Men's wear      plat du jour

今日の気分と予定に、何を合わせますか。 時間があれば何か聴きましょう。

4000日

2020-10-05 |  その他
ふだん金木犀がどこにあるか意識することはほとんどありませんが、この時期あちこちから香って、意外に多いときづくくらい存在をアピールしています。
そんな中、このたび横浜市中区へ移転しました。



その際、素晴らしい仕事をしてくれた不動産屋さんと引っ越し作業をしてくれた方々にとても助けられました。
不動産屋さんは根気よく付き合ってくれて、その後の事務処理もスムーズです。
引っ越しのほうは、生地や什器はもちろん、資料にいたるまで重いものばかりでどうなることかと思いましたが、常人ならやっと1箱ヒーコラ言って運ぶところ、そのパワーは圧倒的でザンパノとブルーノ・サンマルチノが一緒に来たように、3箱重ねて休みなく何往復もしてくれる馬力に驚かされました。
何しろ古い大判のエスクァイアなどはやたら重くて、一箱に15冊も入れるのがためらわれるくらいでしたが、まったくものともしない様子です。
あまり作業の役に立ってない私が、逆に気遣われる始末でした。

池波さんの書いたものによるなら「仕事によらず人の世はすべて一緒」神経が行き届いているか否かということで、礼儀正しく相手の身になってのこまやかな気遣いには頭が下がりました。
こういう方々ばかりだったら何事もスムーズだろうなぁと思っていたら、管理会社の方がまた献身的で参ります。

その後も小さなラッキーに恵まれ、これから作る服が周囲の人々から祝福をうけて生まれてくる子供みたいに思えて、門出にありがたいやら嬉しいやら。
ブログ開設から4000日経過したそうですがそんなことを忘れるくらいアタフタしている中、ありがたい仕事をしてくれた方々は金木犀みたいに香りでアピールしませんが、どなたも間違いなく一隅を照らす人でした。
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

神奈川県立歴史博物館 特別展

2020-09-09 |  その他
業界の長い方が、私のやっているようなことを「こんな時代だからこそ、わかる人の需要を得ることができるでしょう」と言って下さったそうで、その兆候はかなりおくゆかしいものですがありがたい事です。

知り合いの仕立屋さんは、仕立服が男性のスタンダードになるようにと願いを込めて、従来より廉価なラインを設定したり仕立服の裾野を広げようと尽力されています。

何かできるというほどのことはありませんが、より自然な、その人に合った趣味の良さというものがあるはずですよ、というイタリアなどで普遍的な服を作る仕立屋のものの見方をお伝えしてるつもりです。
それには私共の眼と仕事を利用して頂くのも、近道だと思っています。



直接服と関係ありませんが、色とスタイルという面からか、ものの切り取り方なのかハッキリしませんが、興味があるものの一つに「新版画」というジャンルがあります。
時々画像で使わせて頂く川瀬巴水さんという人は、それを代表する人でした。

4月に関内・馬車道の神奈川県立歴史博物館で予定されていた特別展「明治錦絵×大正新版画 ー世界が愛した近代の木版画ー」が、復活開催されています。

錦絵は今回ほどまとまった数を見るのは初めてで、ちょっとその極彩色に先入観がありましたが、じっくり見るとその技術というか彫りや摺りの職人さんの手練に引き込まれました。
途中で目が二次元の平板な顔などの表現に慣れ過ぎて、立体的な服を作る世界に戻れなくなるのでは、と不安になったくらいです。

川瀬巴水や土屋光逸の多くは図録で見ていましたが、大戦中も日本にとどまったというフランス人ノエル・ヌエットの作品はまとまって観たのは初めてで、いずれも詩情溢れる作品でした。
帰り、心中ひそかにコレクターやキュレーターに拍手の絵文字を送りました。

