宋斤の俳句「早春」昭和十七年五月 第三十三巻五号 近詠 俳句
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近詠
この堤伏見京まで雲雀空
蒔きしものかたゞ草の芽か箱の土
若竹を左右に登って門の跡
春暁の雲いとけなし野をのぼる
藤棚の下に皓齒を遺し去る
海風を眞面の岡に花果つる
塀を來てはづれの小畑春のこる
書中句に戻るとありしわか葉窗
春蝉に磴のぼる脚おとろへぬ
林中に歩のとゞまらず夏近し
園丁に馮く蝶すでに暑きかな
残鶯に渓下りるみち岐れたり
廣庭のこの家の子等がよめ菜摘む
瀧それは筧を落ちて若楓
敵機來待つなく仰ぐ松緑
空襲警報いとまは鳥に繁蔞やる
街中や椶櫚花咲きて醫の構へ
行春の砂を城址に蹴りて居つ
草の絮散りて城阜に小祠のみ
頬杖を佛したまひ若葉寒む
夏あさく低き燕の光り踏む
霞照る五月島山二里の沖
滴りの草を握れば拳漏る
舗道は映える雨水兵に夏らしも
五月山朝雲一朶ひろがりつ
薫風や里人楠氏の城を指す
滴り
滴りや閃々として日のひろ葉
滴りを諸手片手のさし合ひて
滴りの見上ぐる巌蝶登る
滴りに山空せまく仰けり
早春同人大會 四月二十日 宝塚植物園 兼題「霞」
遠かすみ花に得行かで日々す
植物園即景
山吹のあかるさみちのまた通ず
夏近き楓の秀ゆく蝶のあり
すでに余花池の隅々ちりしける
早春社四月本句會 兼題「花の冷」席題「大根の花」「屋根替」
燈籠の火袋うつろ花の冷
照れば暑し大根の花の亂れたる
すずしろの花そよぐ風藪誘ふ
二葉会二月例會
一夕のこゝろはこべの花に置く
世にまじり渡りゆく橋柳芽に
二葉会三月例會
春南風たんぽゝの絮胸につく
春雷や柳そのまゝ池の面
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近詠
この堤伏見京まで雲雀空
蒔きしものかたゞ草の芽か箱の土
若竹を左右に登って門の跡
春暁の雲いとけなし野をのぼる
藤棚の下に皓齒を遺し去る
海風を眞面の岡に花果つる
塀を來てはづれの小畑春のこる
書中句に戻るとありしわか葉窗
春蝉に磴のぼる脚おとろへぬ
林中に歩のとゞまらず夏近し
園丁に馮く蝶すでに暑きかな
残鶯に渓下りるみち岐れたり
廣庭のこの家の子等がよめ菜摘む
瀧それは筧を落ちて若楓
敵機來待つなく仰ぐ松緑
空襲警報いとまは鳥に繁蔞やる
街中や椶櫚花咲きて醫の構へ
行春の砂を城址に蹴りて居つ
草の絮散りて城阜に小祠のみ
頬杖を佛したまひ若葉寒む
夏あさく低き燕の光り踏む
霞照る五月島山二里の沖
滴りの草を握れば拳漏る
舗道は映える雨水兵に夏らしも
五月山朝雲一朶ひろがりつ
薫風や里人楠氏の城を指す
滴り
滴りや閃々として日のひろ葉
滴りを諸手片手のさし合ひて
滴りの見上ぐる巌蝶登る
滴りに山空せまく仰けり
早春同人大會 四月二十日 宝塚植物園 兼題「霞」
遠かすみ花に得行かで日々す
植物園即景
山吹のあかるさみちのまた通ず
夏近き楓の秀ゆく蝶のあり
すでに余花池の隅々ちりしける
早春社四月本句會 兼題「花の冷」席題「大根の花」「屋根替」
燈籠の火袋うつろ花の冷
照れば暑し大根の花の亂れたる
すずしろの花そよぐ風藪誘ふ
二葉会二月例會
一夕のこゝろはこべの花に置く
世にまじり渡りゆく橋柳芽に
二葉会三月例會
春南風たんぽゝの絮胸につく
春雷や柳そのまゝ池の面