Men's wear      plat du jour

今日の気分と予定に、何を合わせますか。 時間があれば何か聴きましょう。

「馬鈴薯」

2024-11-29 |  その他
「馬鈴薯を『うまりんちょ』と読んでいるのを聞いて笑った」という話を読んで笑ったという話をどこかで見て、口にしてみたら思わず笑ってしまいました。
うまりんちょ...何だかいいですね、知らず知らずのうちに頬がゆるむ魔法の言葉に聞こえます。

悩みや怒りが湧いた時もこれを唱えただけで笑いに転嫁してくれそうですが、おそらくそんな時は思い出さないでしょうねぇ。



同業他社のFさんと偶然知り合ったのはもう25年近く前のことで、いまだに付き合いが続いてるのはひとえにFさんのこまめな性格のおかげです。

その間に「服の話をしたのは60分もないのでは」というくらい他の話でもつ稀有な人で、
ひところは週に二・三回飲んで、休みに予定のない時は遠出なんて時期もありました。

飲んで食べて他の人たちを巻き込んで、長い間には色々あったんですね。

後にFさんが独身生活に区切りをつけてから頻度は減ったものの、その後もコンスタントに会っています。
さすがにコロナ期間中は間遠になり、途中行動制限緩和のタイミングで遣り取りしましたが都合が合わず沙汰止みとなっていました。

今年久しぶりに連絡があって、相変わらず忙しそうでしたが月が変わるごとにメールをくれます。
都内と横浜ですから、他人から見たら「何言ってるの」というくらい、本当はたいした距離ではないんですが。

北海道や九州の人にも会っていないくらいですから、仮にもっと遠かったら、なかなか思うようにいかないでしょうね。

Fさんは「今年中に是非会いたいですね」と書いているので、そう遠くない日に単独か3年分驚かそうとするようなゲスト連れかでセッティングしてくれるでしょう。

たまたま読んでいただいた方にはどうでもいいような話を書いてるうちに、師走がそこまでやって来ています。
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枯れた趣味

2024-09-05 | 生地
しばらく前にコンタクト頂いていた方とようやくタイミングが合って、先日お会いしました。
たいていの方は遠隔地からなので、距離に応じて帰りの楽そうな場所を選びます。
20代後半くらいで「かなり飲む」というので、昼にしては多めに飲みながら語り合いました。

初めての方の話を聴いていると、そう言えば自分もそういうふうに考えていた時期もあったとか思い出すことも多いです。
無駄に散財しないよう先回りしてこうした方がいいんじゃないとか言いそうになったりもしますが、せっかく試行錯誤してらっしゃるので邪魔しないよう気をつけます。

若いうちはやはりスペックなど気になるし、一度刷り込まれた価値観はなかなか上書きし難いし、色々見てモノサシが定まり趣味が枯れるまでには好みも二転三転することでしょう。
タイムレスで質の良い服を求めていろいろ試している方の話はそれなりに面白く、そんなこんなであっという間に3時間以上が過ぎてしまいました。

「枯れた趣味」と言えば、忘れた頃にコンタクトをくれるウィーンの仕立屋さんの話。
既にたくさん作っている顧客がある日その辺りで買ったという粗野な麻袋のようなものを持ってきて「これでジャケット作れないかな」と相談されたと言います。

きっと何度も洗って、地のしもしてみたでしょう。
麻袋みたいと言っても、たまに見るコーヒー豆が入っていたようなジュートっぽい素材とは違って、なるほどジャケットになりそうに見えました。
似た生地が'30年代のApparel Artsにも載っていたと思います。

その顧客の他の注文がどんなものか分かりませんが、「ずいぶん枯れた趣味だな」と思ったのを覚えてます。
知らず知らずのうちに、それがどこかに引っかかっていました。

普段自分のを作るとなると、質の高い素材、その良さを他の人があまり顧みない素材を優先的に選んでるように思いますが、その「枯れた趣味」を咀嚼して何か面白いのは出来ないかなとしばらく前から考えていました。



画像のX線写真みたいなのは、その候補の生地を陽に透かしたものです。
これを見ると「麻袋よりもっとひどい、服にはどうか」と心配されても不思議ない画像ですねぇ。



上のスケルトンのようなのを見た後では心配になりますが、生地はこんな顔。
イタリア製でモーダ系のブランドがよく使うメーカーの製品の中にあったものです。

一見ランダムに並んでいる糸の太さですが、色と不規則に見えた糸の幅が柄を成していて、さらに大きく見るとバンチのサイズでは見えないデザイナーの意図が分かる設計になっていて、伝統柄ではないのにクラシックなテイストも感じさせます。

