食の歴史 by 新谷隆史ー人類史を作った食の革命

脳と食を愛する生物学者の新谷隆史です。本ブログでは人類史の礎となった様々な食の革命について考察していきます。

ムギの栽培化ー1・2人類は雑草を進化させて穀物を生み出した(5)

2019-11-27 18:18:27 | 第一章 先史時代の食の革命
ムギ類の栽培化
ここで、主要な作物の栽培化について見て行こう。まずはムギだ。

古代メソポタミアにおける主要な穀物はオオムギだった。そして、古代ギリシャにいたるまで、オオムギは西アジアとヨーロッパの庶民の主要なエネルギー源になっていた。また、オオムギは古代よりビールの原料として利用されてきた。

オオムギは約8000年前に、レバント(東部地中海沿岸地方)・南東アナトリア・メソポタミアの「肥沃な三日月地帯」と呼ばれる地域(図表4)の高原を中心に栽培化されたと考えられている。この地域は夏に雨が少なく冬に雨が多い地中海性気候だ。ムギ類は秋に発芽して晩春から初夏に新しい種子が実る「冬作物」で、地中海気候に適した植物だ。


一方、現在主要な穀物になっているコムギには複数の種類があるので、少し注意が必要だ。

現在主に食べられているコムギは「パンコムギ」だ。また、別の食用のコムギに「マカロニコムギ(デュラムコムギ)」がある。名前の通り、パンコムギはパンを作るのに適したコムギで、マカロニコムギはパスタを作るのに適したコムギだ。つまり、マカロニコムギからはふっくらとしたパンを作ることはできない。

この違いは、コムギに含まれるタンパク質の「グルテン」の性質の違いによるものだ。小麦粉に水を加えてこねると、パンコムギのグルテンは、弾力と粘りのある巨大な網目構造を形成する。パンを作る時にこの網目構造に気泡がたまることによって、独特のふっくら感が生まれる。マカロニコムギのグルテンは、この弾力と粘りに欠けている。

コムギの栽培化においては、まずマカロニコムギが約1万年前に現在のトルコ周辺で、野生のコムギからの突然変異によって生まれたと考えられている。一方、パンコムギは、マカロニコムギを野生種のタルホコムギと異種交配(交雑)させることで、約8000年前にカスピ海南岸地域で誕生したと考えられている。パンコムギの良質のグルテンは、タルホコムギから持ち込まれたものだ。

黒パンの原料となるライムギは、元々はコムギ畑の雑草であったものが、人に刈り取られないように進化を遂げた結果、栽培されるようになったものだ。つまり、ライムギは、人の目を逃れるために姿かたちを小麦に似せるとともに、非脱粒性への変化という驚くべき進化を遂げたのだ。ライムギはコムギよりも冷涼な環境に強いため、約5000年前に北欧において栽培化された。

エンバクは、現在健康食品として人気の高いオートミールの原料だ。エンバクも、コムギ畑の雑草だったものが人の目を逃れるためにコムギのように進化した結果、栽培種となったものだ。約5000年前に中央ヨーロッパで栽培化されたと考えられている。


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