定本宋斤句集 春 ２

定本宋斤句集　春　２

春　日　　　春の日の墓銘に無くも一茶かな
　　　　　　春日さす厨にて愚妻何うたふ
　　　　　　春の日に井あり池ありみなまるき
啓　蟄　　　啓蟄や浦邊は貝の砂乾く
春　暁　　　春暁のなにかと笛もきこゑけり
春　晝　　　春晝や踏まじと踏みし牡丹筒
　　　　　　春晝や落花を食って魚肥ゆる
春　宵　　　春宵や裳おろして町に入る
　　　　　　春宵の猫に獣臭なかりけり
　　　　　　宿の女に嘘ついてゐる春の宵
春の暮　　　艇笛を雨のはぐみつ春の暮
春の闇　　　春の闇我にあらねど妓が呼べる

定本宋斤句集 春 １

定本宋斤句集　春　１


立　春　　　栗鼠せはし春の立ちしと樹に告ぐる
春　分　　　春分や百合根に萌えて台所
　　　　　　　 三朝にて
早　春　　　雪の中早春ひゞく三朝川
　　　　　　早春の寒さは水に梅の枝
如　月　　　如月や雲漏る日すぢすだれして
三　月　　　三月ある日蝶空をゆくかぎりゆく
　　　　　　三月や散らぬ櫟の枯れ景色
春浅し　　　からたちはなほ春浅し濠の水
　　　　　　魚棚に魚族見て佇つ春浅き

　　　　　　　 高野山吟
春　寒　　　春寒し土のあらびに夕ごゝろ

　　　　　　　 花岳寺
                    春寒むの案内僧なり香を焚く
春　　　　　干鰈軒につられて春のもの

　　　　　　　　 吉野神宮
                      春高し山平らに踏む日の真砂

　　　　　　　 志賀にて
                      みちの端に座をする草も志賀の春
　　　　　　 みの虫の空春となりあけぼのゝ
　　　　　　 止々呂美の櫟の枯れが散る春歟
　　　　　　 磯村や春は空から山端月

一茶の墓は小林家の一基中に併葬せられありてその傍に近時見仰ぐる立派な一茶の墓を
建立せられあるも却つて故人にふさわしからず
　　　　　　　　

定本宋斤の句集 新年 ３

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定本宋斤句集　新年　3


初句会　　　羽子板をあぎとの下に抱きけり
初　旅　　　初旅の人たかたかと舷欄に
初　山　　　初山やふかき径のあるを往く
鍬　初　　　南天の實のこぼるるを鍬はじめ
縫　初　　　縫初や木綿ながらも匹を裁つ　　　　　　　　　　　
いねつむ　　海聴いていねつむばかり雪の宿
女正月　　　女正月みなが旧師に甘えつゝ
元始祭　　　御鈴の儀いまも夢聴く元始祭
恵　方　　　恵方ゆく舷に潮むすびけり
　　　　　　吟行や雪に媚ぶ旬も恵方かな
　　　　　　南に島神ありて恵方かな
　　
　　　　　　天王寺
どやどや　　篝火の點いてどやどや今が今
　　　　　　背に腹に朱印べたべたすまひ取
　　　　　　　　天王寺
初庚申　　　三猿に初庚申の悟り顔
初天神　　　初天神正月のなほ街にあり
初　雛　　　初雛のあとに露ふる竹の闇
初　鴉　　　江の空や羽音聞かせて初鴉
野　老　　　雪のうへ野老を組みてひさぎけり
ゆずり葉　　ながめ居てゆずり葉にたつ紅のいろ