Men's wear      plat du jour

今日の気分と予定に、何を合わせますか。 時間があれば何か聴きましょう。

錯覚

2011-09-06 | Others
 日本のご婦人に関する疑問は、既に40年以上も前、伊丹十三さんが書き尽くした感があります。
私が知らないだけかも知れませんが、これは書いていないだろうと思うものに、何故ちょうど良いバッグを使わず、バッグを持った他に、他人にあげるでもない紙袋をさげたりするのだろうという疑問がありました。
たいした話じゃないんですが、ジャンケンに負けてランドセルを持たされた小学生みたいな、下のウィンザー公に引っかけてみました。



前回の話で色々な人の消息を聞かされた帰り、話とはまったく関係ない人のことを突然思い出しました。

ある日会社で、「今のうちに、着心地や動き易さといった見えない部分を含めた質の向上を目指しませんか」と提案した頃のことです。

中心となる企画の人々のうち、デザイナーは言わんとする主旨をすぐ理解して、新任のパタンナーを呼んで話に巻き込んでくれました。
オリジナルの生地を仕込む等、タイム・テーブルが常にあるため、急には大きな進捗を望めませんでしたが、その推進力となってくれた人がいます。

その人も直前に異動してきた人でしたが、めずらしくきちんとした仕事ぶりと人柄に見えました。デザイナーやパタンナーから概要を聞いたので詳細を聞きたい、とある日言って来ます。

相手の経験や考え方が分からないと、こういうケースで徒労に終わる場合も多いですが、それは初めから話さないと通じない話でしたし、こちらも言い出した責任があります。
何とか理屈だけでも理解して欲しかったので、いつになく懇切丁寧だったでしょう。

もちろんその時点でも、商品の見た目に問題があったわけではありません。
しかし、着心地・動き易さ等、より本質的な部分を含めると、伝統に培われた仕立技術を盛り込んだ、本格的な海外の製品には比ぶべくもありませんでした。

これを疑問に思わずやってきた人に、理解してもらうのはなかなか高いハードルだったはずです。
何故それがいま必要か、海外のメーカーはどう作っているか、どういう改善が可能かなど、コンパクトながら現実ゆえの説得力のある資料とサンプル(そのほとんどはこのブログに使われています)があったので、いやでも判ってもらえたようです。

しかし、その人がやる気を出したのは、日常業務がともすると雑誌の企画みたいに前年踏襲型の、カレンダーに縛られる業務なのに比べ、目に見えない成果を求める新鮮さ故だったかもしれません。

サンプルを往復させたり、リーズナブルな副資材の調達などコスト管理といった地味な仕事が多いわけですが、思ったより早く一年後には製品に反映され、その次のシーズンには更に完成度の高い商品が倉庫に並んだのは、その人の行動力に負うところが大きかったのです。

その後、その人との仕事が一段落して挨拶に行くと、一席設けたいと誘ってくれました。多少気心も知れシンパシーも働いて、こちらも感謝したい気持ちがあったので、後日昼から出かけました。



昼にしては多めのアルコールが入って油断したらしく、

「いやぁ、恥ずかしながら、新入社員のころは薄いアズキ色のソフト・スーツなんか着てたんですよ」
「えっ、そうなの?でも大丈夫、今もそんなに変ってないよ」
「また、そんなこと言う」
「いゃ、ほんと。センスってよほど衝撃受けたり、死ぬほど勉強したりしないかぎり変わらないらしいよ。しかも大多数はそのままだって」

なんて言ってるうちは良かったんですが、酔いをさまそうとお茶を飲んでいた時のことです。

「いいスーツって、どんなのだと思います?」
「えっ、いきなりカクシンだね。二度とパンツはかないって感じ?難しいね、どんなんだろう」
そこで彼はいきなりキッパリ、
「僕はモテるスーツがいいスーツだと思うんですよっ!」

体温は下がり、アゴがはずれそうになりましたが、大人を装い、最後だと思って大人しく別れました。

ずっと忘れていた出来事ですが、思い返すと、そんな安直な雑誌みたいなこと言う人と意思の疎通をはかって、よく成果があがったなぁと不思議です。
もしかしたら、すべて錯覚だったのか、あるいは最後にからかってくれたのかも知れません。一度会って確かめたいくらいです。
懐かしい記憶ですし、そこが複数の人で力を合わせる仕事の面白いところでしょうか。

皆様メールをありがとうございます、澤ホマレです。私もさらに大人になりました。

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