https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190409-00063781-gendaibiz-bus_all略
実際に突発性難聴を患った人は「耳に膜が張ったような違和感がある」「水中にいるような感じ」と表現する。
はたの耳鼻咽喉科院長の波田野洋一氏が語る。
「突発性難聴という病気は、文字どおり突然に発症する難聴です。徐々に症状が出てくるものではなく、特に予兆もありません。
『朝起きてみたら急に聞こえづらくなっていた』という人が多いですね。基本、片方の耳だけで両耳に起こることは大変まれです。
耳鳴りに加えて、時には、めまいを伴うこともあります。聴力が下がる部位によって耳鳴りの音の聞こえ方が変わってきますが、一般的には『キーン』とか『ピー』といった音が多いと言われています」
昨日までなんともなかったのに、ある日突然やってくる。それが突発性難聴の怖いところだ。
突発性難聴は主に30代~40代に発症しやすいが、近年は高齢者の患者も珍しくない。
耳鼻咽喉科・日本橋大河原クリニック院長の大河原大次氏が語る。
「いろんな統計がありますが、国内では年間に3万~4万人の方が突発性難聴を発症していると言われています。男女差はありません。現場の感覚からすると、気が付かずに受診されない人もいるので、実数はもっと多いと思います」
いかにして突発性難聴は起こるのか。その原因はいまだに解明されていない。基本的に原因がはっきりしない耳鳴りや聴力の低下は、まとめて突発性難聴と診断される。
「血流の循環障害とか、ウイルス感染、アレルギーなどいろいろな説がありますが、現代の医学をもってしても、確定的なことはわかっていません」(前出・波田野氏)
ストレスや睡眠不足も発症の要因の一つと言われている。原田さんが突発性難聴を発症したのも、連日コンサートが続き、肉体的、精神的にも非常に疲労を抱えていた時期だった。
だが、前出の大河原氏は、「健康で普通の生活をしている人でも、罹る確率は十分ある」という。
「突発性難聴は『こういう人がなりやすい』『これをやってはいけない』というものがありません。持病の有無もほとんど関係ない。そのため、予防することが難しいのがこの病気の厄介なところです」
原因が解明されていない以上、決定的な治療法も確立されていない。具体的な治療としては、ステロイド剤、循環改善剤、代謝改善剤、ビタミン剤の投与などがあるが、「効果があるであろう」というレベルで、特効薬と呼べるものは、まだ見つかっていない。
一つ注意したいのは、突発性難聴はメニエール病と混同されやすいこと。どちらもめまいや耳鳴りを伴う難聴の一種だが、病気が違うと当然、治療法も変わってくる。
突発性難聴だと思っていたら実はメニエール病で、効かない薬を飲んでいたケースもある。
「突発性難聴は一度発症すると、そのうち3分の1は治り、3分の1は症状が軽減し、3分の1は治らないといわれています。
難聴の程度が強い方(70デシベル以上の高度難聴)、高齢者、めまいを伴う方は、一般的に治りが悪いグループに入ります」(前出・波田野氏)
「私は残念ながら、その治らない部類でした」と語るのは、川崎孝之さん(61歳・仮名)だ。川崎さんが突発性難聴を発症したのは5年前のこと。
「いろいろな治療法を試したのですが、結局、右耳は完全な難聴になってしまいました。耳鳴りは今でも続いています。『この耳鳴りと一生付き合っていかなくてはならない』とわかったときは一気に人生が暗転した気分になりました。
特に夜になり周囲が静かになると、耳鳴り(ブーンというモーター音)がひどくなって不眠状態になったのはつらかったですね。
あとほかにつらかったのは、耳が聞こえないのは外から見てもわからない症状なので、人に話しかけられたら何度も聞き返してしまい、会話が弾まなかったり、テンポを壊してしまったりして、申し訳ないやら悲しいやら……。
人に会うのも億劫になって、気分も鬱々として、耳鳴りの不快さも重なり、地獄のような気分でした。
いまでこそ、だいぶ耳鳴りにも慣れてきましたが、当時はこんなに苦しいのならいっそ……と発作的に自殺しようかと思ったこともあります」
耳が聞こえなくなるのもつらいが、一生耳鳴りが続くことに絶望して、自ら命を絶つケースも少なくない。
突発性難聴になったとき一番大切なことは、いかに早く病院に行くかだ。
「とにかく早ければ早いほど治る確率は上がります。症状が出て1週間以内の治療がベストで、2週間ならばなんとか間に合うという感じです。3週間を超えると、改善する可能性はかなり低くなります。
ただ、片方の耳で耳鳴りがしたり、耳が詰まったような感じは、普段の生活でもあり得ることです。おかしいなと気づいて病院に行こうと思っても、仕事が入ったり、土日をはさんだりすると、あっという間に2~3週間経過することはよくあります。
中には我慢していて、半年、1年と経ってから治療に来る人もいますが、残念ながら、そこまで時間が経つともう元には戻りません。『もっと早く来てくれたら、治せたかもしれないのに』と、耳鼻科医として残念な思いをすることが多いですね」(前出・大河原氏)
とにかく耳に少しでも違和感があったら、早めに耳鼻科を受診することをお勧めする。略
突発性難聴は、なんの予防もできない病だけに恐ろしいが、早く気づくことさえできれば治るチャンスはある。実際1~2週間以内に治療を始めた人は、かなりの確率で回復している。
「とはいえ、突発性難聴はいつ再発するかわからない病気なので、その恐怖は常に頭にあります。いまは自分の体の声に敏感になることを日々心掛けて生活しています」(原田さん)略