https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190320-00060256-gendaibiz-bus_all 略
詰め物の下で虫歯が進行
「銀の詰め物の下が虫歯になっていますね」
「えっ本当ですか?」
「外からでは見えないのですが、レントゲンを撮ると、詰め物と歯の間に虫歯が進行しているのがわかります」
「でも痛みもないし、ちゃんと治療した銀歯が虫歯になるなんて……」
歯科医からの思わぬ告知に戸惑う患者。これは先ごろ(2月4日)放送されたNHK『あさイチ』の一場面だ。
「年とともに忍び寄る『歯』のトラブル」と題されたこの特集は、大きな反響を呼び、改めて歯科治療の難しさ、重要さが浮き彫りになった。
多くの人は「自分はちゃんと虫歯の治療をしているから大丈夫」「神経まで抜いているからこれ以上悪くならない」と思っているだろう。が、それは大きな勘違いだ。
「痛い思いをして削ってもらったことだし、これで一安心……と思うのは、大間違いです。実は歯は少しでも削られた瞬間から弱り始め、いつか歯を抜かなければならない運命にさらされるのです」
歯が少ない人は寿命が短い
厄介なのは詰め物や被せ物で一度「治療」した歯は、虫歯がかなり進行するまで自覚症状が出にくいことだ。
「銀歯は外からの刺激を感じにくいので、痛みが出るまで時間がかかります。また、早い段階で神経を抜いてしまうと、痛みを感じにくくなり、気づいたときには歯がボロボロというケースもよく見かけます」(天野氏)
銀歯の下が虫歯になれば、せっかく入れた詰め物や被せ物を取り除き、再び、虫歯になった部分の歯を削ることになる。しかし、数年後にはまた虫歯になる……。これを繰り返しているうちに、歯はどんどん削られ、最後は根本に近い部分だけになっていく。
「虫歯が悪化すると多くの歯科医は『神経を抜きましょう』と言いますが、私はできるだけ神経も残すように心がけています。なぜなら神経を失った歯は『枯れ木』のようなもので、もろくなり抜けてしまう可能性が高くなるからです。
しかも神経を抜いても、細菌が残っていると炎症が起こり、根の奥にまで感染するので、よりタチが悪くなります」(天野氏)
歯の根っこに菌が入ると神経を抜いていても、ひどい激痛に襲われる。その場合「根管治療」といって、歯根の中に入ってしまった細菌を取り除き、被せ物をすることになる。
ところが、虫歯と同じく、被せ物の間には隙間ができるので、再び細菌が侵入し痛みが出る。こうなると抜歯せざるを得ない状況になる。
「別に歯がなくなっても、命にかかわるわけでもないし……」と軽く考える人がいるかもしれないが、それは大きな誤りだ。
80代以上で残っている自分の歯の本数は平均で約9本。10本以上残っている人は、その後15年の生存率が1.5~2倍も高いことが報告されている。老いてから歯を失うことは、寿命を縮めることと同義と言っても、大げさではない。
虫歯と並んで歯を失う原因となるのが「歯周病」だ。歯周病とは、歯垢(プラーク)についた菌が歯ぐき(歯肉)や歯を支える歯槽骨に侵食した状態のこと。
悪化すると歯ぐきが熟したトマトのように腫れあがり「歯槽膿漏」になる。すると歯がぐらつき、抜け落ちる。
歯周病と言えば、歯ぐきから血が出る、口臭がきつくなるくらいしか思いつかないかもしれないが、実は歯周病は全身に悪影響を与える恐ろしい「病気」なのだ。
鶴見大学歯学部・探索歯学講座教授の花田信弘氏が解説する。
「歯ぐきを平面にした場合、その面積は手のひら大になります。つまり、歯周病はそのくらい大きな『潰瘍』が体内にあるのと同じなのです。
その潰瘍面から100億個とも言われる口の中の細菌が、血流に乗って全身に運ばれ、いろんな臓器に障害を起こします」