9月22日(火)までの開催だそうです。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

優しい町

2020-09-02 |  その他
SNSで繋がってくださっている方が先日たいへん憤っていらっしゃいました。

『鎌倉は道が狭く規制が多い。車はお勧めできません。
路上表示は先行車に追従運転だと見えません。
鎌倉が好きで来てくれた車が、間違えた運転を陰に隠れて取り締まる警察官の姿があります。
気の毒に思えてしかたない。
世の中間違っていませんか?
もっと優しく人々を受け入れなければ、鎌倉の活気は戻らないと思います。
こんな警察に誰がした。なさけない。
観光客が気の毒に思えたいちばんでした。』

止むに止まれぬ思いで、書かれたことと思います。
これが現実なら真っ当なご意見で、こういう意識の方々が町をかろうじて支えて下さっているのかもしれません。



イタリアに10年くらい通った頃一番感じたのは、言葉がよく通じなくても相手のために何かしてあげよう、という外に開かれた姿勢でした。(実際には日本人と同じく、気持ちがあっても上手く表せない内気な人もたくさんいますが)
前にも書きましたように、そういう方はイタリアに限らず三陸の小さな漁村にもいらっしゃいましたし、世界中にいることでしょう。
そういう人こそ、人間的に洗練されている人のように思います。

ご紹介の方が指摘されたような事象は、大昔に逆戻りした村社会を思わせる何だか遣る瀬ない話ですが、残念ながらそれが現実だろうというエピソードも確かにあります。
時節柄、より鮮明にそれがあぶり出されてきたのでしょうか。

日帰りの観光だけでなく泊まって頂けるよう、数年前から地道に活動されている方々もいらっしゃいます。
清廉な市長さんは市民のためにとても頑張っていらっしゃるそうでひそかに応援してますが、先の話を聞くとそれだけではなかなか難しそうです。

同じく繋がってくださる整体師の方が、安眠のためのストレッチを紹介してくれていました。
仰向けに寝て上半身と下半身をそれぞれ逆方向にゆっくり捻るだけだそうですから、腰を痛めている方以外どなたでも出来そうです。
お読みいただいて憤りが伝染してしまったとしたら、ストレスを軽減しておやすみ下さい。
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風船

2020-08-30 |  その他
45歳で亡くなった川島雄三監督は、着るものに合わせて時計ベルトを替えていたという話が残っています。
そういうこだわりを聞くと、感覚的に何だか信用できる人なのかなと思いたい気がします。
バランスも気にしたでしょうから、服自体にもこだわったかもしれません。

その川島監督に「風船」という作品があって、原作は大佛次郎の連載小説だそうです。
芸術家肌の父親と母親に溺愛されて育った息子、兄と正反対の心を持つ娘。
それまで放任だった父が息子の行状にたまりかねて叱ったところ、エゴに満ちた言葉で反論してきた息子を一喝するシーンがあります。

「世間の人がやっているから(自分もやって)いいというのは、卑怯でない人間は言わないことだ!」

今も小さな決まり事を守らない人にTV局がマイクを向けたりすると、よく「皆んな、やってるから」という答えがあります。
そういう論調に対する父親のセリフでした。

また、商品や付随するものに不具合があったことを指摘されたところが「今までそんなことなかったから、報告されてないから(自分達に責任がない)」という理屈もこれによく似ています。
目の前にある現実の問題を見ようとしないで、先に守りに入ってしまう。
こういうのはもう過去のセリフかと思っていたら、ダメなところは未だに使うそうです。



20代の頃大手アパレルに入って数年、扱う商品の一部に接着芯の剥離が起きました。
幸いにもそれまでそういう事例がなかったからと言って、商品に問題がないと言い切り、その場を凌ごうとする輩は上にもいませんでした。
大量に売れた製品がシーズン毎にクリーニングに出され、むしろそれまでよく何事もなく来たなと思ったものです。
もちろん再発しないようキレイに復元しました。

その後、上の人達に理解してもらう為少しずつ資料を集め、グレードに関係なく毛芯に移行するよう話をもっていくのに少し時間を要しました。
おそらくその頃、課外活動も忙しかったためです。
結果として、多少時間はかかりましたがほぼスムーズに改善され、他の商品にも質を求める気運が高まりました。

