早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

定本宋斤句集 春 4

2018-02-16 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集


定本宋斤句集  春 4

 
夏近し   宿々や濱木綿植えて夏近し
       菊五郎の汐汲を見る
朧     双の桶春のおぼろを汲みて舞う
      死を談じ珈琲がうまし夜の 朧
      烏賊の眼の笑える皺や厨おぼろ
      魚棚や水をおぼろに烏賊の墨
東 風   東風吹いて港こゝらは農家かな
      熊野よりの鯣干し足す東風つよし
                         播州那波
春の風   春風の入江浅波島二つ
春日南   咲くは無く東南院の春日南
春の空   起きあがるものを心に春の空
初 虹   初虹のたつや比叡山雲の上
海 市   水彼方海市は知らず夢の雨
陽 炎   雲見る眼地に落としたる陽炎へる
霞     能登島や霞のあとの薄霞
       南部沖の鹿島
      掌のうへの貝がものいふ霞かな
        松江にて
         江のかすみ雨降って居る庭の松
      霞むなくはるかに筏だまりかな


               定本宋斤句集 早春社刊

定本宋斤句集 春 3

2018-02-16 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集


定本宋斤句集  春 3

 
春の夜   書けてきて春夜更けゆく我世なれ

       弘文天皇亀田城
      陵に春の夕ぐれ湖としても
      春夜出て往くに樞の我に落つ
春 暖   春暖を縁の雨拭き妻のいふ
ぬくし   ぬくき日の一日ありて天王寺
長 閑   枇杷の花くすみ枯れたる長閑かな
      籐椅子を年中縁に桃長閑
麗     門麗牛が遺して蠅多き
花過ぎ   花すぎし寒さの朝の若布汁

       菅生天神にて
遅 日   里の名の菅生の名残遅日かな
春深し   春深し山の信濃の北の端

         長野駅 艸十君と別る
行 春   行く春の真夜の寒さに旅ごろも
      ゆく春や京まる山のとある燈に
      ゆく春はさめゆくこゝろ雲にあり