イヌの家畜化
「人間の最良の友」と呼ばれるイヌと人類の付き合いは長くて深い。このイヌの家畜化を少し詳しく見て行こう。
イヌは人類が最初に家畜化した動物だ。約1万5000年前までに、オオカミを人為選択することでイヌの家畜化が始まったと考えられている。人類がまだ狩猟・採集生活を行っていた時期だ。なお、イヌが最初に家畜化された地域については、西アジア、東アジア、ヨーロッパなど諸説あり確定していない。
人類がイヌを家畜化するに至った要因の一つが、人とオオカミが獲物となる動物を奪い合うようになったからだと考えられている。
オオカミは集団で狩りをしてシカや野牛などを捕らえる。一方、イヌの家畜化が始まった頃には、人の狩りの対象もマンモスなどの大型動物からシカや野牛などにシフトしていた。その結果、人とオオカミは獲物をめぐって競合することになったのだ。
人はオオカミと身近で接することで、オオカミの優れた部分に気付いたと想像される。すなわち、オオカミには鋭い嗅覚があり、人よりも素早く獲物を見つけられる。また、獲物の追跡も得意だ。一方、人には高い知能と優秀な道具がある。もし、人とオオカミが協力できれば、人だけで狩りをするよりも、より多くの獲物をしとめることができるだろう。こうして家畜化されたのが、イヌと考えられる。
オオカミは幼いころから人の手で育てられると、人にとてもなつくことが知られている。最初はこのように、オオカミの子供を飼育するところから始めたのかもしれない。
家畜化によって、イヌにも家畜化現象が生じた。すなわち、体や脳が小さくなり、鼻の長さが短くなり、耳が垂れ、尻尾がカールした。成犬では耳が立っている品種でも、子供のときに耳が垂れている期間がオオカミより長い。
さらに、イヌとオオカミの遺伝子を比較した研究から、イヌではデンプンを消化する遺伝子の数がオオカミよりも多いことが明らかになった。イヌは人と一緒に生活するようになったことで雑食性が強まったのだろう。
人類が農耕・牧畜を開始すると、集団内での役割分担が進んだ。その結果、様々な職業が生み出されてきたと考えられる。それにともなってイヌの品種改良が進み、様々な仕事に適した大きさや外観を持つさまざまな犬種が生み出されて行く。