あの時、三橋達也演じる増長したドラ息子のようにナメたことを言っていたら、どうなっていたでしょう。
だいたいにして、「卑怯」なんて通じるのか。

この作品の背景には、戦後11年経ち人の価値観が荒廃していくことを憂う空気があったようです。
日本のこの7年8カ月にもそれは言えるでしょうし、トランプの出現で世界はもっと変わってきたでしょう。
関係ありませんが、森雅之演じる父親は「村上春樹」という役名です。
1956年作品。




Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

戸隠神社

2020-08-29 |  その他
案内していただき、黒姫から戸隠神社へ詣でました。



森林植物園を抜けようとすると大きな熊のフンに遭遇し、目撃情報が出ていたこともあって、大人4人緊張感を持って多少声を張りながら進みます。



樹齢約400年と言われる杉並木は、江戸開府とほぼ同じ時代に植えられたことになります。

何年か前の吉永小百合さんのCMと結びつきませんでしたが、何か懐かしいような、江戸や古の人になったような気分で、ずっと来てみたいと思っていた場所のような気がしてくるから不思議です。

並木の一歩奥はもう原生林のようで、祠のあるところ以外人を寄せ付けない空気です。
8時に出発してまだ人も疎らな時間帯で、思いのほか健脚だった4人は予定より早く往復できました。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

顧客満足

2020-08-26 |  その他
京都で繁盛店を営んでいたご夫婦が信州の黒姫に移住して、美味しいものが食べられて宿泊もできるというお宿を始めてもうすぐ4年経つそうです。
伺ってはいましたが遠くてなかなか果たせず、直前まで新幹線の予約をのばし、最も密にならない席を取るなど注意をはらいながら出かけました。

その前に寄った善光寺やその周辺にも頼朝伝説の残る寺を見つけ、「馬でもここまで来るのは大変だったろうなぁ」と芭蕉にでもなった気分で感慨にふけったり、蕎麦を食べてゆっくり向かいました。



産地まで行って選んだという信楽焼の風呂でゆったりさせてもらってから、夕飯をいただきました。
地産地消はもとより、すぐ先は新潟で日本海も近く、またツテで京都から直送されるものもあるそうです。

まず、とうもろこしを豆腐にして夏野菜と出汁のジュレをかけたもの
お造りは、ホッキ貝、ボタン海老、クロマグロ、甘鯛、ウニ
焼物は、京都美山の天然アユ、近くの野尻湖の天然ウナギ
その後、石川産の岩ガキ
カニの餡かけ
ホヤの塩辛
鱧のお鍋
アナゴ寿司
と続き、途中から飲めないくらいです。
地元の果物とお茶をいただく頃には、泊まれる安心感からか睡魔が忍び寄ってきました。


無農薬の畑から、オクラの花


ナスの花

食後に話を伺う頃にはもう聞かなくても分かってましたが、数は少なくとも来て頂いたお客様に100%満足してもらいたいという思いでやってらっしゃるそうで、だいぶ昔に思い描いていたかたちだそうです。

こだわる人は、もちろん自分が満足できて食べさせたいと思う食材選びから始まってるでしょうから、2週間以上前に連絡しておいて良かったと安堵します。
飲みながら、最近出来上がってきた特別な生地のジャケットを思い出し、やっていることが何か似てると思って笑いました。
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シャツ

2020-08-20 |  その他
久しぶりに歩く通りを行くと、向かいから知り合いによく似た人が近づいて来ます。
ちょっと日焼けしているし雰囲気が違うので、似た人かなと思っていると、近づくにつれしだいに相好が崩れたのでご本人だと分かりました。

日を改めて待ち合わせると、その日はシャツの話だけでも3時間以上。

ジャケットおよびスーツの上着は、仕立て技術の歴史の中で着やすさ動き易さが研究され尽くしてきました。
パターンやアイロンワークの複合技で、着る人に合わせてかなりのレベルが達成されていると思います。


