使い方は非常にシンプルだ。まず、アマゾンで商品を購入したいユーザーが、アマゾンのサイトで「ほしい物リスト」を作成し、割引で購入したい商品を追加する。次に、それをパースに登録すると、ユーザーは最大33%までの割引率を設定することができる。あとは、代理で購入してくれるユーザーとマッチングするのを待つだけ。
一方で、アマゾンギフト券を換金したいユーザーは、すでにパース上に登録されている欲しいものリストの中から、自分が購入できる金額の商品を選ぶ。そして、安くアマゾン商品を買いたい人に成り代わって、自らが所有するアマゾンギフト券で商品を注文し、配達処理を行う。
例えば、10,000円のイヤホンを、20%割引の8,000円で購入したいというリストがあるとしよう。アマゾンギフト券を換金したいユーザーは所有しているアマゾンギフト券を使い、10,000円のイヤホンを購入する。すると、商品を安く購入したいユーザーから8,000円分の代金が代理購入したユーザーへ振り込まれるという流れだ。
しかも、振り込まれるのは現金ではなく、仮想通貨であるビットコイン。アマゾンは正式にはビットコイン決済に対応していない。それでも、パースを利用すれば、アマゾンで実質的にビットコイン決済を行なうことが可能となり、なおかつ安く購入することができるという点が人気を集めているのだ。略
では、アマゾンギフト券を換金したいユーザーにとってのメリットはどこにあるのだろうか。
パースを紹介するサイトなどには、使い道に困っているアマゾンギフト券をビットコインに換金したいニーズが多く存在していると記されていたりする。
だが、よく考えてほしい。さきほどの例で考えると、アマゾンギフト券の換金を希望するユーザーは、8,000円分のビットコインを購入するのに、10,000円を支払っていることになる。その手数料は実に2,000円。
仮想通貨取引所で10,000円分のビットコインを購入しても、2,000円もの手数料を取られるところはまずないだろう。取られるとしても手数料は30円以下で、なかには手数料ゼロでビットコインを購入できるところもあるくらいだ。にもかかわらず、なぜわざわざパースでビットコインを手に入れることがメリットになると言えるのだろうか。
筆者は、このサービスがクレジットカード現金化の温床になっているのではないかと疑っている。
クレジット現金化自体は昔からよく知られており、主に手を出してしまうのは多重債務者だ。多重債務者とは、複数の消費者金融あるいはクレジットカードのキャッシング枠による借り入れがある人間を指す言葉である。略
どうしても現金が必要になった時、多重債務者は違法な手段に手を染めてしまうこともある。そのひとつが、クレジットカードの現金化だ。借り入れのためのキャッシング枠は使えないが、通常の買い物に使用できるショッピング枠は残っていることがある。
そして、その枠を現金化をしてくれる業者も存在している。クレジットカード現金化を謳う看板や広告を目にしたことがある方は多いかもしれない。
代表的なのは、ショッピング枠で換金率の良い商品を購入させ、それを業者が買い取るという手法だ。例えば、高級ブランドショップで30万円のハンドバッグをクレジットカードで購入させ、業者はそれを20万円の現金で買い取る。利用者は10万円という多額の損をするが、すぐに現金がほしいという誘惑に勝てずに20万円を手にしてしまう。
利用者も損をすることは分かっているのだ。しかし、分かっていながらも手を出してしまう。それだけ切迫しているか、もはや自分をコントロールできない状態なのである。
話をパースに戻そう。パースはアマゾンギフト券を換金するという形になっているが、実質はクレジットカードの現金化と変わらない。
なぜなら、アマゾンギフト券はクレジットカードでも購入することが可能で、購入の対価として得られるビットコインは仮想通貨取引所で現金に変えることができるからだ。
もちろん、純粋にアマゾンギフト券をビットコインに換金したいユーザーがいることは否定しない。何かしらの報酬あるいは贈り物としてアマゾンギフト券をもらいながら、使い道に困っているユーザーもいるだろう。
それでも、アマゾンは日用品から家電まで、なんでも揃っていると言っても過言ではないほどの品揃えを実現している。アマゾンギフト券で購入するものがないというシーンがあるのだろうか。
百歩譲ってそうだとして、通常よりも高額な手数料を支払ってまで、パースでビットコインを購入したいユーザーがどれだけいるのだろうか。
実際のところは、パースで換金したビットコインを、さらに自国通貨に換金して現金化を図っているユーザーは少なくないはずだ。そこには、そうまでして現金が必要な多重債務者や、お金に苦労している人間が含まれている可能性が非常に高い。
また、犯罪者がマネーロンダリングのために利用するケースもあるだろう。使われるのは盗まれたクレジットカード情報だ。
店舗でクレジットカードを使う場合は実物のカードが必要となるが、ネット決済の場合はカード番号やセキュリティコード、住所などの個人情報が分かっていれば使用することができる。何かしらの手段で盗難に成功したクレジットカード情報で、アマゾンギフト券を大量に購入してビットコインを獲得。それを現金化できれば、犯罪者にとってはメリットになる。
実は、ここ日本にもパースと類似のサービスは存在している。
あえてここではサービス名は出さないが、 アマゾンの商品を安く購入したいユーザーと、アマゾンギフト券やクレジットカードのショッピング枠をビットコインに換金したいユーザーをマッチングするという仕組みもほぼ一緒である。
他にも、アマゾンギフト券の現金化を行う業者は多くおり、詐欺まがいの事例も少なくないのが現状だ。アマゾンギフト券のコードだけ送らせて実際に買取をしなかったり、高額買取を謳いながらも細かな利用規約に「1枚しか高額買取をしない」と書かれてあったために二束三文にしかならなかったりという具合である。
アマゾン側も対策をしていないわけではない。公式サイトでは「Amazonギフト券のご購入に関する注意」 というタイトルで、アマゾンギフト券を特定の転売サイトから購入しないように注意を呼びかけている。
同様に、アマゾンギフト券を転売サイトなどに売ることも禁止している。もし、転売が発覚した場合には、アマゾンの規定に則りアカウント停止などのペナルティが課せられることもあるのだ。
ただ、パースのようなサービスは従来の転売サイトとは異なるため、現時点でアマゾン側の注意喚起やペナルティには限界があるだろう。全てはユーザーの良心に任されていると言っていい。