祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています
定本宋斤句集 秋 3
子規忌併早春社物故社友追悼会を前にして
経木書くその名その名に秋は澄む
朝寒む 川の面に住み馴れて來つ朝寒さ
秋され 家の燈に船あからさま秋されぬ
夜 長 替え枕ひくきに移る夜の長さ
犬蓼の花挿しだしなが夜かな
十 月 蠅叩十月末の白布かな
冬近し 冬近きものゝ芙蓉の實枯かな
双葉、羽黒山の相撲を観る
秋 光 秋光の注いで双葉羽黒組む
奉祝二千六百年の秋
秋光に祝ぎつ正しつ血と心
秋光や懐ひ一つに佛の日
秋光やこの窓鳥の外不知
秋晴れ 掘の外のもの賣うたひ秋のはれ
秋日向 秋日向このごろに籠の羽ぬけ鷽
秋 空 我縁の六橋見ゆる秋の空
河内、長野にて
秋の雲 秋雲や千早あたりの山容
鰯 雲 鰯雲北に疎らくて岑のうへ
金 風 金風のあしたにひろし汀波
秋 風 秋風の阿波淡路より崖の波
この春の挿し柳なり秋の風
初 風 初嵐士の香のして夕まぐれ
送りまぜ 送りまぜ草の間を水いろもなく
霧 風鐸に落つるは霧の雫かな
門前の霧を蹴りゐる荷馬かな
満州行、大連
露 朝露に大陸一歩したりけり
東京百花園にて
露ならぬ花なく藪のけぶるなり
頬を掻いて白き瞼の露の鳥
細川高国、大物崩れに
露ふめば蝙蝠の出づ枯れいろに
露じみて行人に媚ぶや牛の顔
石井露月氏を悼む
みちのくの地のうへのみな露かなし
稲 妻 稲妻に立ち出て冷やす頭かな
定本宋斤句集 秋 2
山崎宗鑑隠楼最初の地尼崎に近く一碑を建てらる
秋の日 町中に秋日して土あたたかし
文書に秋の夕闇そまりけり
温泉に入って秋日暮れたり一日旅
旅の肩つよくぞあたる秋日かな
秋の日はむすめ輪をなし語るなか
秋日南小魚が鉢に波たてゝ
秋暑し 秋暑し川の明るさ天井に
秋の夜 秋の夜の女かいな薄着かな
新 涼 新涼や我家芭蕉を巨木とし
新涼や寺か社か小木の闇
冷 か 蝙蝠に大阪の水秋冷か
爽 か 爽かなや掌にして壺中奏づるを
砂舟日毎に裏川を逆るを
秋さやか砂舟に飼う兎かな
掌にして壺中奏づるを
紫野大徳寺虫干拝観
爽やかな明高麗の古錦
秋涼し 雨餘を来て空なり地なり秋深し
音のみに何の花火か秋深し
夕顔は莟か種か秋深し
五條邦綱が寺江の山荘跡にて
この川に礎石沈むと秋ふかし
宵の秋 宵秋を來て著く濱の砥石船
秋彼岸 さわやかの雲こそ秋の彼岸入り
澄 む 泉澄む秋立ちてけふ幾日かな
定本宋斤句集 秋 1
今朝の秋 今朝秋の机に拂ふ蟲の翅
聖観世音禮讃
うつゝゑむくだらほとけに今朝の秋
住吉神社々頭
初 秋 松に鷺の御絵扉も秋はじめ
香取神宮
参道の桜秋なり左右散れり
穴太、藤田
草秋に村の餅屋が搗くひびき
蝉聴いて秋ひやゝかに棕櫚林
口誦む津の宮渡しなど秋や
紀伊白濱にて
一湾を秋の澄むさまめぐりけり
温泉の窓に秋照る波をさし覗く
この壺のつめたさ秋は膝のうへ
栗虫が出て栗這へり縁の秋
峠から渡船も眞下秋ひろし
旅信みな秋書き來なる病ひ倦む
紫野大徳寺虫干拝観
古文書に秋の夕闇そまりけり