インプラントの悲劇
歯周病が引き起こす病気は糖尿病、心筋梗塞、リウマチ、がん……など多岐にわたる。
「たとえば、歯周病の人は膵臓がんの発症リスクがそうでない人に比べて、2.3倍高くなるというデータがあります。
もちろん歯周病菌は血液によって全身に運ばれるので、すべての臓器はがんになる可能性が高くなります。歯周病は血管を固くする動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳梗塞の原因にもなります。
実際、動脈硬化が進んだ血管から見つかった細菌が、口腔細菌と一致したという報告もある。大腸がんの組織からもやはり口腔細菌の一種であるフソバクテリウム菌が見つかっています。
近年、歯周病菌との関係を示すエビデンス(医学的根拠)がますます増えているのは事実です」(花田氏)
さらに'17年、名古屋市立大学・国立長寿医療研究センターなどの研究グループによって、歯周病が認知症を引き起こすこともわかってきた。
歯周病菌の毒素によって、認知症の原因となる脳の「ゴミ」(アミロイドβ)が増えることがマウスの実験から解明されたのだ。
歯周病の治療は、腫れあがった歯ぐきを切開して膿を出し、薬を塗布するのが一般的だが、治療した歯の隙間に菌や歯垢が溜まると、再び発症してしまう。完治させるには、歯と歯周病を同時に治療しなければならない。
しかし、歯を削れば、のちに虫歯になるリスクが高まる。こうして「負のスパイラル」に陥っていく……。
「歯周病はいくら治療しても、そのリスクは一生つきまといます。人間は20歳を超えると徐々に免疫力が低下し、60歳を超えると急激に低下していきます。いままで問題がなかったからといって、大丈夫だとは限りません」(花田氏)
口腔内のトラブルは高齢者になればなるほど増える。そこには唾液の量も大きく関係している。
「人間は誰でも、加齢により唾液の量が減ります。必然的に口腔内が乾きやすくなり、いわゆる『ドライマウス』の状態になる。
すると本来、唾液が持つ自浄作用が働かなくなり、口腔内に菌が繁殖します。その菌だらけになった唾液が誤って気管に入ると、徐々に菌が肺に溜まり『誤嚥性肺炎』を起こすのです」(前出・天野氏)
実際、誤嚥性肺炎で亡くなるお年寄りの多くは歯が少なく、重度の歯周病を発症している。
人工の歯を骨に埋め込みボルトで固定する「インプラント」も要注意。「自分はインプラントにしているので、一生歯を失うことはない」と考えるのは早計だ。
インプラントこそ、術後の定期メンテナンスが重要で、それを怠ると「インプラント周囲炎」を発症する。
「インプラントの炎症は、普通の歯と比べると進行が速いことが特徴です。インプラント周囲炎を発症するとインプラントを埋めた歯肉から血が出たり、膿が出るようになります。
ところが、こういったリスクをきちんと説明せずに、採算がとれるからと、インプラントを気軽に勧める歯科医がいるのも事実です」(中川駅前歯科クリニック院長の二宮威重氏)
すでにインプラントをしている人で、いまは大丈夫でも、老いて歯磨きができなくなれば、通常の歯周病よりもっと悲惨な状況になる。
歯ぐきの炎症が進行し、インプラントの人工歯だけが残ってしまうのだ。歯ぐきが痩せて、インプラントを支えるボルトがむき出しになる。ボルトを打ち込んだ骨に菌が感染すると、顎の骨が溶け出すこともある。
実際、介護の現場では、認知症や寝たきりになったお年寄りのインプラントが大問題になっている。
「インプラントは埋め込むより、抜くほうが圧倒的に難しく、苦労します。大手術になることもあり、特に高齢者は体力が落ちているので危険性を伴います。命にかかわることもある。かといって放置しておくこともできない。悩ましい問題です」(前出・天野氏)略