映画「めぐり逢い」でケーリー・グラント扮する画家のニッキー・フェランテ氏が南仏ヴィルフランシュにお祖母さんを訪ねるシーンを思い出しながら、行ったことないけど風光明媚な土地にうまく溶け込みそうな色だなとか妄想を膨らませてましたが、職業的につい突き詰めすぎて色々集めた中から選んでしまうと、「枯れた」という融通無碍みたいなイメージからしだいに遠くなってしまいました。



猛暑の中そんなことをして遊びながらどうにかこうにか7月8月をやり過ごしたら、もう9月。
よく夏が暑いと冬は...なんて言いますが、今年はどうなりますでしょうか。
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白鷺

2024-05-31 |  その他
しばらく前に、国際ロマンス詐欺の話を書きました。
その後会った友達のインスタDMにそういうメールが来たそうで、DM経由なら直接情報をぬかれる心配はないので、その話に乗ったふりをするとどうなるのかと好奇心も手伝って返信してみたそうです。

少しすると巧みに情報を引き出そうとしたり、金銭をとりあえず立て替えさせようとするそうで、相手の要望をのらりくらりかわしていると、「あなたは誠意がない」とか何とか訴えて催促してくると言います。

昨年国際ロマンス詐欺で捕まったのはロマンスと縁遠そうなくたびれた年配の日本人で、手口など詳細不明でちょっとニュースの扱いが小さいのが気になりましたが、その後かなりな被害が出ていると今年に入ってニュースになっていました。
その時も扱いが小さかったのは、今一つ共感を得にくいからでしょうか。


「右の女性がホントは70歳のオジサンだったら、ディノもこんな顔はしてないでしょうね」


先日知らない番号から「ご無沙汰していますが、是非会いたい」とショートメールが来ました。
宅配をよそおったフィッシング詐欺も年に数回あるし「また来たな」と思いましたが、そう言い切れないニュアンスもあり別のサイトに誘導される訳でなし、誰か問うてみると10代の頃から知っているコからで、何かの事情で未登録の番号が表示されていたのでした。

頼まれ事以外で他の人からぜひ会いたいと言ってもらうのはそうないことですし、コロナ前に約束して近いうち会いましょうと言っていた人が行動制限中に亡くなったという事もあったので日をおかず会うと、会わなかった7~8年の間に大病をしたといいます。
今は回復して元気そうでしたが、最後に会った頃「忙しい仕事を任されて休めなかった」と言うのを、あの時とても疲れた表情をしていたのを、女性だからと遠慮して言えなかったことを悔いました。

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K

2024-05-27 |  その他
サボっている間に冬が終わり、足早に春もGWも過ぎ、奄美地方が梅雨入りしました。
このまま行くともう夏です。

特に何をしてたという訳ではありませんが、昨年は服の質を追い求めて何か意味はあるのかとか、服飾と健康とか訳の分からない事を考えていたら11月末から風邪のような症状が結局1月末まで続いて、「やはり健康第一」なんて当たり前のところに落ち着きました。

という訳でヘタな考え何とやらで、その間に気になっていた画像から何故か「オカッパ」特集です。


「ローマの休日」は説明いりませんね。
最近インスタで海外の方々が昔の俳優の珍しい画像を次々にあげてくれます。
「こんなのもあったんだ」と思うようなのもありますが玉石混淆。


これも使ったネタで、オードリーもお世話になっていたイディス・ヘッドの髪型も昔から有名でした。


以前も使ったジューン・クリスティの画像です。レコードジャケットも残っている動画ももっと典型的なオカッパですが、これは普段よりおめかししててオカッパ感が薄いように見えます。


これはもうどう見ても日村さんにしか見えませんが、答えは「ビートルズ全盛の頃、リンゴ・スターに扮したヒッチコック監督」だそうです。
 

さて、今年の夏はどうなることでしょう...こればかりは、その時になってみないと分かりません。
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年末

2023-12-15 |  その他
帰りにスーパーに寄ると「今年も残すところあとわずか...」という店内放送が聞こえて来ました。
冷静に考えると、今年中に済ませなきゃならないようなことはないはずですが、何だか焦ってしまうような不思議な気分になります。

大谷選手のLAドジャース移籍が正式に決まりました。
あとは肘の順調な回復を祈るのみです!

