やっとアップできました。
ちょっと前に予告した、俳優のトム・ハーディが愛犬ウッドストックを見送った後に自身のブログに書いた文章。
「いろんな犬サイトで紹介されてたのって1ヶ月以上前じゃなかった?遅れてる〜じゃない?」
うん、遅れてる〜だ。面目ない。
アメリカやイギリスの多くの犬関連のサイトやエンターテイメント系のサイトで紹介され、日本語のサイトでもいくつか紹介されていました。
自分も紹介したいなあと思いつつ、いろいろ手一杯だったのと、日本語でも紹介されてるからもういいかなあという感じだったんですが
日本語訳がどれもみんなスッキリ美しすぎて「えー、これはちょっと違うなあ」と思って、自分でも書いてみたくなったんですね。
ブログの文章だからカジュアルなものだし、トム・ハーディという人のバックグラウンドを考えると
プロの翻訳家の方が訳した正しい日本語だと、いまいちトムハ感が伝わって来なかったのよね。
とは言ってもトム・ハーディの文章は手強かったわー。
話し言葉がそのまま文字になってるような部分も多いし、イギリスのスラングも混じってるし、もちろん文法は正しくないし(笑)
原文はものすごく改行が少なくて、句読点に当たるコンマやピリオドも多々抜けてるのですが
さすがにそこまで再現すると読みにくいこと山の如しになるので、やや直しています。
でも、できるだけ原文の雰囲気を残したかったので、文章としては読みにくいと思うのですが
その美文ではないところにトムらしさと深い深い愛と悲しみが余計に出ているような気がします。
もし、それが感じられなかったら、それは私の訳のマズさなのでお許しを。
固有名詞などはカッコで軽く説明しています。
初めてウッドストックを見たのは、あいつが高速道路のあたりを走ってる姿だった。
ジョージア州ピーチツリーの街で、もうすっかり遅くなった真っ暗な夜のことだ。映画『欲望のバージニア』の撮影中だった。
(後でわかったことだけど)11週齢の迷子犬、なんてこった!すぐに捕まえに行こうとしたさ。
実際のとこ、その時はそいつが犬かどうかさえ確かじゃなかったけれど。
車を停めた。文字通りの真っ暗闇だ。スマホを使って道を照らした。
道路を走ってきた他の車に自分が轢かれないように。
光を当ててみたけれど、あいつはすばしっこかった。
俺はあいつが真っ暗な中を高速道路に向かって車やトラックが走る中に突っ込んでくのを見た。
車の流れに向かってパタパタはためいてた耳を今でも覚えてる。
どれくらいの大きさの、どんな種類の犬なんだ?何にもわからんかった。
ただ、あの2つの耳が狂ったようにパタパタしてるのが見えただけだ。
あいつは俺たちから遠ざかって、確実に破滅に向かって行きやがった。
あいつが犬だろうが何だろうがもうどうでもよくて、俺は少しばかりパニックだった。
叫ぼうにも呼びかける名前がない!
なのにあいつは高速道路のもうすぐそばまで行ってたんだ。
とっさに指笛を吹いた。できる限り大きな音で。指笛が暗闇を突き刺した。
あいつは耳をピシャッと振り回すと同時に両方の目をしっかりと俺に向けたんだ。
そして暗闇の中を俺に向かってまっすぐに走ってきた。
歯をむき出して、なんか変な声を上げながら。
俺は思ったよ、クソッ!あれ犬じゃねーぞ!いったい何やってんだよ!
こっちに向かって走ってくる、脚のあたりを狙いながら、暗くて見えないけど、
やかましい声ははっきりと耳に届き「咬まれる!」と思った。
そいつの歯が突き刺さるのを覚悟しながら、必死で首のあたりのやわらかい毛をつかんでグッと上げた。
そしたら、そいつは拍子抜けするくらいに軽くて俺の顔のあたりまで軽々持ち上がったんだ。
スマホの光を向けたら見えたものは、ちっこい毛皮のかたまりと俺を見つめる2つの大きな茶色い瞳だった。
すっかり怯えて静かになっていた。車に戻ってシートに座ったら、あいつは俺の肩にもたれかかって寝てしまった。イビキまでかきながら。
たいへんな思いをしてきたのは間違いなかった。だけどもう力を抜いてリラックスできる。試練の時は終わったんだ。
ジェシカ(映画の共演者、女優のジェシカ・チャステイン)が女の子か男の子かどっち?と聞いてきた。男だよと俺は答えた。
なんでわかったの?えーっと、それはこいつにウッドストックがついてるって感触でわかったから。
よっしゃ!こいつの名前はウッドストックだ!
