早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十二年三月 第二十三巻三号 近詠

2021-12-22 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十二年三月 第二十三巻三号 近詠

春潮の寒さは鳥の高きかな

砂濱や稚松そだちて東風の宮

魚棚に魚族見て佇つ春浅き

黄梅の捨て咲きに風如月す

紀元節今朝の机に梅の花
霧雨の降ってなほなほ水温む

春炬燵出てさらぬ気に答へけり

春の雨菫の土の鉢ぬる

春宵の窓開けし手がまた閉ぢし

青き踏んで想ひ出すことみな遠し

シャボン玉行人背を逃げ切らず

今年ほどぬくきは知らず蕗の薹

春の夜こゝら船具屋大碇

飛行場へゆく道の葱春の風

人ぬくゝ茶店に床几選み居る

春の闇柳下に舳あつまれる

吟行子みな仰ぎつる春の雁

山神に谺食はれて春の盡

飛び飛びに野を焼きそめし火の舌よ

   菊五郎の潮汲を観る
双の桶春のおぼろを汲みて舞ふ


  藁塚

藁塚に来てもたれ居ぬ角兵衛獅子

藁塚の並ぶすき間の障子かな

藁塚の外にもぬくし崩れ藁

  磯遊び
磯遊び夜はおばしまに月を見る

磯遊び戻りを蓬つみにけり


  住吉より奈良へ
正月や住吉四社の御扉

住吉を奈良に来たりぬ神の春

  手向山
新春の夕日を見惚れ三笠山

冬顔の角なき鹿に夕日さす

  大仏殿
初春や池中島に華表澄む

芝踏みて歸る足なり奈良暮れる

春日山ふりかへる毎冬の暮れ

芝冬に歸りほぐれの鹿の尻

かれ柳池をめぐりて雲遠し

奈良の宿屋に正月ごゝろ呼ばれゐる

   早春社二月本句會
夕かすみ水に蜆の肥ゆる哉

春浅きものゝ圓らの蜆貝

降る雨にはこべらぬくき茂り哉

挿してより菜の花のちるあたゝかし

小波のひろひろとあるは暖かし
 
  無月会四條畷行
冬日向糸瓜の水とりすてに

立札や名のみ瀧に冬紅葉

残菊の鉢にも粉もに

冬やゝにふかし紅葉に無風なる

南天にひと時の日の冬の庭

 
泉すむ秋立ちて今日幾日かな

この壺のつめたさ秋は膝の上