昨年はこの時期ジョニ・ミッチェルの「リバー」の話をしました。
今年もちょっと周回遅れのようですが、一昨年出たノラ・ジョーンズのクリスマスアルバム。
昔キース・リチャーズもシングル盤を出していた「ラン・ラン・ルドルフ」なんかも演っていますが、一番良さそうなのは1948年に出てE.プレスリーで有名になった「ブルー・クリスマス」。

I'll have a Blue Christmas without you
I'll be so blue just thinking about you
Decorations are red on a green Christmas tree
Won't be the same dear if you're not here with me

ノラ・ジョーンズが歌うといずれも微妙にブルーノートが混ざって、余計さびし気です。
そのアルバムに合わせてかどうか分かりませんが、YouTubeにエンパイアステート・ビルの屋上で収録曲と同じクリスマスソングを演奏する動画がありました。
もちろん凄く寒そう。



エンパイアステート・ビルと言えば1957年のレオ・マッケリー監督作品「めぐり逢い」(An Affair to Remember)。
船旅で出会ったケーリー・グラントとデボラ・カーが半年後にエンパイアステート・ビルでの再会を約束します。

N.ジョーンズの短いライブは終始寒そうですが、C.グラントの役の男性はイタリア系の設定だったか親戚を訪ねて暖かそうな土地が出てきます。
おもいっきりセットと分かる作りでしたが、寒いよりずっと良いですね。

という訳で、今年もお付き合い頂きありがとうございました。
たぶん年内の投稿は難しそうなので、今年会えた方も会えなかった方もどうぞ良いお年を!
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年の瀬

2023-10-30 |  その他
昨年の年の瀬から年明けにかけては予期せぬ事ばかりで、今年も暑い夏がありましたが、10月末だというのに今も昼はシャツ一枚で歩ける日が続いてます。
今年もあと2ヶ月というのがピンと来ません。
という訳で今年も「このあいだ正月だと思ったのにもう11月か」なんて心の中で呟いてます。

今年、大谷選手はホームラン王獲得、藤井九段は八冠を達成しました。
ところがこちらは最近、資料の打率がまったくふるいません。
今までも勘をたよりに海外から取り寄せてたわけですが、これまで9割だったのが今年は春くらいから空振りが続いて5割くらいの印象です。
大谷選手のFAがうまく着地してコンディションも全快近く戻るまで、我慢した方がいいかもしれません。

歩いて行ける距離に市場があります。

日曜日に 市場に出掛け
糸と麻を買ってきた

とテュラテュラ言っていたら、何か以前もこの歌を使ったような気が...
仕事柄はじめの頃はジャケット着て行ってたような気がしますが、もちろんそんな堅いところではないので、近所のスーパーへ行くのにそういうカッコしてると言われるスポーツ選手を思い出します。

都会の真ん中だったら大賛成ですが、横浜の外れに相応しい買物スタイルをと考えていたらしだいにカジュアルになっていって、最早テーラードとは無縁のカッコで、例えるならジャン・ギャバンの「ヘッドライト」とかどこかで見たヨーロッパの商店主が買い出しに行く時のようなイメージから来てるのではないか、と思えて来ました。
(それでも麻とかツイードなら不釣り合いな感じが薄いようです)





画像で思い出しましたが、この帽子を買う数ヶ月前も同じような帽子を買っています。

ある日それを被って白井さんと待ち合わせると、「いい色だねー」と早速褒めていただきました。
ロウシルクとウールのざっくりしたヘリンボーンで、画像より少し赤味のかったマットな茶に黄やオレンジのネップが散っていて、「この間買ったばかりなんですよ」なんて答えたと思います。

次に待ち合わせた時、開口一番「今日はこの間のハンチング被ってないね、被らないようなら売ってよ」と言われ、「昨日も被ってたから、今日は違うんですよ」とか答えました。

また次に待ち合わせると、「今日も被ってないね、被らないようなら売って」と言われた時は「あれ、この間の話忘れちゃったのかな」なんて思いましたが、後から考えると二度も仰るのはよくよくのことです。

長い間、人並み以上に服好きでいらっしゃる方は既にお分かりかと思いますが、イメージどおりのものってなかなか巡り合いません。
また巡り合ったとしても何かの都合で逃してしまうと、趣味のはっきりした人の場合、次の機会が十数年後なんてこともあります。
そんなことはとっくにご承知の白井さんにとって、その帽子はイメージどおりだったのかも知れません。

