ドッグフードのことについては長期に渡っていろいろ書いておりますが
そのほとんどがドライフード、たまにウェットフードのことです。
今回は原材料一覧のことではないのですが、愛犬や愛猫に生肉を与えることについてです。
また一見生肉とは別物に見えるフリーズドライの肉製品についても触れます。
ニコやニヤが若い頃、BARFダイエットが流行り始めた頃だったかなあ。
ちょっと周りに乗っかって生の肉を与えたことがありました。
でも何となく自分自身がしっくり来なくて、結局は加熱手作り食に戻りました。
生肉をもらっている2009年のニヤ
目と鼻の穴が同じ大きさになっとる

生肉食を選んだ方は信念を持って与えていらっしゃることが多いですし
それを否定されると不快に感じられるのはよーく分かります。
ただ知っておいていただきたいのは、近年ヨーロッパを中心に生肉食への警告が数多く発表されていること。
ペットの生肉食への警告は2019年頃から特に増え始めたように感じます。
論文などを紹介した記事をリンクしておきますので、よかったらご覧ください。
犬や猫の胃酸は人間よりもずっと強い酸性なので、食中毒に罹りにくいと言われています。
確かにサルモネラ菌などを殺菌する力は強いのですが「罹りにくい」だけで「罹らない」わけではありません。
そして上記で紹介している論文などで警告されているのは動物よりも飼い主家族の健康です。
犬は人間の手や顔を舐めたり、顔を近づけてくることが多い動物です。
もしも生肉にサルモネラ菌やカンピロバクターなどが付着していたら、犬の口周りや口中にも細菌が留まります。
そういうものが人間の手や顔に付くと食中毒の症状を引き起こすリスクが高くなります。
この感染経路は実際に確認されているものです。
近年特に強く警告されているのはペットへの生肉給餌が抗生物質耐性菌の蔓延に関連していることです。
未曾有のパンデミックを経験した後では、感染症に抗生物質が効かないことがどれほどの恐怖かはよくわかりますよね。

「おかーさんたら危ない橋を渡ってたのね」
うん、何事も起こらなくてよかったよ。
生肉の利点として「酵素を取り入れることができる」という説がよく挙げられます。
これについては今のところ科学的な根拠はありません。
口から摂取した肉の酵素は、自身がもつ消化酵素によって分解されてアミノ酸として吸収されるため、酵素としては取り入れられないのです。
自分自身の体が分泌する酵素以外の酵素を取り入れたいなら、一番良いのは腸内環境を良好に保つことです。
腸内に棲む細菌は食物繊維などをエサにして、酵素やビタミンを作るからです。

「じゃあフリーズドライフードはどうなの?」
いい質問だね。
フリーズドライとはまず食べ物を凍結させ、次に真空状態に置き、水分を昇華させて乾燥する方法です。
凍結させないシンプルな乾燥方法よりも製品に残る水分が最も少ないのが特徴です。
フリーズドライフードを調査した研究は非常に少ないそうですが、2020年にタイのカセサート大学獣医公衆衛生学部による研究があります。
検査されたタイ国内で販売されている犬用生肉15サンプルのうち14サンプルから許容基準値を超える総細菌数(サルモネラなど含む)が検出されました。
一方フリーズドライフードでは全てが許容基準値よりも低い数値でした。
《参照》
Contamination factors associated with surviving bacterial in Thai commercial raw pet foods.Veterinary World 2020; 13:1988-1991.
この研究は小規模でサンプル数も少ないためデータとしては限界があるのですが
少なくともフリーズドライフードは生肉よりは安全だと考えるデータの1つにはなりそうです。
フリーズドライフードは生肉の栄養価が損なわれないという点についてはまだ発表された研究がありません。
しかし米国イリノイ大学がフリーズドライフードの消化率や栄養価について調査中で、2023年初頭には論文が発表される予定だそうです。
発表され次第またご紹介しますね。
長々と書きましたが、簡単にまとめますと
- 犬や猫に生肉を与えることは細菌の多さなどの懸念がある
- 犬や猫が生肉を食べることで飼い主の食中毒のリスクが高くなる
- 乳幼児や免疫が低下している人がいる家庭では生肉食は避けるべき
- 生肉食によって抗生物質耐性菌の蔓延など公衆衛生上のリスクがある
- フリーズドライフードは生肉食の安全な代替方法となる
ご参考まで!