確かに虫歯を削らずに治せれば、歯に虫歯菌が入り込むこともない。しかし、削らずにどうやって虫歯を治すのか。
小峰氏が行き着いた治療法は「ドックベストセメント」だった。
「簡単に言うと虫歯菌を殺す薬を歯に塗り込む治療法です。ドックベストに含まれている『銅』には殺菌作用があり、それが虫歯菌を駆除してくれるのです」
さらに小峰氏は「虫歯は自然治癒する」と語る。略
食後すぐの歯磨きはNG
食生活の見直しだけでなく、歯を守るためには普段の歯磨きが大切だ。しかし、「正しい歯磨きの方法」は意外と世間に浸透していない。
食べた後すぐ歯を磨くというのは、実は間違いだ。食事をして歯についた酸性の食べ物は、歯の表面にあるエナメル質をやわらかくする性質がある。
唾液には、それを修復(再石灰化)する作用があるのだが、食べてすぐに歯を磨いてしまうと、まだやわらかいエナメル質が削れるばかりか、歯の修復も妨げることになる。食後30分以上経ってからの歯磨きが理想だ。略
「『保険内』か『外』かどちらの治療をするにせよ、選択肢を与えてくれない歯科医は信用できないですね。とにかく削ってセラミック(保険外)の被せ物をつけたがる歯科医は注意が必要です」(前出・天野氏)
良い歯医者は歯が全身疾患に関係していることを知っているので「連携している病院はどこですか?」と聞いてみるのも手だ。
土日や深夜も営業している歯医者は、経営が苦しい側面もある。休みの日に学会に出たり論文を読んだりする余裕がなく、知識が更新されていない可能性もある。
歯は一度削ると二度と元には戻らないばかりか、治療した歯が虫歯や歯周病の原因となる。老いて大変なことにならないためにも、歯の治療を甘くみてはいけない。
「歯科医の間でも意外と知られていませんが、健康な歯というのは、その内部から湧き出る『歯のリンパ液』とも言われる物質で、常に自ら歯の組織を健康な状態に治し続けています。
ところが、炭水化物を食べて急激に血糖値が上がると、その体液の流れが逆流してしまいます。それが歯を溶かし始めるのです。言い換えれば削らなくとも、炭水化物の量を見直すことで虫歯は治せるのです」
こう語るのは『名医は虫歯を削らない』などの著者で小峰歯科医院理事長の小峰一雄氏だ。
歯医者といえば、あの「キーン」という嫌な機械音がすぐに思い出されるように、虫歯になれば歯を削って詰め物や被せ物をするのが長らく常識となってきた。
だが、小峰氏によれば「『歯の治療=削る』はもはや古い考え方で、そもそも削るから虫歯になりやすくなる」という。
人間の歯は、中心部に「歯髄」と呼ばれる神経があり、その周りを「象牙質」という柔らかい部分が覆っている。そして表面を「エナメル質」の固い層が守っている。
「歯を削ると、表面のエナメル質に目に見えない無数の傷ができます。そこから虫歯菌が入り込んでくるのです。そのため、外からではなく内から虫歯になっていきます。
もっと言えば、詰め物の下の歯が虫歯になるのは再発ではなく、虫歯を削った時点ですでに、虫歯菌が中に入り込んでいるわけです」(小峰氏)
虫歯を削ると、そのときはうまくいったように思えるが、長い目で見ると歯そのものの寿命を短くしている。
「治療した歯こそ虫歯になりやすいのは、歯科医の常識」と語るのは、米国での歯学修士も持つ天野歯科医院院長の天野聖志氏だ。天野氏も削らない治療にこだわってきた歯科医の一人である。
天野氏が続ける。
「歯と修復物(銀歯など被せ物)の間には、どうしても隙間ができます。特殊なセメントを流しこんで埋めるのですが、それがやがて溶けてくる。その隙間から感染が発生し、見えないところで虫歯が進行していくのです」
最近は溶けにくい「レジンセメント」を使う歯医者が増えているが、まったく溶けないわけではない。年を取るごとに隙間ができてくる。