早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十七年五月 第三十三巻五号 近詠 俳句

2022-09-16 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十七年五月 第三十三巻五号 近詠 俳句


    近詠
この堤伏見京まで雲雀空

蒔きしものかたゞ草の芽か箱の土

若竹を左右に登って門の跡

春暁の雲いとけなし野をのぼる

藤棚の下に皓齒を遺し去る

海風を眞面の岡に花果つる

塀を來てはづれの小畑春のこる

書中句に戻るとありしわか葉窗

春蝉に磴のぼる脚おとろへぬ

林中に歩のとゞまらず夏近し

園丁に馮く蝶すでに暑きかな

残鶯に渓下りるみち岐れたり

廣庭のこの家の子等がよめ菜摘む

瀧それは筧を落ちて若楓

敵機來待つなく仰ぐ松緑

空襲警報いとまは鳥に繁蔞やる

街中や椶櫚花咲きて醫の構へ

行春の砂を城址に蹴りて居つ

草の絮散りて城阜に小祠のみ

頬杖を佛したまひ若葉寒む

夏あさく低き燕の光り踏む

霞照る五月島山二里の沖

滴りの草を握れば拳漏る

舗道は映える雨水兵に夏らしも

五月山朝雲一朶ひろがりつ

薫風や里人楠氏の城を指す

   滴り
滴りや閃々として日のひろ葉

滴りを諸手片手のさし合ひて

滴りの見上ぐる巌蝶登る

滴りに山空せまく仰けり

 早春同人大會 四月二十日 宝塚植物園 兼題「霞」
遠かすみ花に得行かで日々す

  植物園即景
山吹のあかるさみちのまた通ず

夏近き楓の秀ゆく蝶のあり

すでに余花池の隅々ちりしける

  早春社四月本句會 兼題「花の冷」席題「大根の花」「屋根替」
燈籠の火袋うつろ花の冷

照れば暑し大根の花の亂れたる

すずしろの花そよぐ風藪誘ふ


   二葉会二月例會 
一夕のこゝろはこべの花に置く

世にまじり渡りゆく橋柳芽に

   二葉会三月例會
春南風たんぽゝの絮胸につく

春雷や柳そのまゝ池の面




 












宋斤の俳句「早春」昭和十七年三月 第三十三巻三号 近詠 俳句

2022-09-16 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十七年三月 第三十三巻三号 近詠 俳句

    感激・新嘉坡陥落
日本一億東亜十億風光る

凍てゆるむされど油断のあるべきや

    近詠
止止呂美の檪の枯れが散る春歟

二三子の佇ちて夕日の黄水仙

春めきて對窗の燈の胸にある

草に臥し帆をゆかしむる堤春

川に入り傳馬舟卸され春の潮

往く肩に切戸が開いて春の庭

うちの猫男となりし雨を往く

鳥雲に入りて町端が大入日

濱木綿の實は何時埋む春日南

初諸子締めたる口に紅ふくみ

野は雲雀啼いてゐしとて獨活呉れし

春宵の猫に獣臭なかりけり

桟庭に我が春小さく飛機西す

嫁や良し春光に振る干竿や

机の上いつに片付く春の夜

春雨を川面に覗き妻のいふ

てくさりの無駄茂りして冱返る

ひと杜の眞晝に入りぬ落椿

魚影して池の深かみづぬるむかな

馬は喰み春雪厭ふ瞼なる

雲うすく絶へずも春の山を湧く

蘆の芽に水輪切れても擴がれる

青みける細きながらに瘤柳

梅一本はなれて二木鳥居ぬち

熊野よりの鯣干し足す東風つよし

某夜二月熱ありし時の林檎汁

叉の寒剥落寺の古襖

丘の上の平らの芽木に人散れる

草の香
草の香に石階白き夜なりけり

草の香や水平らかを蟲の聲

草の香の岸擦る舟に捲けてゐつ

草の香に離房の燈訪はんかな

   早春社二月本句會  兼題「早春」席上「春落葉」
早春のつめたき心野に正す

早春のさす日を肩に保ち讀み

春落葉ぬれてゐたれば脛に付く

春落葉蔀戸卸りて暮れ一途

春落葉論じて僧の皓齒なる

冬ざくら欅の空と交はしりけり

底の石に觸れずも冬の金魚かな

  安孫子子浪君追悼俳句會
子浪しのべば水仙に座す細おもて

早春社俳句報國結成式 昭和17年2月1日 
主宰宋斤当日発熱臥床中で欠席 會に続いて、子息要 明子の新婚披露の挨拶あり 一同好機として記念撮影