「フレデリック・ショルテによるウィンザー公の型紙」

ところが消耗品だからとシャツのグレードを落としてしまうと、せっかくの上着の着心地をたいてい損なってしまいます。
シャツの方が体に近く、それ自体が先に人の動きを制限するようでは、上に着る上着がどんなに優れた作りでもその良さの半分も味わえないでしょう。
そういう意味でも、シャツはとても大事だと思います。
女性でもボレッリやバルバ、マトッツォなんかを普段着ていた人が、ある時シャツがメインというその頃出て来たブランドの製品を着たところ、着づらさにその日一日ですぐ処分したと聞きました。

20年くらい前ナポリで歴史ある仕立屋のオーナーに何度か会って、こちらの顔を覚えたと思う頃、「この仕事で失敗談はありますか?」と尋ねてみました。
「一度、シャツを上着みたいにピッタリに作ってしまったことがあります」
とテレながら教えてくれたのが大いにヒントになりました。

そこの上着は、今時のと違ってもちろんピタピタだったりはしません。
また、そこの既製シャツは同じネックサイズならイタリアで最もゆったりしているのではというくらい身幅のゆったりした作りで、価格もボレッリやフライの2~3割増しでした。
ともあれ、コンパクトに作っても可動域を確保できるジャケットと違って、毎回洗濯することが前提のシャツは人の動きを妨げないゆとりが必要です。

何年か前から雑誌で見る、「上着の下で生地が溜まらないシャツがいい」という説を信じた方もいらっしゃるかもしれません。
時間が経って、最近若い方の中にもそういうサイズに疑問を持つ方が出てきました。
体が拒否したのか、昔の人の写真から学んだのか。
こういう事は人に言われてもなかなかピンと来ないもので、何かをきっかけに自ら気づかないと切り替えるのが難しいです。

現在買えない製品では伝わりにくいと思いますので、例えばFrayのシャツを複数お持ちの方だったらお分かりだと思いますが、非常に緻密でキレイなレベルの高い仕事が維持されています。
縫う人、製造責任者、検品する人、更にオーナーまで、出来上がりのレベルのイメージが共有されていないと、なかなかそのレベルは保てないように思います。
よほどしっかりした人がいるのでしょう。
着心地の柔らかさやステッチの緻密さでは、ナポリのメーカーにも同等かそれ以上の時期がありましたが、ボタンホールのメスだけ入っていてかがり忘れていたり、不完全な品がスルーして出回る場合があるので検品はゆるそうです。
(個人的には基本的なところが良く出来ていたら、後から手を加えられる程度の問題は楽しめます)

もしそんなレベルの品にも問題があるとしたら、生地やデザインや芯の選択、細身のパターンが選択されていたりと、作る側よりは発注の問題かもしれません。
あとは体つきとの相性もありますから、もちろん見た目のキレイさ完璧さがそのまま着心地を保証するわけではありませんので注意が必要です。


先入れ先出ししなかったので、25年くらい経ってしまいました。(わかり易くキレイという意味で名前を挙げましたが、一番良いという意味ではありません)
Comments (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

先回り

2020-08-18 |  その他
長い梅雨にうんざりして、もうしばらく水はたくさんだと思っていたのに、この暑さで水に涼を感じています。
懲りないものですね。



小学校3~4年の頃、祖父母の家にあった古い本が気になった時期がありました。
もちろん旧漢字や難しいところは、想像で補ったろうと思います。
その中で印象に残っているのは、シュトルムという人の作品と、治水に関する偉人伝のような話でした。

ここ数年、チベットと太平洋の「二段重ねの高気圧」と「線状降水帯」は、夏の天気解説に定着してしまいました。
そして、残念ながらどこかで被災を免れません。
漠然と大昔の話だと思っていた治水が、現代の問題であることを毎シーズン否応なく突きつけられます。

