん。
やがて全ては終わりを告げるよ
だから君に僕の大切な音楽をプレゼントすることにするよ。
そう云って君はギターを構え直した
それからギターを弾いた
流れてくる音楽はとても切ない旋律だった
どうしてだろう?
自然に涙が溢れてきた
泣きじゃくりながら音楽に耳を澄ませた
ありがとう。
でもね、君はいつかこの旋律をわすれるよ
全ては記憶の底に沈殿するんだ
それはどうしようもないことなんんだ。
君はいつか僕の存在を忘れる。
忘却され記憶。
いずれ摩耗される黒白フィルムのようにね。
泣きじゃくるぼくの頭を君は抱きしめた
君は悪くない
其れは世界の在り様なんだ。
だから哀しまなくてもいいんだよ。
ぼくはずっと泣いていた
激しく雨が降り注ぐそんな夜だった
それから月日が流れた
僕は少女に声をかけた
あるよ。
なにが?
大切なもの。
少女は不思議そうにフランスパンに齧り続けている
パンを飲み込むと
少女は興味津々で僕に問いかけた
それであなたの大切なものは?
僕は苦笑した
酔い覚ましに君に飲んでもらう豆のスープかな?
一瞬少女は残念そうにしていたけれども
すぐに機嫌をよくした」
あなたの豆のスープは大好きよ
僕は台所でスープの準備にとりかかった
そんな夜
そんな雨降りの夜だった
少女がお酒を舐めながらぼんやりと呟いた
ね
あなたには大切なものがあるの?
どうしてさ?
手元のグラスを悪戯しながら少女は云った
だってあなたからそういうこと、聴いたことがないから。
僕は煙草に灯を点け
しばらく考え込んだ
窓の外は風が強く雨が横殴りに荒れている
そんな夜だった
窓の外の景色を眺めながら
僕等はぼんやりしていた
寮監先生に見つからない様に隠したお酒で
君も僕もふわふわとした感覚に酔いしれていた
君は飽きることなく楽器を悪戯し
まだ少年だった僕は
君の技巧的な指使いに驚嘆した
目まぐるしく変わる和音の構成音は
まるで理解の範疇を超えていたけれど
複雑な伴奏と
切ない主旋律が君のギターから生み出される瞬間を
ただ愛おおしく想った
すごい
よくそんな難解な運指が出来るよね。
君はクッキーを齧りながら微笑んだ
難解な運指はただの技巧さ
大切なものはもっと別の処に存在するんだよ
例えば?
僕の皮肉な質問に君は丁寧に答えた
君が大切にしている物語を
君は何度も広げて読むかい?
僕は時間をかけて答えた
読まないね。
でもどうしてだろう?
考えたこともなかった
本当に大切なものは
心の中のいちばん柔らかい処を刺激するんだ
だから心は其れには耐えられない
心にも準備が必要なんだ
ふ~ん。
ね、
今日はとっときの曲を弾いてあげるよ。
君は面白そうに僕の瞳を覗き込んだ
いいの?
うん。
やがて全ては終わりを告げるよ
だから君に僕の大切な音楽をプレゼントすることにするよ。
そう云って君はギターを構え直した
それからギターを弾いた
流れてくる音楽はとても切ない旋律だった
どうしてだろう?
自然に涙が溢れてきた
泣きじゃくりながら音楽に耳を澄ませた
ありがとう。
でもね、君はいつかこの旋律をわすれるよ
全ては記憶の底に沈殿するんだ
それはどうしようもないことなんんだ。
君はいつか僕の存在を忘れる。
忘却され記憶。
いずれ摩耗される黒白フィルムのようにね。
泣きじゃくるぼくの頭を君は抱きしめた
君は悪くない
其れは世界の在り様なんだ。
だから哀しまなくてもいいんだよ。
ぼくはずっと泣いていた
激しく雨が降り注ぐそんな夜だった
それから月日が流れた
僕は少女に声をかけた
あるよ。
なにが?
大切なもの。
少女は不思議そうにフランスパンに齧り続けている
パンを飲み込むと
少女は興味津々で僕に問いかけた
それであなたの大切なものは?
僕は苦笑した
酔い覚ましに君に飲んでもらう豆のスープかな?
一瞬少女は残念そうにしていたけれども
すぐに機嫌をよくした」
あなたの豆のスープは大好きよ
僕は台所でスープの準備にとりかかった
そんな夜
そんな雨降りの夜だった
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