(ウッド=木、ストック=釣竿などの柄。つまり付いてたってことね 笑。
ちなみにウッドストックと一つの言葉にすると普通はあの伝説の音楽フェスティバルか、人名か地名などの固有名詞。)
あいつはウンコまみれだった。あいつを抱いた俺もおんなじだ。
俺たちはペットショップに直行してあいつをきれいにしてもらって、いっぱい買い物をした。
とにかくたくさんいろんなものを買った。犬に必要なものを全部。
3人でショップの通路をウロウロして、ウッドストックに自分でおもちゃとカラーとリードを選ばせた。
俺はあの夜のことを絶対に忘れない。最高だった。
あいつはもうちょっとで死ぬところで、次の瞬間には怯えていて、
全然知らない人間に抱き上げられて、車の中で仮眠を取ってたと思ったら、
次にはでっかいペットショップの通路をジョン・ウェインばりのガニ股歩きで嬉しそうにはしゃいでた。
その夜は赤いバンダナを着けてもらって、アパートに戻ったらボウルの水を2〜3杯飲んだくせに、夜の間トイレの水を定期的に飲みに行ってた。
あいつは骨の髄までサバイバーだ。
ウッドストックはトイレのしつけはできてなかったけど、俺たちはほとんどいつも屋外にいたからそれは大した問題じゃなかった。
(撮影所の)トレーラーのドアのあたりでメシを食って、友達をたくさん作った。
撮影セットの外ではP-nut(トムのパーソナルトレーナー)がウッディにリードを付けていっしょにいたけど、そのうちにウッディはセットの中ではフリーのアイドルになった。
俺はこれからずっと永遠にジョージアに感謝し続ける。あの場所は俺に犬と暮らすという最高の幸せをくれたんだ。
マックス(トムの先代犬)が亡くなってから、俺にとっての最高最強の親友として推定11週齢のウッディはやって来た。
最初の日の朝、あいつは自分のフンを食ってた。
俺たちが慌てて止めさせようと追いかけたら、いきなり飲み込んじまった。
きっと取り上げられたら俺たちが食っちまうと思ったんだな。
思いっきり慌ててすごいスピードで飲み込んでたよ。
俺たちはウッディにちゃんとしたマトモなものを食わしてやりたかったし、
フードはちゃんとたっぷりあったのに、あいつはサバイバーだったからな。
なんでも食べられるものがあれば、その時に全部食っておかなくちゃならなかったんだ。
だけどウッディが腹ペコになることはもう絶対になかった。
ウッディのニックネームはYamadukiだった(発音は多分ヤムァドゥッキって感じ)
なんでって、あいつは文字通りクソ(duki)をおいしく味わった(yam)からな。Yam-a-dukiだ。
だからウッドストック・ヤムァドゥッキ・ハーディがあいつのフルネームだ。
のちにはウッディ・トーマス(トムの正式名)とかウッディ・トゥーシューズ(これは多分ウッディの前足の先っちょだけが白いから)とか、もっと短くしてウーって呼んだりしたけどな。
ジェス(ジェシカ・チャステインのこと)のご両親が親切にも検疫のための隔離をしなくて済むように
ウッディのあれやこれやの手続きをしてくれた後、あいつはイギリスにやって来た。
ウッディはうちの中で暮らすためのしつけまでしてもらってた。
あいつは俺の映画『ウォーリアー』(傑作)のTシャツも持ってたよ。
『ダークナイト』の撮影をしてた時、カリフォルニアのジェスのご両親のところにウッディを迎えに行った。
あの人たちには心から感謝してる。
あいつは俺のことを忘れてなかったよ。
ジェシカのご両親はウッディのために苦労して手を尽くしてくれたというのに、
あいつは俺の指笛を聞いた瞬間に振り返りもせずに俺の方に走ってきたんだ。
とても申し訳なく思ったんだけど、心の中ではすごく嬉しかった。
だいじな友達とまたつながったんだ。
俺たちはみんなでピクニックに出かけて、ウッディもいっしょに湖に飛び込んだ。
ウッディは全然泳げなくって、俺はあいつのケツを湖から引っ張り上げたさ。
2回目におんなじことをやった時には、それがもうガチのパターンになった。
その日から、川やら池やらで何度あいつを引っ張り上げたことか。
あいつがアヒルを追いかけるのが好きすぎたせいだ。特にテームズ川が定番だったな。
狂犬病の抗体検査が済んで、検疫施設で一週間を過ごした後、ウッディはロンドン子になった。
あいつは天使だった。そして俺の親友だった。俺たちはいっしょにたくさんの場所に行った。
シャーロット(トムの奥さん。女優のシャーロット・ライリー)はウッディのひどい分離不安に根気よくつきあってくれた。
あいつはシャーロットを本当の母ちゃんみたいに大好きだった。
彼女が妊娠した時には、本気で彼女のことをガードして守ってた。
ウッディはいろんな映画のセットを訪問して、たくさんの映画クルーに会った。
レッドカーペットでの写真撮影はとてもとてもたくさんの友達を作ってくれた。
あいつはタイム誌の「もっとも影響ある動物100匹」の73位にだってなった。
『ジョーズ』のサメに勝ったんだぜ。
俺たちみんな、最高だって思ってた。
ウッディは『ピーキー・ブラインダーズ』(テレビ番組、これも傑作)に出演もした。
映画『レジェンド 狂気の美学』では会った人みんながウッディを愛した。
あいつの体の中にはイヤなものなんて何一つなかった。あいつの知ってる全部が愛だった。
いつもの俺は家族や友達のことを語ったりしない。でもこれは特別事態だ。
ウッディはとてもたくさんの人にあいつなりの正しさで影響を与えた。
自分の自主性をだいじにして、優しいフレンドリーな顔をみんなに向けてた。
大きな大きな悲しみと重たい心で伝えなくちゃならない。
6ヶ月というとても辛い、だけど呆気ない、進行性の多発性筋炎との闘いの末に、2日前ウッディが亡くなった。
あいつはまだたったの6歳だった。俺たちを残して逝くにはまだまだ若すぎだろう。
家に居ると俺たちはあいつがいないことに打ちのめされ呆然としている。
そしてあいつがくれた友情と愛に言い尽くせないほどの感謝をしている。
あいつがもう苦しい思いをしていないことは俺たちの心の安らぎだ。
だけど徹底的に心がえぐられてる。
ウッディが存在して、俺の隣にいてくれる世界は俺にとってはより良い場所だったんだ。
おれの史上最高以上の友へ。
言葉で表せないほどあいつを愛していた俺自身と家族みんなの、あいつが愛していた俺たち家族の親友。
疑いなくあいつの愛は俺が知ってる何より最高だった。
ウッディは最高の旅の仲間だった。俺たちが夢見た理想の道連れだった。
俺たちの魂は永遠にしっかり絡み合ってる。
ある友達が言った。
「あいつは特別な兄弟だったよ。
人間の最良の友と呼ばれる犬たちの輝けるサンプルだった。
あいつはとてつもなく明るく輝いた。
あんまりにも明るく強く輝いたから、2倍早く燃え尽きたのかもな。」
ウッディ、俺たちを選んで来てくれてありがとう。
俺たちは永遠にお前を愛しているし、ずっとお前と、お前はずっと俺たちと一緒だ。絶対に絶対に何があっても忘れたりしない。
お前のトムは言葉に尽くせないくらいお前を愛してる。
月まで行って戻ってきて、また行って、無限に繰り返せるくらいに、もっと。
今はマックスや天使たちと走り回っていてくれ。俺がそっちに行ったらまた会おう。
俺の全てでお前を愛している。お前がくれた愛にずっと感謝するよ。
俺のかわいいウッディ。
これもトムのブログにアップされていたウッディのムービー。
これがまた文章同様に、たいへん荒削りで、編集もおいおいって感じなんだけど
それも含めて全部味わってみてください。
映画関係者の知り合いなんてたくさんいるんだから、すごいものだって作れるはずなのに
全然そうじゃないところがね、なんともグッと来るんですよ。
「おかーさん、この人大好きだもんね。」
うん、大好き。
最近のイギリスの俳優は良い家庭の子息で名門校を卒業した品行方正な人が中心で
なんだかちょっとつまらない感じになってるわと思っているので
トム・ハーディみたいな人はずっと第一線でいてほしいなと思ってる。
トムの文章中に出てきたマックスというのは、彼が15歳の時に迎えた、彼にとっての初めての犬。
黒いラブラドールミックスでした。
トムはマックスも一緒に通えないならアクターズスクールに行くのは辞めると主張したんですが
さすがはイギリス、主張が認められてマックスはトムと一緒にアクターズスクールに通ったんですって。
2011年にこの世を去るまで、マックスは常にトムと一緒にいたらしい。
マックスと同じようにウッドストックも映画の撮影にもレッドカーペットでも常にトムの隣にいました。
Tom Hardy dogで画像検索すると、いい写真がいっぱい出てきますよ。
トム・ハーディの悲しい気持ちを思うと、胸がキューっと苦しくなるほどですが
彼が2匹の犬を幸せにしたことは間違いがない。
そして多分きっと、いつかまた幸せな犬が増えるに違いないと勝手に思っています。