私どもの仕事はもちろん治水と関係ありませんが、CM犬のお父さん「勝手に...シリーズ」のように、ストレスのないよう軽く柔らかく動き易く、勝手に極力着やすく作ろうとするという点で、問題に先回りして備えるところは似てないこともないかも知れません。

暑いことに変わりありませんが、13日朝は前日までとは少し風が変わっていました。


川瀬巴水 「日光湯瀧」1941

夏季休業のお知らせ
8月23日(日)〜25(火)
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マスク

2020-08-08 |  その他
いつもの夏と変わらないのかもしれませんが、梅雨明け以降、体が慣れてないせいか暑さがたいへん厳しいように感じます。
熱中症ではないと思いますが、作業中おかしな具合になる日がありました。
マスク内で二酸化炭素を循環して、頭痛を引き起こす方もいらっしゃるそうで、通勤でつけるマスクももう少し楽にできないか試行錯誤中です。



また普通ならあり得ませんが、梅雨が長かったので予期せぬ所にカビが発生しているかも知れません。
良い服をたくさんお持ちで、すべてに目が行き届きにくい方は、特に気をつけて点検されることをお勧めします。
それより健康上良くないことの方が問題ですが。

特に今の状況では、服より大事なものが色々あります。
やはり健康第一。
それにご家族や周りの方々...お洒落は後からついて来ますから大丈夫です。

さっきも一歩外へ出たら、暖房が入ってるような暑さに引きました。
コロナでなく暑さのため、不要の外出を避けるよう呼びかけています。
普段以上に意識的に水分をとって、熱中症にはくれぐれもご注意され、良い夏休みになりますように。



イラストはどちらも、J.C. Leyendecker。
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

言葉にできない

2020-08-04 |  その他
側近に続いて姪にまで暴露本を書かれてしまったトランプ大統領、支持した人からも「前回の投票は間違いだった、このままでは大変なことになってしまう」と声が上がる一方、未だ一定の支持者がいるようです。
ブッシュ息子の時みたいに、これ以上ヒドイことをしないことを祈るばかりです。



昔、日本では見てもイタリアでは見たことがなかったから、安心して「ボタンホールの糸の色を変えるようなのは避けて下さい」と書いたことがありましたが、その後イタリアでもそういう困ったディテールの製品を作るところが出て来て驚きました。

その時、シャツに入れる刺繍については書き忘れたかも知れません。
最近滅多に見ないので絶滅したかと思いきや、見ないよう願ってたから目に入らなかったのか、少なくなったとはいえカフに名前を入れてしまうそうです。

活字になっていないとご納得され難いかと思いますので、例によってA.フラッサーがさらっと触れているのをご紹介します。


モノグラム(イニシャル)

モノグラムのついたシャツというのは、自分だけのものという感じがしてなかなか良いものです。
しかしこれみよがしに襟やカフスにつけては、まるで、広告塔と同じです。
レタリングはシンプルに、イニシャルも高さが1/4インチを超えないように、あくまでも控え目にすることが大事です。
つける位置はウエストから5、6インチ上、左胸の真ん中です。
もしシャツに胸ポケットがあれば、(カスタム・メイドのシャツにはポケットのないものもたくさんあります)その真ん中につけます。


書いてあるところを見ると、おそらく昔からそういう趣味の人はいたのでしょう。
今はまさかそんなことないと思いますが、さしずめトランプさんなんか襟やカフに名前入れたことがあってもおかしくないタイプに見えます。

あまり趣味の良くないものに関して注意を促すものはありますが、「趣味の良さ」を言葉に変換するのはなかなか難しいようで、滅多なことではお目にかかりません。



Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

チンゲンサイは100万円!

