森岡 周のブログ

脳の講座や講演スケジュールなど・・・

皮がむけるということ

2014年07月24日 09時01分52秒 | 日記
昨日で畿央大学健康科学部理学療法学科4年生の臨床実習が終了しました。お世話になりました関係各位に深謝いたします。さて、学生の表情や振る舞い、そしてその心はどのように成長したのでしょうか。

自己は他者の脳によってつくられていく。脳科学は一人の脳の分析から複数の脳の分析という手法へと展開しています。学生達の脳は、いろんな人たちの脳、そして自分自身の日々更新される脳の影響を受けました。そして、そうした相互作用を通じて、自己意識の来歴がつくられてきました。

彼ら、彼女らにとって、社会という海は、専門知識や技術といった側面よりも、心を鍛える意味でとても大切な環境だったと思います。中でも、自己の一時的な感情を抑制し、未来にとって適切な行動をとる(背外側前頭前野)という大人の脳をつくりあげる意味でも、こうした実習はとても意味深いものです。この抑制はただ黙っているのではなく、適切な行動や言動に出る!ということです。

現代の若者は私たちの世代に比べて賢く、真面目です。けれども、真面目な反面、外からの揺らぎに対応できないこともしばしばあります。心に揺らぎをつくることは、来るべき大きな揺らぎに対応できる脳を形成する上でとても大切なプロセス(内側前頭前野の働きなど)です。

一方、学生達に接すると、楽しかったらそれでいいという風潮が少なからずともあります。一緒にやっているバンド・ライブ活動を通じても感じます。これは誰しもが経験してきました。私もとてつもないアホでした。

何かを成して行くというプロセスは、楽しさだけでは厳しく、時にそれには苦しさというプロセスがついてきます。その際、その苦しさというストレス因子と上手くつきあっていく脳(腹外側前頭前野の働き)をつくっていかなければなりません。一皮も二皮もむけるという表現は、一時的に我慢し目標を設定し直すという更新プロセスを社会という海で経験した証だと思います。

我慢するというプロセスは社会脳を形成する上でとても大事なプロセスなのですが、ここのところ、両親を代表に「恐い大人達(脅迫・強制でなく規律を重んじる)」に遭遇することが少なくなってきたようにも思えます。教育者側も友達感覚で接するような人が増えてきたのかもしれません。友達感覚で接するのは、一時的には学生のうけはよいのですが、それは互いにすぐさまの報酬を求める線条体の働きにすぎません。学生にとって厳しく、そして一線を置くという意識は、その学生の未来を思っての行動です。つまり、今、学生を楽しませるという報酬ではなく、未来の成長の図式を想定し、報酬価値を変更(眼窩前頭前野の働き)できる教育者というのが、本当の意味で重要と思います。

恩師と呼ばれるのはそういう事だと思います。卒業した何年か後に感謝されるので良いと思うのです。卒業後、彼らが真に大人になった後、母校と胸をはれる教育は「楽しさ」ではなく「厳しさ」から生まれてきたものだと思っています。

若者たちはまだ「何者でもありません」。だからこそ(未来を確実に予測できないからこそ)「夢」を持つことができます。夢を持つことはとてつもない「エネルギー」に変換できます。不確実性に生きる楽しさはそこにあります。夢を持つ若者たちを邪魔せず後押しできる「大人」であり続けるということは、今なお困難や不確実性に対して自己の身を置いている人間だと思います。だってほんとは、大人は若者大好きでしょ!?


高知の鉄板焼き屋「ミヤタヤ」のトイレ(笑)に飾られている言葉です。



徳川家康的躾

2014年07月17日 23時43分02秒 | 日記
先日、ある職場で、入職後すぐの、若い事務員の退職のエピソードを聞きました。むろん本人にもいい分もあるだろうと思いますが、所詮、そういう理由は理屈としての後付けです。脳はその前にすでに意志決定しています。理由はあとで言語として自己を防衛するためのものです。その意志決定はあまりにも「今」だけの報酬に引っ張られたものです。つまり、我慢することで報酬を先延ばしせず、今、楽になりたいという線条体に基づいた行動であるのです。

今日は理学療法学科と健康栄養学科の合同の生命倫理の授業でした。この授業はオムニバスで1回きりの授業ですが、それまでの教員の授業がどうであったか、私の授業を通じて評価しています。健康栄養学科全体の講義は今回がはじめてで、もちろん私のことなど知らないし、そして私が厳格な態度で授業にのぞんでいることも知る由がありません。

いくつか私をしらない学生による倫理を疑う態度・行動によって、私の雷が落ちたことは言うまでもありません。しかし、彼らはこれまで、そうした行動に対して、そのまま放置し、見て見ぬ振りをする大人と多くつきあっているのかもしれず、それによって、このような行動に出ているといった被害者でもあると思うのです。

学生の予測が可能な注意程度だけでは、危機的感情を揺さぶることができないし、それでは記憶にはのこりづらいです。おおよそ自己責任をとらない大人は自分の感情としての言葉でなく、三人称的に注意を払うことばを与えます。だから、彼らは不快な情動を強く起こしません。顔を見ればわかります。「怒るときは百雷がなるように怒れ!」、それによって彼らの表情を変えないといけないと私は思っています。そして、その自分自身のこころを経験し、そして我慢し、報酬を先延ばしするということを学習させなければなりません。

先に歩いている大人は、言動、表情、しぐさにて社会的行動とは何か、自己責任とは何かを身を以て教える厳格な意識を持たないといけないと思います。軽く楽しく学生と遊ぶ・勉強するだけでは、「大人」を学習させることはできないと思っています。こうしたプロセスを通じて、仕事に責任を持ち我慢できる大人がつくられていくのだと思います。

そろそろ徐々に始動

2014年07月16日 23時49分46秒 | 日記
本日は看護医療学科、理学療法学科、現代教育学科の授業日ですが、理学療法学科の授業「神経系理学療法学B」は、大学・神経系の秘密兵器の岡田洋平を先週より投入し、パーキンソン病の講義を行ってもらっています。彼の経験、知識、態度、どれをみてもミスター・パーキンソン(これをパーキンソンのキーパーソンといったりします)です。もう日本一ではないでしょうか。もちろん彼は人間性があるので、自分自身でそのようなことを思わないし、とっても謙虚なナイスガイです。ワーキングメモリは若干疑いますが。。。笑

現代教育学科も現在は脳イメージング装置の実験に入っていますので、冷水・前岡コンビで認知課題、コミュニケーション課題等、新しい研究センターで和気あいあいとやっています。授業中の笑い声が聞こえる環境、いいですよね。ということで、4月~5月はとてもハードな曜日の水曜でしたが、7月の水曜日は看護医療学科だけの授業ですので、非常に落ち着いてやれています。

今日もその授業にて、大住、若田のコンビにEEG、fNIRSのデータ採取をしてもらい、「他者の身体的痛みの共感時の脳活動」のデータをフィニッシュさせました。他人の特に親近者が痛みを受けている映像を観察すると右島皮質が活性化するといったThe 普通のデータを示したものだけでなく、海馬が活性し記憶がトラウマのように起こる者など、おもしろいデータになりました。もう一方は、女子が胸キュンする際の映像や、男子がドキッとするテレビ映像を観察しているときのデータです。面白いことに運動シミュレーションが起こっているように運動前野が働いています。ミラーニューロンシステムが作動しているのでしょうか。。

こうした実験に関する考察だけでなく、高次脳機能障害の事例や認知症の事例がキレる行動や、徘徊する問題を脳科学から分析し、あるべきケアを考えたり、自閉症の心の理論の問題を分析し、どのように関わるべきかを考えたり、運動器疼痛が慢性化したスポーツ選手の問題を脳科学から分析し、社会的な関係をどう構築すべきかを事例で検討しています。再来週にはすべてfinishさせないといけませんね。この科目も佳境に入ってますね。楽しく学んでいる表情がよいです。それもニューロリハ研究センターが与える環境だと思っています。

新しい研究センターになり、学生は常時そこで勉強しています。そして、すぐさま我々に質問にくることができる環境になっています。先生が仕事をしている横で学生が常時勉強している。良い環境に恵まれています。今日は空間性注意の概念と方向性注意の概念に関して質問を受け、前頭葉-頭頂葉-帯状回の注意システムと運動障害を伴う半球間抑制に基づく注意システムの障害について、そしてどう介入すべきかについて、そして、痙性麻痺と学習性不使用、さらには末梢組織の線維化の問題に関して、そしてそれに対する介入選択性について、数名が「腑に落ちた」ようでした。物理的に近い環境は徐々に教育的効果を示していくことでしょう。畿央大学が益々楽しみになってきました。


日本人としてのこころ

2014年07月15日 09時32分59秒 | 日記

久しぶりのブログ書き込みです。最近はfacebook記事が多くなってきました。時代の変遷でして。。


日本のサポーターのゴミを拾って持ち帰ることが世界のメディアで賞賛されていますが、私たち日本人としては何ら当たり前のことですよね。むしろ賞賛されてしまうことに違和感を感じてしまうこともあります。逆に言うと、日本人がゴミを持ち帰ったことに対して、日本人としてその日本人を「すごい」とか思ってしまっていたら、今の日本の教育はむしろだめな感いっぱいですよね。

仕事柄、外国に行く機会に恵まれると、街の汚さに閉口してしまうこともしばしばあります。先進国であろうと途上国であろうと、その変わりは大きくありません。街が朝の時間にきれいになっているのは、明け方に清掃する人の雇用が先進国では進んでいるだけです。マクドなんかそのまま食べた後のものを放置なんかは当たり前ですからね。そして、清掃の仕事に就く人たちへの偏見の意識も未だあります。階層性の間違った精神が根深いのです。

こうした違いは教育にあるのかもしれません。欧米の教育は、ある段階から自己の意識を育成し、自己主張を求め、意見交換の中で行うこともしばしばあります。こうした意識の芽生えが後のリーダーを構築していくことを前提にした教育手法です。一方、日本は「先生」からの教えを学ぶという、授業を聞くという意識・態度を涵養することが前提です。だから、日本人は主張しないと揶揄されることもしばしばありますが、むしろ、日本の教育の方向性によって、先の他人が出したゴミまでも拾うという意識を起こしたのではないかと思うのです。授業時間内は、座って黙って「我慢する」。我慢するという表現はネガティブに捉えられるかもしれませんが、今は耐え将来に蓄えるという視点では、「この心」の形成は前頭前野の発達のためには不可欠であることが近年の脳科学が示しています。だから僕の大学の授業も、「安易に」実技やワークショップには走りません。じっと座って聞くという精神の芽生えを意識しています。患者さんの声を聴く、臨床が上手く行かない時も、巷の誘惑にかられるものに飛びつかない、そういう人間を育てる意味でも。

主張する者ばかりが出てくると、中には先のことを意識せず、今だけの幸福を主張する人間が増え、いずれそれの意識によって日本がつくられてしまうかもしれません。子どもの頃でいうと、食事の間じっと座らせる、こんな何気のないことが道徳を芽生えさせ、本当の意味での自己犠牲を伴う倫理を教えてきたのではないでしょうか。

人間にはじっと耐え忍ぶ時が必要です。ワールドカップのドイツの優勝にもあるように。そして、その耐え忍び自己の心の痛みの形成こそが、他者の心の痛みをわかる人間になるわけです。ワールドカップをみていて、彼らのスポーツマンシップの心の本当の意味はそこにあると思うのです。

自己意識は他者意識がないと生まれません。自分だけでは生きていないのですから。そして無理やり、常に隣国への恐怖にさらされることで、競争・攻撃意識が高くなる欧米化する心を取り入れる必要はありません。文化を大切にした日本人を貫き、伝承すれば良いのです。

7月~8月の講演スケジュール

2014年07月03日 17時28分59秒 | インフォメーション
阪堺病院 臨床実習施設 出張講義
日 時:平成26年7月5日(土)
テーマ:疼痛に対するニューロリハビリテーション
講 師:森岡  周


合同会社geneセミナー
テーマ 痛みの脳内機構とニューロリハビリテーション~名古屋会場~
講 師 森岡 周 先生 畿央大学 健康科学部 理学療法学科 教授・理学療法士
開催日時 2014年7月6日(日) 10:00~16:00(受付9:30 ~)
会場 名古屋市中小企業振興会館 7階 メインホール 愛知県名古屋市千種区吹上2-6-3


神戸医療センター中央市民病院 臨床実習施設 出張講義
日 時:平成26年7月11日(金)
テーマ:神経科学に基づいた脳卒中リハ
講 師:森岡  周


かなえるリンク 社内研修会
テーマ 脳科学から見た社会参加の考え方
日 時 平成26年7月12日(土)16:00~17:30
講 師 森岡 周
場所 大阪市立西区民センター


トータルアプローチ研究会 研修会
テーマ 痛みに対するニューロリハアプローチ
日 時 平成26年7月20日(日)
場 所 臨床福祉専門学校(東京)
講 師 森岡  周


旭川リハビリテーション病院 特別研修会
日 時 平成26年7月26日(土)~27日(日)
テーマ 痛みに対するニューロリハビリテーション、社会脳とリハビリテーション
場 所 旭川リハビリテーション病院
講 師 森岡  周


日本理学療法士協会 理学療法士講習会
日 時:2014年8月3日(日)
テーマ:認知神経科学を取り入れた脳卒中リハビリテーション
場 所:徳島文理大学
講 師:森岡 周


福岡青洲会ニューロサイエンスセミナー
日時:2014年8月17日(日)
テーマ:高次脳機能障害に対するニューロリハビリテーション
場所:福岡青洲会病院
講師:森岡 周


合同会社geneセミナー
テーマ 神経科学から考える脳卒中リハビリテーション-運動機能回復のための臨床手続-~東京会場~
講師 森岡 周 先生 畿央大学 健康科学部 理学療法学科 教授・理学療法士
開催日時 2014年8月24日(日) 10:00~16:00(受付9:30~)
会場 株式会社 ヤクルト本社ビル(ヤクルトホール) 2階 ホール東京都港区東新橋1-1-19


第15回日本認知神経リハビリテーション学会学術集会
パネルディスカッション 新たな理解に向けた“知と臨床”の懸け橋-半側空間無視-
日時 平成26年8月31日(日)
ファシリテーター 森岡 周


第19回日本ペインリハビリテーション学会 基調講演
タイトル 疼痛に対するニューロリハビリテーションの確立に向けて
講師 森岡 周
日時 平成26年9月6日(土)7日(日)
場所 大阪産業創造館


senstyle セミナー 講演
ニューロリハビリテーションin福岡
平成26年9月14日(日)
講義時間:10:00~17:00(受付9:30開始)(仮)
講師 森岡 周,他
会場:天神クリスタルビル

畿央大学ニューロリハビリテーションセミナー応用編
平成26年9月27日(土)、28日(日)
場所   冬木記念ホール