早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十七年一月 第三十三巻一号 近詠 俳句

2022-09-06 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十七年一月 第三十三巻一号 近詠 俳句

   必携大東亜戰争
宣戦のこの日凍雲團々と

冬大日神軍外に捷ちて勝つ

必捷を国土にこたふ風花歟

  近詠
今八日冬山醒めぬ洋波また

宣戦のこの日凍雲閃々と

必捷を祈りつ空は風花歟

冬大日神軍征きて捷ち勝てり

御民一億朽野の果ての爐邊も起つ

冬空は一億士気の反映に

儼として國民向かふところ冴えぬ

霜の聲男子の血心奮う時
    ○
大東亜百年の計元旦よ

南の武運祈りて具足餅

初空を我軍機ゆくいと正し

地球儀にひとり視入りて去年今年

我國ゆ世紀いまなる初門出

若き年來りぬ風邪を振りすてん
     ◯
朝の快さ香港陥ちて石蕗晴れて

冬がすみ山をあらはす東かな

萬年青の實冬にまみれて肥ゆるかな

山に見る鳥の黒さ桑の枯れ

十二月地に鬻ぐもの風にあり

マスク外して使ひの言葉確かな子

川舟の焚く火が寒し風邪ごもり

野に出てゝ土を踏みたし枯れ中の

つゞくりてつゞくりてありて白き洗ひ足袋

雲影を帆うつる空に冬至晴れ

旅なれの脚が焚火の端またぐ

冬椿小枝に莟もたぬなき

  秋の水
浮ほこり一すじながれ秋の水

秋の水岐れてつつむ町美し

ものおもふ日の秋の水ふかき哉

  紀元二千六百一年十二月八日 実戦警戒管制下
   二葉會
冬濤の鼓たり崩けて征矢たりぬ





























宋斤の俳句「早春」昭和十六年十二月 第三十二巻六号 近詠 俳句

2022-09-02 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十六年十二月 第三十二巻六号 近詠 俳句

    近詠
神發ちの諸草緲か戰ぎけり

はこべらの鉢にほこえば冬來る

冬日和小さき農具を友の購ふ

丙種は合格もとよりのこと爐の語り

冬に入りコスモスに窓低き家

主客して句の書き捨てを炭斗に

病めば懐爐に火傷して居し笑止なる

星の中にはじき合ひゐる冬の星

雨脚のあかるし石に石叩

冬凪ぎの樹は寝て石の醒めてゐる

日南しおもふ冬には多き古人の忌

軍事郵便送り負けゐる冬燈下

稲知らぬ街の雀が炭船に

夜の闇を菊咲けるなり冬の雨

川冬や舟の杜絶えを鳶赫く

残る蟲地に委す燈あるからに

蜆はまぐり時雨の市場貝ばかり

萎えざまに濱木綿なんど冬心

蚊帳を繰りたのしみつ火を埋み

八つ手咲き家人の見ゆる稀れにして

冬の花白くて壺ははなだいろ

枯柳に年のつまりを早や思ふ


初嵐
初あらし前ゆく人の背ひろく

水覗く夜の葉の白し初嵐

ともす燈を海は暮れざり初あらし

  天の川
仰ぐところ銀漢ながれ砂丘ゆく

天の川茣蓙の匂ひに寝ころんで

寺ぬけて裏門またも天の川

  北風
宿引に我を與へて北風をゆく

旅に出てひろきこころを北風す

北風に杉霜焦げを照りにけり

  早春社十一月本句會 兼題「芒老ゆ」席題「星冷ゆ」「崩𥱋」
徐々や燈に現はれて芒老ゆ

老芒住む明るさの覗かるゝ

國楢原の日南むかしに崩れ簗

水勢の霧を誘ふてくずれ簗

  二葉會九月例會
かるかやに閃々水のふもとゆく

一窓に山深きあり天の川

  二葉會十月例會
盤石を淺き底にし水澄める

朝山に起き出て仰ぐ新松子

  二葉會十一月例會
黃葉や島山うらに窓もちて

鹿垣の日ざし愉しみ跨ぎけり









宋斤の俳句「早春」昭和十六年十一月 第三十二巻五号 近詠 俳句

2022-09-01 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十六年十一月 第三十二巻五号 近詠 俳句

    近詠
秋いまと定り東山雲しろし

征地より夜寒むとありぬ天の川

盤石に立てば秋聲水にあり

桟庭の出水ふかきを秋日南

川欄を客のよろこぶ秋の雨

   眞田山付近(三句)
さわやかや幼なじみの丘のうへ

青北風や街ぬちながら眞田山

秋気澄む陸軍墓地の區の通り

聴けば鳴る我家の時計旦寒

赤蜻蛉こそと傾ぎし竿のさき

菊剪れば花にあつまる勢ひあり

草相撲國民儀禮おごそかに

砧盤年輪断ちて干割れたる

蝙蝠に大阪の水秋冷やか

卓の上の柿のはだえに夜のしづか

狛犬に海羸うたぬ子の跨りし

採るほどもなき零餘子なり桐を巻く

征きし兄の座に父が居て夜業かな 

止止呂美の鹿火屋をしのぶ霧今宵

  二葉山羽黒山の相撲を観る
秋光の注いで二葉羽黒組む

ゆく秋の徑にて石の焦げてゐる

  女郎花
女郎花多ければまた淋しけれ

  柾の花 まさき
小町して柾の垣の咲きつゞき

一住へ柾の花の坂のぼる

棲みもらす聲と柾の花白く

   早春社十月本句會  兼題「秋光」 席題「水澄む」
澄む水に合歓の葉先きが實なりけり

澄む水の縁を跨いでひゞきけり

澄む水の遠さ點々鳰

秋光やひと降りの雨笹原に