2020-07-31 |  その他
先日よそへ伺うと、「最近はもう、下の方にある物をわざわざ取り出して着るような気力ないよ」なんて聞かされて、確かに5段に積んだドレスシャツのケースの下段から取り出してアイロンかけたりする気が起きなくて、何となく上の方にあるシャツを繰り返し着てることに思い当たりました。

自粛生活以降、出勤するにしてもあまり堅いカッコは何だかそぐわないような気がして、今までよりスポーティーな感じが増えました。
それでもジャケットを着て、ネクタイしてる日もあるので、気分的な問題かもしれません。

シャツもその時々できちんとアイロンをかける日もあるし、素材と着方によってはもう少しラフに見えるよう少し抜く場合があります。



20代の頃はシャツをクリーニングに出したり、自分でやったりを繰り返しました。
出勤の日はほとんど真っ直ぐ帰らなかったので、出した方が楽でしたが、その頃はまだたいしたシャツを着ていた訳でもなかったのに仕上がりに満足できなかったからです。
その後イギリスの色々な既製シャツを集めた時期があって、それを自分には着やすいパターンのイタリア製に全て切り替えてからずっと自分でアイロンをかけています。

独身の頃、終電で帰って風呂に入りいつのまにか眠てしまい、溺れかけたことがたまにありました。
こんなことを書いていられるのは、幸いなことにドザエモンというクラシックな名前をもらわなかったからですね。

で、そんなに飲んだ日でも夜中にアイロンかけ始めて、一枚かけ終わると、翌朝には違うものを合わせたくなるんじゃないかという思いが頭をもたげ、追加することがありました。
そんな調子ですから、休日の朝シルバーのペイズリーがしばらく視界を動き回るという時期が続きます。

その後、ボー・ブランメルという人が外出前に入念すぎるほど身嗜みを整える様が「狂気と紙一重」と評されたのを知って、寝不足の眼をこすりながら、レベルは違うけど生活習慣を改めようと思ったのでした。



上のシャツは、襟、カフ、前立て、の肌に触れない外側のみ薄くスプレーのりを使い、他は霧吹きを使ってスチームは使わなかった状態。
(もちろん全て霧吹きの水だけでもOKです)
ご存知のように、霧吹きで湿気を与え生地が伸びてから水分を熱でとばすのと、スチームを出しながらかけるのは似ているようでまったく別です。
スチームを使うと生地に蒸気が残るので、画像ほど伸ばしたくないという時には有効でしょう。

ここまで書いて来ましたが、最初に書いたタイトルと話がまったくリンクせず苦しんでおりました。
と思ったら、7月の日照時間が記録的に少ないことがニュースになっています。
青果も値上がりして、チンゲンサイは300万円くらいになってるかもしれません。
そのくらい雨が多かったですが、ようやく出口が見えてきました。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

The tracks of her tears.

2020-07-17 |  その他
疲れ果てて泣いたまま仮眠をとる看護師さんの映像が配信され、医療崩壊と言われた頃、イタリアは再生までどれだけかかるだろうと思われた方も多いと思います。

ところが、最近イタリアから送られてくる画像はみんなで思いっきり肩を寄せ合って会食するなど、超ミツです。
次を心配しながら、「何だかよく分からないけど、さすがの回復力」と感嘆しきり。

特に事態が深刻だったと言われるミラノの映像を見ると、どうしても昔のことを思い出します。

ある年、ブレラ絵画館方面へ向かっていた時のこと、交差点向こうの建物の2階に「A.Caraceni」とあるのが見えました。
まだパリのChristianiも存在してた頃でそんなに有り難いとも思わず、横断するとその1階にも服店があって、ウィンドウには良さそうな品が並んでいました。

とりあえず見せてもらうものを決めて店内に入ると、靴はエドワード・グリーンとジョン・ロブ、シャツはチチェリの既製、無造作に立て掛けたカルロ・リーバの生地がありました。
お会計を終えて、「上にあるのは仕立屋のA.カラチェニですね?」
と尋ねると、「そう、同じ会社なんだ。興味あるなら、社長を呼んであげるよ」
と紹介されたのが、カルロ・アンドレアッキオ氏でした。