色柄が良かったので少し無理して被っていましたが、本当は私には1cm小さく、幸いなことに白井さんにはちょうどよいサイズでした。
ドリカムも「◯◯のサイン〜」て歌ってたし、その時が手放すサインのように思って直後のお誕生日にプレゼントしました。

それから数ヶ月してアメリカから来たのが画像のハンチング。
幸いサイズもストレスなく、被った時のシルエットも理想的な弧を描いてくれます。

その前に、ある日白井さんが「セーターの棚がいっぱいでさ、よかったら着てよ」とくださったのが中に重ねているセーター。
たいていの場合遠慮してましたが、この時ばかりは快く頂きました。
シルク100%で、足早に過ぎてしまう端境期にほんのりした暖かみをくれます。


普段着?のジャン・ギャバン、靴とソックスのコンビネーションが可愛らしい。


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ウナギ

2023-09-07 |  その他
あっという間...かどうか、1年の2/3が過ぎました。

春頃だったでしょうか。
少し離れていますが活気のある商店街があって、そこに客が自分で焼くというウナギ屋が出現。
入ったわけではないので詳しくは分かりませんが、看板にそう書いてありました。
よく「モモクリ3年カキ8年」じゃなかった、さばくの何年とか焼き何年とか言うのにずいぶん大胆だなと思っていたら、次に前を通ったときには閉店していました。


ポール・グスタフ・フィッシャー

長旅をするというウナギと違って、この夏はコロナ以来3年半ぶり短いながら旅に出ました。
正確にはその間に一度、行動制限がない時期に戸隠神社などの辺りへ出かけましたが、それは20代からの知り合いが一緒になった人とやっていた繁盛店を閉め、縁のない土地でまた一から始めたのを励ます意味が大きかったので、旅という感じは希薄でした。(そのご夫婦は今月、テレ朝土曜の「人生の楽園」という番組で取り上げられると連絡をもらいました)

この夏出かけた時は中国の団体旅行が解禁される前でしたが、それでも外国人旅行者はかなり多い印象です。
神社仏閣を観ていたイタリア人家族がわざわざガイドを頼んでいるにもかかわらず、仕方なしに付き合わされてるような顔で聴いてるのを見た時は「楽しんでるかーい?」と聞きたい衝動がわきました。
連日35℃を超える時期でしたので、寝不足などそんな顔になってもおかしくない条件が揃っていたのもあるでしょう。

昼間さんざん歩き回ったあと汗を流し、着替えてサッパリしたところで目的の店へ向かい、一杯目がイメージどおりだった時の何とも言えない気分を求めて出かけてる気さえしました。





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カワセミ

2023-08-27 |  その他
投稿が滞っていた間に半年が過ぎ、夏が来てしまいました。
唐突ですが上半期のハイライトは何と言ってもWBCですね。

昨年のサッカーワールドカップの盛り上がりを忘れさせるくらいの展開に、期間中はもちろんその後も活躍し続けている大谷選手はいくつかのタイトルで有力な候補ですから、年末まで印象がうすれることなく恒例の10大ニュースや流行語大賞まで行きそうです。
そこまで書いたら靭帯のケガが発覚し、ちょっと心配です。



最新のニュースとしては、近所でカワセミを見ました。
近所の公園に湧き水を利用した池とそれに続く小川のような造作があって週に何度かその脇を通りますが、先日そこにカワセミがいました。
しばらくそっと眺めていると、もう一羽地味な色合いで一回り小さそうなのがいたので、つがいのようです。

思い出す限り今まで二度見たことがあって、ともに冬の京都でのことでした。
最初は鴨川べりを散歩していた時、次は南禅寺の境内。
南禅寺のまわりには琵琶湖の疏水を利用した素晴らしい庭園が非公開ながら何箇所もありますから、きっと環境としては申し分ないだろうと思います。

それに比べて近所の公園の方は、その前にいた鴨のつがいがカラスに追いかけられたりしていましたから、けっして良い環境とは言えません。
それにしても美しい羽根に覆われています。
十年くらい前、顔見知りの方が趣味で写真を始めたと言って見せてくれたのがカワセミでした。
機材も腕もしだいに上がって美しい色合いがきれいに捉えられ、大人の趣味としてかなりイイ線行ってると思います。
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ハンク

2023-02-23 | Blues
コロナ以前のこと。
ある日白井さんが、
「近所にウェスタンハット被ってる人が前からいてさ、
この間ちょっと話したら、ハンク◯◯って名前で活動してるんだって。
いるんだよなー、そういうの」
と楽しそうです。

白井さんが若い頃からハンク・ウィリアムズに心酔して、歌う時の衣装や革製品などコレクションされているのを知ったのは、お付き合いが始まってしばらく経ってからのこと。
それまで色々な人がカバーしたバージョンを聴いたことはあっても本家は聴いたことがありませんでした。
ですから先に聴いたのが白井さんの方で、後から御本家を聴いたわけです。

そういえば藤沢周平さんのエッセイにも、入院中に熱心なハンク・ウィリアムズファンに出会って、退院後に本物を聴くという話がありました。

そのハンク・ウィリアムズの録音の中でも"There'll be no teardrops tonight"だけ他の曲とちょっと歌声が違って聴こえるのですが、鳥の「刷り込み」でしょうか、この曲だけはもう白井さんにしか聴こえません。
もちろん順序が逆で、耳のいい白井さんが寄せていたのもあるでしょう、とにかく似てます。



ウェスタンハットは持ってませんが、比較的早い時期にわかった共通点がありました。
それは他の人からコーディネイトについて尋ねられた時、私も白井さんもたいてい「何でもいいんですよ」と答えてしまうところです。

もちろん、何でもいいなんてことはありません。
むしろまったく逆で、何でもいいどころか直感的にではありますがかなり選んでいます。
それは質問があまりに茫漠とし過ぎていてどこから語ったらいいのか手のつけようがないし、何時間あっても説明し切れないというのが一番当たっているかもしれません。

小さな石だと思って掘ってみたら、実は全体は大きかったというのに似ていて、ちょうど「何でもいい」というのが地表に出ている小さな部分。

基本がわかっていれば「何でもいい」、理にかなっていれば「何でもいい」。

では基本や理にかなっていればOKかと言われれば、それだけでは物足りないし寂しい。
陽射しを確認し、その日の予定と気分を擦り合わせ、出来上がった組み合わせで本人もまわりの人の目も快適...
でありたいと思います。

という訳で核心は「ちゃんとコーディネイト出来れば、何でもいいんですよ」
という参考にならないお話なんですね。
「出来るんだったら、はなから聞いてないよ!」と怒られそうです。

たまに探究心が優っている面白い人がいるとやはりそういう方は「何でもいい」に納得しないのでさらに突っ込んだ質問をしてくれますが、一般にコーディネイトがあまり顧みられないことを白井さんと嘆くことがしばしばありました。
文句ない生地でどんなに作りが良い服があっても半完成品みたいなもので、合わせが上手くいってないとその服の良さは生きません。

それはファッションの本場の男性でも変わらないようで、これはというコーディネイトにSNS上では未だ巡り会いませんが、逆に一番すごいと思う人で毎回自分の着ているものを投稿している紳士服を扱う店の人がいます。
着ているものそれぞれが見事にまったく合っていない、というか「そう見えるこちらの眼に問題があるのか」と不安を覚えるくらい合っていません。
あえて合わせないよう計算してるのか、どういう発想で合わないようにしているのか、あるいは合っているように見えているのか聞いてみたい衝動にかられるくらいです。
また同系色のグラデーションに固執したりするのも、合っているようでちょっと違います。

老婆心ながらこんな時にふさわしい、いつも引用する古の言葉。
「一着の服や一つのアクセサリー、それ自体はエレガンスを物語りはしない。
 エレガンスはそのコンビネーションにあるのだから」






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続・白井さん

2023-02-03 |  その他
白井さんには、おそらく私の服が一巡する一年間くらい毎回のように服と着方をほめて頂きました。

仕事柄それまでも服やコーディネイトをほめて頂いたり、それに関連して取引先から褒賞されたりということに慣れていましたが、いつも「本当はどう見えているのかな」という疑問がついて回りました。
白井さんから言われるのはまったく意味が違います。

残念ながら、褒められて伸びるタイプだったとしても、その時もう40を過ぎていてすっかり固まっていたでしょう。
にも関わらずマヒするくらいその後も褒め続けて頂きました。

もし知らない人が見たら、おじさん二人が褒め合っている図はさぞ不思議に見えたことでしょう。

最後に対面でお話しした時も「疲れていて、もう服の話なんかしたくないだろうな」という風に見えたのですが、第一声が「最近はもうこの靴ばっかりだよ」と履いてたローファーを指します。

