早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

定本宋斤句集  秋 3

2018-09-04 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集



定本宋斤句集  秋 3

     子規忌併早春社物故社友追悼会を前にして
       経木書くその名その名に秋は澄む
朝寒む    川の面に住み馴れて來つ朝寒さ
秋され    家の燈に船あからさま秋されぬ
夜 長    替え枕ひくきに移る夜の長さ
       犬蓼の花挿しだしなが夜かな
十 月    蠅叩十月末の白布かな
冬近し    冬近きものゝ芙蓉の實枯かな
     双葉、羽黒山の相撲を観る
秋 光    秋光の注いで双葉羽黒組む
     奉祝二千六百年の秋
       秋光に祝ぎつ正しつ血と心
       秋光や懐ひ一つに佛の日
       秋光やこの窓鳥の外不知
秋晴れ    掘の外のもの賣うたひ秋のはれ
秋日向    秋日向このごろに籠の羽ぬけ鷽
秋 空    我縁の六橋見ゆる秋の空
     河内、長野にて
秋の雲    秋雲や千早あたりの山容
鰯 雲    鰯雲北に疎らくて岑のうへ
金 風    金風のあしたにひろし汀波
秋 風    秋風の阿波淡路より崖の波
       この春の挿し柳なり秋の風
初 風    初嵐士の香のして夕まぐれ
送りまぜ   送りまぜ草の間を水いろもなく
霧      風鐸に落つるは霧の雫かな
       門前の霧を蹴りゐる荷馬かな
     満州行、大連
露      朝露に大陸一歩したりけり
     東京百花園にて
       露ならぬ花なく藪のけぶるなり
       頬を掻いて白き瞼の露の鳥
     細川高国、大物崩れに
       露ふめば蝙蝠の出づ枯れいろに
       露じみて行人に媚ぶや牛の顔
     石井露月氏を悼む
       みちのくの地のうへのみな露かなし
稲 妻    稲妻に立ち出て冷やす頭かな

定本宋斤句集  秋 2

2018-09-04 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集




定本宋斤句集  秋 2


    山崎宗鑑隠楼最初の地尼崎に近く一碑を建てらる
秋の日   町中に秋日して土あたたかし
      文書に秋の夕闇そまりけり
      温泉に入って秋日暮れたり一日旅
      旅の肩つよくぞあたる秋日かな
      秋の日はむすめ輪をなし語るなか
      秋日南小魚が鉢に波たてゝ
秋暑し   秋暑し川の明るさ天井に
秋の夜   秋の夜の女かいな薄着かな
新 涼   新涼や我家芭蕉を巨木とし
      新涼や寺か社か小木の闇
冷 か   蝙蝠に大阪の水秋冷か
爽 か   爽かなや掌にして壺中奏づるを
    砂舟日毎に裏川を逆るを
       秋さやか砂舟に飼う兎かな
      掌にして壺中奏づるを
      紫野大徳寺虫干拝観
      爽やかな明高麗の古錦
秋涼し   雨餘を来て空なり地なり秋深し
      音のみに何の花火か秋深し
      夕顔は莟か種か秋深し
     五條邦綱が寺江の山荘跡にて
      この川に礎石沈むと秋ふかし
宵の秋   宵秋を來て著く濱の砥石船
秋彼岸   さわやかの雲こそ秋の彼岸入り
澄 む   泉澄む秋立ちてけふ幾日かな
 

定本宋斤句集  秋 1

2018-09-04 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集


定本宋斤句集  秋 1


今朝の秋 今朝秋の机に拂ふ蟲の翅
    聖観世音禮讃
     うつゝゑむくだらほとけに今朝の秋
    住吉神社々頭
初 秋  松に鷺の御絵扉も秋はじめ
    香取神宮
     参道の桜秋なり左右散れり
    穴太、藤田
     草秋に村の餅屋が搗くひびき
     蝉聴いて秋ひやゝかに棕櫚林
     口誦む津の宮渡しなど秋や
紀伊白濱にて
      一湾を秋の澄むさまめぐりけり
     温泉の窓に秋照る波をさし覗く
     この壺のつめたさ秋は膝のうへ
     栗虫が出て栗這へり縁の秋
     峠から渡船も眞下秋ひろし
     旅信みな秋書き來なる病ひ倦む
    紫野大徳寺虫干拝観  
     古文書に秋の夕闇そまりけり