まだベルルスコーニがブンガブンガなど話題を振りまく前でしたが、さすがに日頃そういう人を相手にしているせいか、アンドレアッキオ氏の物腰は年季を感じさせます。
フランス・フランもそうだったと思いますが、リラからユーロに切り替わる前の数年間、レートはすごい事になっていて、提示された3ピース・スーツの価格は日本円にすると現在の約3分の1でした。

そして、初めての方なら仮縫いを4回はお願いしたい、と言います。
「次はいつ来られます?」
と尋ねられましたが、その時つぎの年のことはまだ考えていませんでした。
色々喋ったり見せてもらったりして別れ際、
「ミラノに来たら必ず寄って」と言われ、結局毎年寄って4年後くらいに、「あの時作っていたら、もう出来上がったのに」なんてイジられたり、気さくで楽しい人たちでした。
何人もいるのに、着こなしが並以上の人が2~3人しかいないのも奥床しい。



ミラノの中心地サン・バビラから地下鉄なら一駅目、ベネツィア通りとパレストロ通りがぶつかる角にあったジャンニ・カンパーニャの店。
パラッツォ・カンパーニャと呼ばれたその贅沢な店内から、ベネツィア通りに向かって撮った写真が出て来ました。
その金満ぶりは地方の仕立屋にも伝わっていたのか、名前を聞いただけで眉をひそめる人もいたくらいです。

ある頃からアラブやロシアの富裕層がイタリアの仕立屋を自家用機で送り迎えして、まとまった注文をしているという話は聞いていましたが、ある年訪ねると、「さっきロシアから戻って、もう空港に着いたと連絡あったから、もう少し待って」ということもありました。
しかし一年毎に人がかなり入れ替わったり、従業員にとってはあまり良い職場環境ではなかったのかもしれません。

これはまたまた別の話ですが、その昔グッチ一族内で利権争いから映画顔負けの暗殺事件の現場となったのが、このウィンドウを左手に折れたパレストロ通りだったと思います。
結局自分たちはそのブランド名を名乗れない、という皮肉な結果をまねく凄惨な事件を聞いていたせいか、その通りをぬける時は何か臭うような気がしました。

と思ったらそれは犬ので、気をつけてないとすぐ踏んでしまうくらい、条例が出る前はけっこうヒドかったのでした。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

老舗

2020-07-05 |  その他
梅雨の晴れ間、30℃を超えてやはり蒸し暑い日でしたが、用事をまとめて片付けようと久しぶりに都内へ出かけました。

歴史があったり、看板があったりという所で仕事をしていたので、いくら個人で三十数年のキャリアと言ったところで、老舗の暖簾の前ではものの数ではないことを痛感する日々ですが、その日はそんなところへ。



まず、傘の修理で日本橋へ。
ハンドルの材、生地、長さを選んで注文したもので、使っているうちに愛着がわいて、10年ほどの間で2度目の修理です。
そこの既製の傘も使っていますが、それでいいから売ってくれと言われ、お二人に譲ったことがあります。
残念ながら今はありませんが、以前はChurch'sの靴やLock&Coの帽子も扱っていました。
今も扱いのある傘の修理代金は、けっこうな大手術に見える修理内容でも数千円と、取り継ぐ手間も出ないような値で、池波さんの言う「持続の美徳」を感じます。



次は銀座へ。

時節がら、事前に連絡したり新しい生活様式に相応の気を使いながら、老舗と言われるところのオーダーはどんなだろうと、シャツを注文しに行きました。
他の人にメジャーを当ててもらうのはイタリア以来...じゃないかも知れませんが、「力抜いて楽にして下さい」なんて言われながら、その日はお客さんになりきります。

これまでたびたび書いて来たような服の着方は、私が発明したわけでなく、これまで会ってきた着こなしの良い方々のエッセンス、そのまた抽出物です。

ですから他所へ行ってみて初めて感じることですが、私のリクエストは日本での一般的な注文とかなり違うそうです。
一応、要所要所説明を加えて、理解してもらえたのではないかと思います。
5週間後、質の高い仕事に出会えますでしょうか。



Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

6/2(火)

2020-07-02 |  その他
6月2日火曜日はブラックアウト・チューズデイで、海外の人があげる画像は黒一色でした。

ジョージ・フロイドさんの死をきっかけに、アメリカの音楽業界では「仕事から離れ、コミュニティと再びつながる日」を設けようとの声が上がり、今回の事件まで繋がってきた歴史的背景にもう目をつぶらないという意思表示が、あちらこちらで静かな抗議になりました。
あまり語らなかった前国防長官のJ.マティスさえ、「国民を一つにできないばかりか、分断している」とトランプを非難しています。

相手の警官が事件後すぐ解雇されて逮捕起訴されたとか、日本とはだいぶ違うので理解し難い部分があります。
そして「時期は重なっていないかも知れないが、フロイドさんとその警官が同じ会社の警備員をしていた」という情報の一節を聞いて、33歳で亡くなったサム・クックのことを思い出しました。



サム・クックが亡くなった'64年という年は公民権法が制定され、法律上は差別がなくなりましたが、衝突はさらに激化しキング牧師が暗殺されたのは4年後のことです。
またケネディ暗殺は前年の'63年と、物事の解決に暴力が横行していた時代でした。

サム・クックの死は時間が経って真相はもう闇の中ですが、殺害に関わったのは非番の日に警備員をしていたような警官だったという有力な説があります。
直接の殺害の理由も、差別とかでなく金銭絡みなど卑近なものらしいですが、命が軽んじられていたという意味で、ある程度の知名度があった歌手でさえその埒外ではありませんでした。

しばらく前から、サムが立ち上げたSarレーベルの録音を集めたものをよく聴きます。
ソウル・スターラーズなどゴスペルが大半で、若いジョニー・テイラーなどいずれも和むものが多く、本人が歌っていなくてもサム・クックワールド全開です。
生きていたら、その後ももっと多くの歌手に影響を与えるような素晴らしい歌を残したことでしょう。





Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

これからの

2020-06-09 |  その他
自粛期間の初めの頃、どこかのオーケストラの方が「もう数十日も演奏していないし、自分の仕事が不要不急の不要にあたるのかと思うことがつらい」とTV取材に語っていらっしゃいました。
新型コロナ禍の中で、自分の仕事は果たして何かの役に立ってるだろうか、と顧みない人はいなかったかもしれません。

少しだけ家にある生地の中から、エスコリアルとかしっとり目の詰んだ200双のシャツ地とか出して、それを作った人々のスキルを思い、さらにもう一段着やすい服作りは出来ないだろうかとか、今後作るものへの気持ちをかき立てようと思いました。
技術的なことはともかく、気分的に何かスッキリしません。



寝ようと思う頃、「プロフェッショナル」という番組の再放送をやっていました。
以前もアンコの達人という人が紹介された回に、従来とまったく違う作り方を見たことがあります。
今回もたまたま小豆を煮ている場面に遭遇して、つい見てしまいました。

お母さんに教わった笹餅を60歳から商い始めたというおばあちゃんは、笹の葉を取りに山へ分け入り、小豆もご自分で育て、納得ゆくものが出来たときには10年経っていたといいます。
すべて一人で作って、お子さん達を案じ、撮影スタッフのご飯も用意して「こんな多忙な90歳いる?」と笑っていらっしゃいました。

どの話も良いですが、優しいお母さんとの幼い頃の幸せな記憶が、93歳の今もおばあちゃんを支え続けていることが分かります。
ふとルノワールの映画とかE.レジーナとA.Cジョビンの「三月の雨」を連想しましたが、それよりもっと幸せな気分をお裾分けに与ったようでスッキリ。

地域貢献などで表彰されたり、以前から地元では知られた方だそうです。
お約束だから仕方ないかも知れませんが、いつもの「プロフェッショナルとは?」という問いかけが蛇足に思えました。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする