早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十六年十二月 第三十二巻六号 近詠 俳句

2022-09-02 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十六年十二月 第三十二巻六号 近詠 俳句

    近詠
神發ちの諸草緲か戰ぎけり

はこべらの鉢にほこえば冬來る

冬日和小さき農具を友の購ふ

丙種は合格もとよりのこと爐の語り

冬に入りコスモスに窓低き家

主客して句の書き捨てを炭斗に

病めば懐爐に火傷して居し笑止なる

星の中にはじき合ひゐる冬の星

雨脚のあかるし石に石叩

冬凪ぎの樹は寝て石の醒めてゐる

日南しおもふ冬には多き古人の忌

軍事郵便送り負けゐる冬燈下

稲知らぬ街の雀が炭船に

夜の闇を菊咲けるなり冬の雨

川冬や舟の杜絶えを鳶赫く

残る蟲地に委す燈あるからに

蜆はまぐり時雨の市場貝ばかり

萎えざまに濱木綿なんど冬心

蚊帳を繰りたのしみつ火を埋み

八つ手咲き家人の見ゆる稀れにして

冬の花白くて壺ははなだいろ

枯柳に年のつまりを早や思ふ


初嵐
初あらし前ゆく人の背ひろく

水覗く夜の葉の白し初嵐

ともす燈を海は暮れざり初あらし

  天の川
仰ぐところ銀漢ながれ砂丘ゆく

天の川茣蓙の匂ひに寝ころんで

寺ぬけて裏門またも天の川

  北風
宿引に我を與へて北風をゆく

旅に出てひろきこころを北風す

北風に杉霜焦げを照りにけり

  早春社十一月本句會 兼題「芒老ゆ」席題「星冷ゆ」「崩𥱋」
徐々や燈に現はれて芒老ゆ

老芒住む明るさの覗かるゝ

國楢原の日南むかしに崩れ簗

水勢の霧を誘ふてくずれ簗

  二葉會九月例會
かるかやに閃々水のふもとゆく

一窓に山深きあり天の川

  二葉會十月例會
盤石を淺き底にし水澄める

朝山に起き出て仰ぐ新松子

  二葉會十一月例會
黃葉や島山うらに窓もちて

鹿垣の日ざし愉しみ跨ぎけり