白井さんが80歳を過ぎたころ日によって紐靴がしんどくなり、アメリカからローファーを買って来てもらったのが「痛くて履けなかった」と聞かされました。
足の痛みのつらさは知っているので3~4ヵ月かけて探し、アメリカの業者から新古品を取り寄せたものです。

サイズを測った訳ではありませんが、昔から履いていたサイズは長い時間をかけて現在の足の形にまで伸ばされ変化しているだろうと推測出来たので、踵は小さく前方は年齢的に変化した幅を想定したものです。
お召しの仕立服に合わせてもおかしくない、見映えの良いとてもしっかりしたローファーでした。

靴の話のあと昔に戻ったように「その服どこの?自分とこの?」と、どこそこが良いと褒めて頂きましたが、久しぶりのことで懐かしいような面映いような気分でその話は早々に終わらせてしまいました。

相手が亡くなった時に誰もが経験するように、今思えばもっと語り合っておけば良かったような、かと言ってもうすでに語り尽くしたような複雑な思いがします。

その日の印象で後日思い出したのは、梅原龍三郎さんの晩年に白洲正子さんが呼ばれて行った時の話。
梅原さんから「今朝バラを描いたけど、まだキャンバスが濡れているから」と言われてご家族にたずねると、絵は描いてないとのこと。
白洲さんは「実際の絵はなかったけれども、これまで何度も頭の中で描いてきたように梅原さんは確かに描いていたのだ」
と書いてます。

電話では話していても対面したのは何ヵ月かぶりなのに、白井さん以外ではおそらく昔習った仕立屋さんくらいしか気づかない箇所に目が行くのは、やはり日頃から良い服のことが頭の隅にあり続けていたのかも知れません。
 
白井さんのインタヴュー記事は「生に及ばないのでは」という思いから熱心に読んだことがありませんでしたが、最近お名前を検索したら出て来た記事に白井さんらしい感じが出ていました。

「週に2日間だけですけど、店頭に立つことは楽しいですよ。
でもね、正直手応えがないですよ。悪いけど。
くだらないウンチク言う連中はいるけども、そんなの何にも面白くないし、僕なんて、もう50年もやってるので。
絶対こっちの方が知ってるわけですから。

ウンチクじゃなくて、素朴な質問をしてくれる人が、意外といないんですよね。怖いんですかね(笑)。
もうちょっと、お客さんも楽しんでくれればいいんですけどね。

ざっくばらんに、野球の話でも、世間話でも話しに気軽に来てくれてね。
お互いに構えちゃうこともないと思うけどね。」

これを読んでいたら、普段の声が少しよみがえって来ます。

「どうかすると女性で年配の人なんだけどネクタイなんかササッと2、3本選んで、それがまた良いのを選ぶんだよね。そういう感覚を持ってるんだね、それに比べるとダメだね男は」

「プロって言ったって、勉強してないいい加減なのが多いからどうしようもないよ」

「ただ好きって言っても、基本さえ分かってないからね」

「その方は、センスは?」「皆無だね!」

白井さんはよく「少し背伸びしても良い服を買った方がいい」と語っていますが、ますます真似しにくい世の中です。
それ以前から、クラシックとは名ばかりで数年後には着られなくなるようなモノが多いのもかわいそうです。

それでも、いつか白井さんのような着こなしのエッセンスを持った人が現れないかなぁ、と夢想します。
その日に備えて、褒めたおす練習でもしよう!

最初の頃、「こっちが良いと思って薦めても、プロでも普通の人でも分かる人はほとんどいないでしょ?」と言われて、勤めで不特定多数の方に語っていた時にはそれも致し方ないと思っていましたが、今は服好きの特定少数の方に服を作っていますから、諦めずそのあたりの齟齬を少しでも埋めたいと思いながらやっています。

ご冥福をお祈りいたします。



店にお越しいただいた時、1930年代の雑誌Esquireを半年分綴じたものをご覧になる白井さん。
最初から最後まで1ページずつ丁寧にご覧になってましたが、よほど好きでないと集中力が続かない量です。

ルチアーノ・バルベラ氏から紹介してもらったという「A.カラチェニのマリオ・ポッツィ氏」によるジャケット。
着る人を引き立てるバランスに必要な肩幅を確保して、肩が落ちるのなんか気にしてないのがよく分かります。
Comments (2)
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